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経営組織論と『経営の技法』#339

CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ④習慣
 2つ目は、先にも述べましたが、習慣の問題です。組織における活動の多くは習慣的に行うものです。伝票の整理でも営業回りでも、さまざまな会議における意思決定でも組織生活をある程度過ごした人にとって、仕事の多くは基本的には習慣的な活動です。同じようなやり方や考え方で仕事は処理されていきます。全く新しい仕事でない限り、私たちは過去の仕事のやり方を踏襲しながらそれらの仕事をこなしていきます。
 そのため、変革が起こっても、これまでの習慣に則って活動を行おうとします。このような組織変革が起こり、これまでと異なるやり方や考え方が望まれるにもかかわらず、過去の習慣に則って活動してしまうことが、結果として変革への抵抗となってしまうのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』286~287頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 物理学の法則ですが、継続的に同じ運動を続けている物体には慣性が働きます。会社組織にも同様の「慣性」が働く、と言われることがあります。習慣的な動きは、会社組織全体の「慣性」の大きな原因となるでしょう。単に組織を変えられないというだけでなく、同じ言動を継続する状況ですから、実際に道路を走っている自動車のようなものです。走りながら自動車の構造を変えるような作業が必要となりますので、組織変革はより難しくなるでしょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、組織変革だけが経営者のミッションではなく、組織変革は「適切に」「儲ける」というミッションをやり遂げるためのツールの1つでしかありません。
 そして、組織に「習慣」が確立されてそれなりに安定した状態にある場合には、そのことのメリット(業務プロセスや内容が安定している、など)もありますから、「習慣」を単純に否定すれば良い、というものでもありません。「習慣」によって会社組織が安定的に走行している状況を上手に使いこなしつつ、上手に組織変更を行うことが経営者に求められます。

3.おわりに
 それまでの習慣がどうしても残ってしまう、というのが上記本文の最後に指摘されている点です。そうすると、会社組織を変革しても習慣化した運用が残ってしまうということになります。
 そうであれば、それまでの習慣までドラスティックに変革してしまってギクシャクしてしまうよりも、それまでの習慣を上手に活用できるような変革にした方が、混乱やトラブルが少なく、むしろ安定的でスムーズな移行を可能にしてくれます。組織変革という観点から見ると障害となる習慣ですが、これを上手に活用することで逆に組織変革をスムーズに行えるかもしれません。
 組織変革の際に、それまでの習慣を活用する方法も検討しましょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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