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労働判例を読む#92

【日本郵便(時給制契約社員ら)事件】東京高判H30.12.13労判1198.45

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、当連載#86(大阪高裁平31.1.24判決、労判1197.5)の事案と同様の事案で、裁判所は、大阪高裁と同様、Xの請求の一部を認容していますが、ここでは大阪高裁と異なる部分を中心に検討しましょう。

1.年末年始勤務手当など
 特に注目されるのは、年末年始勤務手当などです。
 大阪高裁は、①一般的に契約社員は忙しいときの労働力の補充のために、実際、短期間採用されるもので、むしろ年末年始にこそ働いてもらうものだから、年末年始勤務手当がないことは、一般的に合理的である、という趣旨の説明をしています。そのうえで、②とは言うものの、5年を超えて雇用される場合には、それが無期契約に転換されることも考慮すれば、(短期の戦力補充とは言えないので)合理性が無い、と判断しました。
 これに対し、本判決は、①年末年始だけの戦力補強とは言えない、と評価し、そのうえで、②全額について不合理、と判断しました。
 この点は、大阪高裁の一部認容に比較すると、程度の差のようにも見えますが、特に①の理由を見ると、両者の違いは、年末年始勤務手当などの位置付けに関し、全く逆であることがわかります。特に、本判決の1審では、会社の責任を8割としていたところ、2審では全額と変更していることから、一層顕著でしょう。すなわち、1審であれば、年末年始の戦力補強というYの言い分にも、2割程度の合理性を認めたように評価できますが、2審はYの言い分に全く耳を貸さない判断をした、と評価できるからです。

2.実務上のポイント
 郵便局の年賀状配送業務のために、年末年始の有期契約者を多く採用する、という運用が、大阪では実態として認められるのに対し、東京では認められないのでしょうか。あるいは、実態として同じだが、同じ裁判官でも評価が分かれるほど微妙な問題なのでしょうか。
 いずれも最高裁に上告されていますので、両者の違いが整理されることを期待します。
 しかし、現時点で言えることは、勤務条件の違いの合理性は、各手当の趣旨に照らし、その規定や制度の建前だけでなく、実際の運用を個別的具体的に検証して判断する点で、両者は共通しています。勤務条件の違いについて、運用の実態まで掘り下げて説明できることを、確認しておく必要があるのです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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