経営組織論と『経営の技法』#336
CHAPTER 12.4:組織変革を妨げるもの ①成功体験
組織変革は、その規模が大きくなればなるほど、能動的に進めていくことが難しくなります。過去に成功したことがある企業や強固な組織文化を持つ企業は、特に難しくなります。その理由は、第6章でも触れたように大きく2つあります。
1つは、環境の変化によって、自分たちのこれまでの組織文化や価値観が成功につながらなくなったことに気づきにくいからです。過去に成功例がない大きな企業はありません。何らかの事業の成功があったからこそ、企業は大きくなっているはずです。つまり、大きな企業は、それなりの成功のストーリーや、成功に結びついた価値観を持っているわけです。
このような成功のストーリーや価値観があることは、環境が変わり、自分たちのこれまでの成功のストーリーや価値観が環境と合わなくなっていたことを気づきにくくさせます。なぜなら、自分たちのやり方や価値観が正しいと感じていれば感じているほど、業績の悪化や成果の減少があっても正しいと感じているがゆえに、そのことが成果に悪い影響を与えているとは考えず、別の要因が成果に悪い影響を 与えていると考えてしまうからです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』285~286頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】
この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。
1.内部統制(下の正三角形)の問題
成功体験が変革を阻害することは、すでに様々な場面で議論されており一般的にも馴染みのあることです。けれども、実際に自分が当事者になると成功体験の呪縛から逃れられなくなります。
この原因は上記本文で説明されていますが、リスク対応の観点から見た場合、成功体験は会社組織のリスクセンサー機能とリスクコントロール機能を低下させることになります。つまり、上手くいっているはずという思い込みによってリスクに気付かなくなり、上手く対応できているはずという思い込みによってリスク対応が後手に回ります。
このようなリスク対応力の低下、会社組織を人体に例えた場合の免疫力の低下については、成功体験を正面から否定する方法もありますが、より根本的に重要なのは、それぞれの職場で気づくべきリスクを常に自分たちで見直し、共有しあうなど、全ての従業員がリスクへの感性を磨き続けることです。リスクへの感性はリスクに気付く「視力」のようなものだとした場合、思い込みの色眼鏡を外すことも重要ですが、色眼鏡を外しても視力自体が下がっていてはやはりリスクに気付くことができませんので、視力自体を上げることが重要になるのです。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、成功体験に縛られる組織を成功体験から解放することが経営者の果たす役割であり、経営者自身が成功体験に縛られることがあってはいけません。成功体験も重要な経験であり、資産となりますが、自らその呪縛から逃れて見せなければ、上を見ている組織の従業員たちはさらに成功体験に縛られてしまいます。
成功体験を評価したり、否定したりする、という切り分けや転換を自ら示すことが、変革の障害を取り除くための出発点となります。
3.おわりに
とは言うものの、成功体験は自信と手ごたえを与えてくれますし、1つのモデルとしてそれを応用させることで活用できる場面が沢山あります。
成功体験が是か非か、という選択の話ではなく、良い面をどこまで活用し、悪い面をどのようにコントロールしていくのか、というバランスの問題です。
※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。