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経営組織論と『経営の技法』#241

CHAPTER 10.1.1:経験による学習 ⑤能動的実験(step4)
 最後の段階は、能動的実験です。これは抽象的概念化によって生まれたルールやルーティンを実際に試してみる段階です。ただ頭の中で結論づけるだけでなく、次の行動において実験的に新しいルールやルーティンを実践することでさらなる学習が生まれます。そして、この能動的実験は、新たな具体的経験となり、再び学習のサイクルに入ることになります。
 経験による学習の最も重要な点は、経験を経験のままにしておかないということになります。組織の中ではさまざまな出来事を経験することになりますが、成功した経験であれ、失敗した経験であれ、この経験をそのままにしておけば、人々の学習はなかなか進みません。学習は個人によってなされるものでもありますが、組織における学習を促進するためには、内省を促したり、マネジャーがフィードバックをしたり、みんなで対話するようなこと、あるいは、それを次に活かすような機会、といったことが組織においては必要になると考えられるのです。
(図10-1)経験による学習と成長

図10-1

【出展:『初めての経営学 経営組織論』224頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 実際にやってみる、ということは、一度抽象化した経験やノウハウを、今度は具体化する、というプロセスでもあります。抽象化と具体化を繰り返すことで、問題点が浮かび上がってきて、よりしっかりとして安定したルールやプロセスになっていきます。具体化の際、思いがけない効用に気づく場合もあれば、思いがけない落とし穴に気づく場合もあり、それを再度抽象化するなどの方法で、ルールやプロセスがより精緻になっていくのです。
 会社組織のリスク管理の観点から見た場合、リスクに気付いたり(リスクセンサー機能)、リスクをコントロールしたり(リスクコントロール機能)する能力について、抽象化と具体化を繰り返すことによって高まっていくことになりますから、ここでの能動的実験は、リスク管理上も好ましい、と評価できます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、経営者はリスクを取ってチャレンジすることが仕事ですが、チャレンジには、多くの場合、新しいことの実験が含まれます。その際、従業員や自分自身の経験から得た教訓などを実験することは、何もない中でチャレンジする場合よりも、よりリスクが小さい(コントロールされている)と言えるでしょう。
 このように見れば、能動的実験を経営者が行う場面に関し、ガバナンス上も好ましい、と評価できます。

3.おわりに
 抽象化と具体化は、例えて言えば、グーグルマップの視点・高度を、高くする(ずっと小さくなる)場合が抽象化、低くする(ずっと大きくなる)場合が具体化、となります。神は細部に宿る、と言われる場合は、具体化のメリットが重視されており、木を見て森を見ない、と言われる場合は、抽象化の有効性や意義に対する理解不足や認識不足が問題とされています。
 経験を定着させる、という切り口の他に、抽象化と具体化、という切り口も理解してください。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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