労働判例を読む#456
【学校法人羽衣学園(羽衣国際大学)事件】(大阪地判R4.1.31労判1274.40)
※ 司法試験考査委員(労働法)
この事案は、大学教員Xが、有期契約の更新を拒絶されたことについて、①労契法18条による無期転換がなされ、あるいは②労契法19条各号による更新の期待があり、かつ、更新拒絶の合理性がない、等として、大学Yの教員の立場にあることを主張した事案です。裁判所は、Xの請求を否定しました。
1.無期転換の期間
有期契約の更新が繰り返された場合に、5年を超えれば無期契約に転換することが可能となります(労契法18条)が、大学教員の場合には、教員任期法(大学の教員等の任期に関する法律(H9法82))7条1項が適用されれば、この期間が10年となります。つまり、無期転換するためには10年間有期契約が更新されることが必要になるのです。
無期転換の5年直前に雇止めされる事態を避け、研究教育に専念できるように、ということでこの期間が延長されたようですが、本事案では、この規定が適用されたことでXの雇止めが有効となってしまいました(後述2)。なんとも皮肉な結果であり、このルール自体の合理性が検証されるべきではないか、と思われますが、本判決では、このルールが適用されるための要件(条件)が詳細に議論されています。
教員任期法7条1項の適用に関し、同様に問題となった『学校法人茶屋四郎次郎記念学園(東京福祉大学)事件』(労判1268.76)と合わせて、参考にされるべき事案です。
2.通算されるべき期間かどうか
労契法18条の適用が無いとなると、労契法19条の問題、すなわち更新拒絶の合理性の問題になります。
ここで特に注目されるポイントの1つは、期間を通算する範囲です。
Xは、専任教員になる前に非常勤講師としてYに勤務しており、その期間を通算すると、契約期間が9年になる(したがって、更新の期待がある)と主張しています。
これに対して裁判所は、非常勤講師と専任教員の勤務時間・役割・待遇に大きな相違があることを理由に、通算を前提とする更新の期待を否定しました。
この点は、『国立大学法人東北大学(雇止め)事件』(仙台地判R4.6.27労判1270.14)と同様の考え方に基づいているようです。すなわち、東北大学事件では、システム開発担当や教員のサポート業務など、有期契約を更新する際に業務内容や処遇が度々変わっていた場合に、仮に通算すれば8年であっても、これをもって更新の期待を認められない、という趣旨の判断をしているからです。
また、2つ目のポイントは、更新の期待の評価基準です。
裁判所は、更新の期待がない、とする結論部分で、Xが「たとえ主観的にその旨の期待を抱いていたとしても、合理的な理由があるものとは認められない」と述べています。更新の期待は、主観説ではなく客観説で評価される、と言えるでしょう。
3.実務上のポイント
Y側の事情としては、当該学部を廃止する予定であった(Xもそれをわかっていたはず、と裁判所が認定しています)ことがあり、X側の事情としては、介護の現場にいたところ、いくつかの教育機関で教育に関わるようになっていたが、Yの教員から誘われて非常勤講師となり、その後、専任教員となった、すなわちYへの依存度や信頼が徐々に高まっていったことがあります。Xが、労働組合に加入して教員の雇用保障をY側と交渉するなど、XとYの関係は、かなり抜き差しならない関係になっていました。
Yとしては、かなり早い段階から学部廃止や雇止めのことを伝えていたようですし、そのことがXの主張を裁判所が否定する大きな要因となっています。
けれども、結果的に訴訟に勝てた(但し、現段階では1審のみ)とはいえ、本訴訟の提起がマスコミでもそれなりに大きく取り上げたことも含めて考えれば、より適切な対応方法があったかもしれません。有期契約社員は、会社の事業の状況に応じて比較的容易に整理できる、という意味で、「バッファ」のような位置づけとされることが未だ多いようですが、その在り方や、さらにその背景となるべき会社の人事政策全般も含め、経営の観点からも、学ぶべき点の多い事案です。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!