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労働判例を読む#452

【京阪バス会(京阪バス)事件】(京都地判R4.3.30労判1273.25)

※ 司法試験考査委員(労働法)

 この事案は、会社Xらが労働組合Yを相手に訴訟を提起したもので、多くの労働判例のように労働者側が原告、会社側が被告、となっていません。当事者の表記「X」「Y」も逆になっています。Xらは、YがXやその管理職者の言動を非難する壁新聞を掲示したことについて、損害賠償の請求と謝罪文の掲載を求めましたが、裁判所はXらの請求を否定しました。

1.ルール
 ここで裁判所は、①Yの掲載した記事が、Xの管理職者らが組合員のロッカー内の財布から現金を盗んだかのような印象を与えるものであって、Xらの「社会的評価を低下させる」と評価しました。
 しかし、②この表現は、❶事実(実際にロッカーを開けてその中を確認した行為が存在する)を基礎とする意見表明であり、❷公共の利害(組合活動)に関する事実であり、❸専ら公益を図る目的(組合活動)であり、❹重要な部分(ロッカーを開けた)が真実であり、❺人身攻撃などではなく、意見表明の域を出ない(主眼は当該管理職者に懲戒処分すべきという意見の表明)、として、違法性がないと評価しました。
 特に②は、謝罪広告等請求事件(最一小判H16.7.15民集58.5.1615)に示された判断枠組み❶~❺をそのまま用いています。すなわち、表現の自由と名誉権が対立する場合に両者を調整するルールとして示された判断枠組みが、組合活動と名誉権が対立する場面に応用されたのです。
 組合活動に伴う誹謗中傷が、法的な責任を生じさせるものかどうかを判断する判断枠組みとして、参考になる判断枠組みです。

2.実務上のポイント
 判断方法については、①②の2段階ではなく、3段階で判断するものもあります。本事案と同様に労働組合の表現行為が問題とされた「首都圏青年ユニオン執行委員長ほか事件」(東京地判R2.11.13労判1246.64)がその具体例となります。
 すなわち、この参考裁判例では、①②に加え、仮に②で正当化できない場合であっても、③正当な組合活動に該当するかどうかが検討される(組合活動として許容されれば、法的責任が発生しない)、という判断方法を示したのです。
 この参考裁判例でも、結局、本判決と同様②で正当化されたので、③を示す必要性はありませんでしたが、本判決が③に言及しなかったのは、③のルールを積極的に否定するものではなさそうです。②による正当性の問題の他に、さらに③による正当性の問題も議論の余地があることを、理解しておきましょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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