見出し画像

経営組織論と『経営の技法』#274

CHAPTER 11.1.2:適応戦略-資源の相互依存度を下げる ⑤組織対応
 2つ目は、合併や買収を行い、資源を供給している組織を自分たちの組織に引き入れてしまう戦略です。自分たちにとって重要な資源を持っている組織に関しては、合併あるいは買収という手段で、自分たちの組織に取り込んでしまえば、その資源に対する依存度は変わりませんが、組織間の関係における依存性は回避することができます。
 あるいは、敵対する可能性がある利害者集団を自分の組織に取り込むことで、影響力を緩和する方法もあります。これは包摂と呼ばれます。たとえば、銀行から融資を受ける企業が銀行からの代表者を役員の1人として任命したり、大学が監督官庁である文部科学省の役人を大学の一員として受け入れたりといったように、必要な資源をコントロールしようとする組織のメンバーを受け入れることで、それらの資源の確保にかかわる不確実性を回避しようとするわけです。
 また、やや間接的な方法ですが、結託という戦略もあります。結託とは、2つ以上の組織が共通目的のために連合することを指します。たとえば、業界団体は自分たちの共通の利害のために、協働して政治に働きかけていきます。1つの組織では難しいことも、複数の組織が結託することで、依存度が高い組織に対しての影響力を回避することができるわけです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』251~252頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

2つの会社組織論の図

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 合併、買収、包摂の場合には、会社組織に変化が生じます。
 他方、結託の場合には、直ちに会社組織に変化は生じません。
 けれども、例えば監督官庁の影響力が大きい業界の場合には、監督官庁対応や、業界内の連絡対応を専門とする担当者や担当部門を作る場合が多く見かけられます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 以前#271でも検討したように、市場環境に働きかけることも経営の選択肢の一つであること、そこでは公正取引委員会などが働きかける1つの相手になり得ること、を検討しました。上記本文は、働きかける相手として、監督官庁や同業者もなり得ることを示しています。
 けれども、このような働きかけの中でも、結託については危険も孕むことに注意しましょう。
 すなわち、同業者が結託して落札価格を決めてしまうようなことになれば、談合罪(刑法96条の6・2項)という犯罪です。また、監督官庁に影響力を及ぼそうとして公務員に利便を図れば、贈賄罪(刑法198条)が成立しかねません。
 このように、結託によって市場環境に働きかける場合には、自社が市場環境を破壊する側と評価されてしまうことがないように、慎重な検討が必要です。

3.おわりに
 包摂も、一部報道では「天下り」問題として悪い制度と色付けされており、規制すべきであるとする主張が、何か問題が起こるたびに主張されています。退職した公務員の生活保障の問題もあり、なかなか規制が本格化しませんが、良かれと思って退職者を従業員として雇うと、会社側も非難されかねません。
 この点についても、慎重な検討と対応が必要です。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集