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労働判例を読む#124

今日の労働判例
【エボニック・ジャパン事件】東京地判H30.6.12労判1205.65

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、定年後再雇用を拒否された従業員Xが、会社Yとの雇用契約の継続の確認などを求めた事案です。
 裁判所は、Xの請求を概ね認めました。

1.労使協定の解釈
 定年後再雇用の条件は、労使協定で定められており、特に①「過去3年間」の人事考課結果が②「普通の水準以上」の意味が問題になりました。
 Yは、①「過去3年間」は、3年連続を意味し、②「普通の水準以上」は、平均点以上か評価点3点以上を意味する、と解釈し、Xはこれに該当しない、と判断しました。
 裁判所は、この規定の趣旨が、「特に良いとも悪いとも言えないような大半の従業員」を再雇用する趣旨、と評価し、そのうえで、②評価点3点以上とは、Yの評価基準として「期待どおり」「目標は完全に達成された」と定義するけれども、これはこの趣旨から外れる、しかも、①3年連続となると、全従業員の半数を大きく下回る、と認定しました。さらに、このような厳しい運用をすることは、事前に説明されておらず、実際にもそのように機能していない、と認定しました。
 そのうえで、①3年を通してみた場合に、②大半の従業員が達成し得る平凡な成績を広く含む、と解釈し、Xはこれに該当する、と判断しました。
 このように、労使協定について、「この文言はこのように解釈できる」という文言上の形式的な解釈ではなく、様々な解釈が可能な場合には、その中でも当該規定が設けられた背景や趣旨に沿った解釈が選択されることが、明らかになったのです。

2.法律構成
 このように、労使協定の規定によってXは、定年後再雇用の条件を満たすと評価されましたが、それによって当然に労働契約が成立する、というのではなく、労契法19条2号の適用によって、労働契約が更新された、と評価されました。
 このように、労使協定の規定だけで当然に労働契約が成立する、という法律構成ではなく、労契法19条2号の適用によって労働契約が成立する、という法律構成が採用された理由は、実はよく分かりません。裁判所も、Xが後者の法律構成しか主張していないように、Xの主張を整理しています。労使協定の中で、当然に労働契約が成立することが明示されていないからでしょうか。
 このような法律構成は、津田電気計器事件最高裁判決(最一小判平24.11.29労判1064.13)が採用したものであり、これを踏襲したもののようです。この最高裁判決は、その原審が会社に「承諾義務」がある、と判断した点について、法律構成を変更し、労契法19条2項を適用しました。
 他方、本件事案では、Yには「承諾義務」や労契法19条2項を介さず、条件が満たされれば直ちに労働契約が成立する、という法律構成が認定される余地もありそうです。つまり、この最高裁判決の示した法律構成を踏襲する必要性が本当にあったのか、検討する余地があったように思われます。
 結果的に、労働契約が更新されたことを裁判所が認定したので、この法律構成の問題は重要な問題ではなくなりましたが、定年後再雇用に関し、条件が満たされれば当然に再雇用される、というルールを定めることが禁止されているようにも思われないので、今後のルール作りやトラブルの際の議論の方法について、考慮すべきポイントになると言えそうです。

3.高年法と労契法19条2項
 このように、労契法19条2項が適用される、という法律構成が採用されたことから、高年法に労契法19条2項が適用されることの可否が問題にされました。
 特にこれを禁止すべき事情もなく、本件事案で、裁判所は適用を肯定しましたが、上記法律構成によっては、そもそも議論の対象にならない論点です。

4.実務上のポイント
 外資系企業で、人事考課基準妥結の経緯が資料として残されていない中、新たにXの上司となった者が人事考課基準の解釈を定めた、という経緯が認定されています。新たな上司が自らの実績を上げようと、人件費削減のために、厳しい解釈を選択した様子がうかがえます。
 このことが、結果的にトラブルを引き起こしたことを考えると、人事制度の背景や運用に関する記録を適切に管理しておくことの重要性が、教訓として示された事案、と評価することもできます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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