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子羊と狼と膝の上
うす暗い闇の中に椅子の背もたれが並んでいる。空いている席はなかったのだろうか。通路にしゃがんだ父の右膝に私が、左膝に妹が腰掛けたところで、これから見る2本立ての最初のアニメ、チリンの鈴がはじまった。
主人公のチリンは母親と兄弟たちと牧場で楽しく暮らしていたが、ある晩、森に住む狼のウォーに家族を皆殺しにされてしまう。復讐をするためにチリンは仇であるウォーにつきまとい弟子入りをする。厳しい修行に耐えながら隙を狙って倒そうとするも全く相手にされない。月日は流れ、ウォーはチリンに森での生き方を教え、チリンは狼として行動するようになっていた。ある晩、修行の仕上げとして暮らしていた牧場を襲うことになった。怯える羊たちを前に家族を皆殺しにされたこと、仇をうつという最初の目的を思い出しウォーに挑むチリン。ウォーはチリンに抗わず倒される。みんなを守ったチリンは仲間のもとに戻ったが、怖がられ拒否されてしまう。森の中ひとりぼっちになってしまったチリンが水溜まりを覗くと、羊でもなければ狼でもない自分の姿が映っていた。
というのがくっきりと記憶していた部分と、記憶の捏造があった部分をネット検索により修正し繋ぎ合わせたあらすじだ。 「チリンをこどものように思っていたからウォーはやられたんだね」とか、「なにものでもないって、なんとも言えず孤独だね」とか今なら言葉にできるけれど、当時の私はただひたすら受け取り打ちのめされていた。
2本目を見るときは椅子に座っていた。いつ父の膝から下ろされたのか覚えていない。無理な態勢で足がしびれただろう。子羊と狼の後は親子のネズミの話しだった。
今、あの映画館のあった場所にはパチンコ屋さんが建っている。良く連れて行ってもらったのに、いつ壊されたのかもわからない。
チリンのことは今もずっと心にある。羊でもなければ狼でもない。深い森の奥でたったひとり。