補聴器を10年使ってみて
わたしは、両耳40〜65dB(デジベル)、中度の感音性難聴だ。高音域ほどきこえにくい。
感音性難聴は、脳内の内耳や中枢の聴神経に障害がある場合に起こる。薬物療法が難しく、そのため、補聴器などで聴力を補い、生活する人もいる。
10年前、わたしは日常生活での会話にも困るようになり、補聴器をつけ始めた。 それから、耳掛け式の補聴器をずっと使用している。今の補聴器は2代目だ。
補聴器使用10年を過ぎた節目に、一個人として、今までのことをまとめてみたい。
まず、補聴器は、きくことに訓練を要する。つけたら、「自然にきこえる」わけではない。「なんでも人並みにきこえる」わけでもない。補聴器はあくまで、きこえを補うものだ。
わたしは、補聴器をつけ始めたとき、生活音(換気扇、エアコン、雑踏での音など)がきこえ過ぎて、頭が痛くなった。普段きこえない音が、あちこちでしていて、つい、それをきいてしまい、疲れてしまうのだ。
対処法は、その生活音がどこでしているかを認識すること。そうすると、音が気にならなくなってくる。これは、販売店の方から教えていただいた。
また、補聴器の進化で、ある程度、この生活音を抑えることができるようになってきている。それでも、慣れが必要だ。
補聴器を使いたての方が、うるさいと使用をやめてしまうことがあるときく。それは、わがままではなく、こういう理由があるのではないかと思う。
最初、わたしは生活音に慣れるため、静かな場所で、短時間だけ補聴器を使い、それから、ゆっくりと装着時間を増やしていった。
次に、雑踏などにもチャレンジし、賑やかな場所でも、補聴器に慣れていくようにした。装置時間も徐々に増やしていく。
うるさいといえば、補聴器の耳栓が、耳穴にしっかりとはまっていないときに、ハウリング(音漏れ)が起こることがある。ピーと甲高い音がする。これは、とても耳障りだ。
耳の穴の型を取り、オーダーメイドの耳栓(イヤーモールド)で、しっかりと隙間なく装着すると、ハウリングはしにくくなる。補聴器が耳から外れやすい人にもいいようだ。
補聴器のきこえに慣れたころ、常に耳に補聴器をかけるため、耳裏の皮膚が赤くなった。汗をかきやすく、こまめに拭いていたのだが、かえってそれが皮膚にダメージを与えてしまったらしい。こまめに拭くことをやめたら、皮膚トラブルはなくなった。補聴器を汗から守るカバーもあるが、面倒で使わなかった。
そうしたら、汗かきのわたし、結局、補聴器は早々と故障してしまった。やはり、湿気は大敵だ。補聴器には、保証期間がある。お店で代わりの補聴器を貸してもらい、自分のものは修理してもらった。
それから、しっかりと補聴器を乾燥させる専用の乾燥機を使うようになり、最初の一年目以降、故障はない。補聴器の長持ちのコツは、とにかく乾燥をしっかりすることだと思う。
というわけで、湿気の多い梅雨時は、要注意!わたしは梅雨入り前に、お店で補聴器点検と、しっかり乾燥をしてもらうことにしている。
また、冬の寒い時期には、補聴器が結露することもある。結露すると、補聴器は役目を果たしてくれない。補聴器の管に縫い糸を入れると、結露を防ぐことができる。自分ではできないため、お店でお願いすることになる。
また、補聴器の電池は、補聴器専用のボタン電池。ボタン電池は小さく、転がりやすい。使用時間が長いと、頻繁に交換が必要になるため、ご高齢の方には、取り扱いが難しいのではと感じる。最近、充電式の補聴器も出てきていて、わたしはそちらも気になっている。
補聴器の使用年数は、5年くらいとされているようだが、もう少し長く使いたいものだ。高額なため、買い替えには慎重にならざるを得ない。わたしは前の補聴器を7年使用した。今もいざというときのスペアとして、保管している。
補聴器使用を考えてみえる方には、補聴器専門店での購入をおすすめしたい。その人その人のきこえに合わせて、細やかにカスタマイズしてもらえるからだ。アフターサービスがきちんとしているところがいい。
補聴器使用中のきこえの低下は、病的なものからも、補聴器の不具合からも起こる。わたしは、耳鼻科と提携している販売店でお世話になっている。年に一回、耳鼻科で診察を受け、3ヶ月に一度、お店で補聴器チェックを受ける。
補聴器に慣れるまで、少し大変だったが、その後の生活では、わたしの良き相棒として、大活躍してくれている。
補聴器のおかげで、会話が怖くなくなった。電話はやはり苦手だが、それでもききとりは、ぐんと楽になった。
新しい世界が目の前に広がるように感じた。薄っぺらだった音が厚みをもって、複雑にきこえてくる。きこえないから、とあきらめていたことが、またできるようになった。周りに迷惑をかけることも減って、申し訳なく思わずに、済むようになった。
10年前。耳がだんだんときこえなくなっていくだろうと、覚悟した。やけっぱちにもなった。世界から取り残されたみたいに、孤独を感じた。聴力の低下がどう進行していくのか、さっぱりわからず、不安になった。
それを受け入れるしかないのに、なかなか受け入れられない。補聴器を手に入れて、それからは、音を味わうように、愛おしく、きくようになった。いつかなくなると思うと、大事にききたいと思った。あの音を、あの声を覚えていたい。いつかのために、手話を学んだ。子どもたちも覚えてくれた。
けれど、10年が経った今、聴力はほぼ横ばいで、安定している。それどころか、知らぬ間に、ききとりが困難な高音域が、5 dBほど、きこえが良くなっていた。補聴器で音を拾えるようになり、衰えていた聴神経が鍛えられ、結果、きこえがちょっぴり良くなったらしい。
これは、本当にうれしいことだった。衰えていくばかりでなく、わたしはまだ回復することもできるんだと、思った。先々のこと、どうしても悪く想像しがちだが、良いことも同じくらい起こる可能性があるんだと気がついた。
そういうわけで、きこえに悩まれてみえる方は、一度補聴器をお試しされたら、と思う。
難聴と診断されてから35年が経つ。ようやく、最近、難聴の自分を受け入れられたようだ。
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きこえの低下は、本人にはわかりにくいこともあります。周りのご家族、ご友人に、もし、きこえていないかなという方がみえたら、早めに病院に行くことを、おすすめしてほしいと思います。難聴に早々と気づき、治療を始めたら、聴力が回復することもあるからです。
どの方も、きこえに困らず、楽しくコミニケーションがとれる世界になりますように!また、難聴者に、いつもご配慮くださる方々に、深く感謝しております。本当にありがとうございます!
ご質問等がありましたら、お気軽にコメント欄に!
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