しおりはお守り
本に挟んである、フェルトでできている黒ねこのしおり。オレンジの糸で目、口、ひげが刺しゅうされていて、頭に赤いリボンを乗せている。
ふれるともふりとやわらかく、見ているだけで癒しとなるわたしのお気に入りだ。
娘が10才のとき、本を読むのが好きなわたしのために作ってくれた。それからは、本の世界へ旅するわたしの相棒。
娘が9歳になるころまで、わたしは娘を叱ってばかりいた。ちっともわたしのいうことを聞かないし、好きなことしかやらない子だと勘違いしていたのだ。
「ママはあなたのことがわからないときがあるよ。どうしてこうしようと思ったの?」
「えーとね、えーとね……。」
娘のたどたどしい言葉に何度も耳を傾けたら、娘の行動の意味がなんとなくわかってきた。娘にはしっかりとした意志があり、それがわたしとは違っているだけだと。
それをわたし方式にねじ曲げようとしていたこともわかり、自分の考えの狭さやクセを痛感。いたく反省したわたし。
叱ることをやめて話を聞くようになってから、娘は生き生きと自分を表現するようになった。やらなければならないことも、好きなことに関連付けてやれるようになり、周りの子にも娘らしさを受け入れてもらえているようだった。
そうして娘は、わたしに向かってだんだんしゃべるようになり、おさいほうを教えてと甘えてくるようになった。
驚くことに、初めから針の糸通しや玉止めを楽々こなし、そのうちにお手玉、ミニポーチ、お財布といろいろ作るようにまで。ねこのしおりも楽しみながら、ちくちくと縫ってくれたのだった。
もう娘は成人まぢか。
自分らしさを芯にして、のびのびと育ってくれた。娘のおかげでわたしの思考の幅も広がり、違う考え方も受け入れられるようになったのではないかと思っている。
以前は子どもを育てあげなくちゃという思いばかり強かったけれど、今は一緒に育っていこうという姿勢。子育てで子どもを叱ることなんて、ほとんど必要なかったのだと今更気づく。
けれどやっぱりごくたまに、ガミガミかあちゃんが顔を出しそうなときだってある。
そういうときには、ねこのしおりが教えてくれる。
「まずは子どもの言葉を聞くこと。」
しおりはわたしのお守りだ。