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『ジョイランド』遊園地×ミステリー×ひと夏の恋

本の読後感を言語化したくて、綴ってみることにした。

実は、翻訳文学は苦手である。
独特の言い回しに馴染めないし、
カタカナの登場人物が次から次へと出てくると混乱する。
(こう考えると、日本語の漢字やひらがな表記を、意味とリンクさせて登場人物名を覚えていたことに気づかされる)
だから、極力避けてきた。

そんな自分とこの本の出会いについては、
最後に綴らせてほしい。

ということでさっそく、本題へ。

登場人物の設定や、主人公の成長にワクワクする

主人公のデヴィン・ジョーンズは大学生。
彼女のウェンディ・キーガンとの親密度はいまひとつで、
「あれ」ができていないことを気にかけている。
そんな彼女が夏の間、遠くにアルバイトに行ってしまうという。
うまくいかない彼女との関係にモヤモヤしたデヴは、
現実逃避といった感覚で
「楽しさの象徴」=遊園地、ジョイランドにて
住み込みで夏のアルバイトをする。

そこで出会う同じく大学生のアルバイト、
トム・ケネディとエリン・クック。
デヴ当人も合わせて3人組。
この男子2人女子1人のトリオ構成がハリポタを彷彿させて、面白い。
占いの館で仕事をするロジー・ゴールド(芸名:マダム・フォルトゥナ)。
彼女の言うことは出鱈目だとみんなから軽視されているが、実は彼女は「本物」。
第一印象からデヴの心を鷲掴みにして離さない、観覧車操作の担当のレイン・ハーディ、
射的馬担当のアレン親父、
お化け屋敷担当のエディ・パークス、
人事担当のフレディ・ディーン、
ジョイランドのオーナー、ブラッドリー・イースターブルック、
下宿屋の主人であるエマリーナ・ショップロウ。
など、遊園地メンバーだけでも濃いキャラクターが勢揃い。

主人公がアトラクションの操作技術を身につけたり、
「毛皮」と呼ばれる着ぐるみで「ハウイー」という犬を演じたり、
(私は特にこのハウイーのエピソードが好き)
徐々にデヴをみんなが認め、好きなっていく様子が見ていて楽しいし、
デヴが遊園地に溶け込み、成長していく様子を追うのが頼もしい!
しかもデヴは、この遊園地で二人の人の命を救うことになる。
そのエピソードのつながりが、また面白い。


一つ一つのエピソードのつながり、構成が秀逸

この作品の核となるエピソードの一つが、
楽しさの聖地であるはずの遊園地で語られている、
お化け屋敷で行われた不可解な殺人事件。

休息日にお化け屋敷に入ったデヴ・トム・エリンの三人組。
そこでトムは、被害者のリンダ・グレイの幽霊を見たという。
トムの彼女であるエリンはそのトムの様子を見て激しく動揺し、
夏のアルバイトの終了後に大学に戻って独自調査を始める。

アトラクション操作、お化け屋敷での出来事、
ハウイーの毛皮、デヴによる二人の救出劇、
そして台風の中での止まらずに回り続ける観覧車のゴンドラの中、殺人犯との対決!!
この終盤の対決は特にスリルと緊迫感に満ちていて、凄まじい舞台設定だと思う。

また、
きっとこの人が犯人!
と思っていたのに、実はいい人であるパターン。
ベタな中に、この作品「ならでは」の展開に。
「坊主」という呼び方でわかる、
ここまで読み進めた読者をちょっと喜ばせてくれるような
「“通な”つながり」。
あっ、あの人か、という。



そして、後半に登場する母と息子(と犬!)。
息子の名前はマイク。母親の名前はアニー。
犬の名前はマイロ。
この三人(二人と一頭)が登場することで、
物語は新たなる展開、深みへと向かう。
この、マイク×凧×観覧車 という構成が本当に秀逸なので、
ぜひ最後まで読んでもらって
「つながり」「(伏線?)回収」に心震わせてもらいたい。
“ぼく、飛んでるよ”。
この言葉を大切に、胸に抱きながら。

父親との隔絶に苦しみ、
子育てにも絶望しているアニーが、
思いがけない形で特技を発揮し、活躍して脚光を浴びる姿も、
つい彼女に感情移入してしまう読者としては、
「心地よい」ポイントの一つになると思う。
(前述の“通な”つながりに気づいた時と同じ感覚になる。ここまで読んでていてよかった!!って思える。)



ひと夏の恋

この作品に出てくる女性は、どの人物も非常に魅力的だと感じる。
女性描写が特に好きだ。
ウェンディへの失恋から傷心的なデヴだったが、
思いがけない「出会い」を果たす。

これは、「恋」というのだろうか?
互いの埋まらない「何か」を満たすために、
彼らはワンナイトをともにする。
(そういう意味だと、自分は解釈した)

その「心の距離」を近づける描写が、これもまた絶妙で、たまらない。

夏の遊園地で、そしてその近くのビーチサイドで、運命の出会い。
(ある意味、「運命の出会い」だったと思う)
ロマンチックの極みである舞台の設定。
やっぱり、嵐の観覧車同様、
舞台設定がすごい。
時にスリル、時にロマン。
それを演出する格好の条件をそろえている
と感じる。



「遊園地」に対する愛を感じさせる

ジョイランドには「トーク」というアトラクション独特の語りのようなものが存在する。
また、ジョイランドで働く人物たちから「見世物筋」という言葉が割と高い頻度で登場する。
これは、「エンターテイメント」という感覚で自分は解釈しているが、
いずれも「客を楽しませる」という共通点があるのではないかと思う。

客の別称があったり、人がたくさんいる状態、休憩室といったものにも別称があったり、
遊園地の中の人同士で使う「用語」がある。
それがまた遊園地という舞台にリアリティを与えていると思うし
(実際遊園地にそういう用語があるのか、働いたことがないためわからないが)
特に「見世物筋」という感覚、マインドといった部分は
著者が特に大切にしている言葉であるように感じた。
そういった全てを含めて、
「遊園地」という場所に対する愛を感じた。


まとめ、本との出会いのススメ

以上、
あまり多くのことを具体的に語りすぎると読む楽しさが減ってしまうと思うので、
そこを意識しながらも、思いが伝わるように綴ったつもりだ。
この作品の特に素晴らしいと思う部分をまとめると、

・「見世物筋」エンターテイメントというテーマ性

・構成のつながり、主人公×登場人物のつながり、
 その他の登場人物同士のつながり

・思いがけない掛け合わせ(◯◯×◯◯×◯◯)

・舞台設定

といえると私は思う。

この本とは池袋の「梟書茶房」と出会った。
本屋なのだが、
全ての本にカバーがついていて
それぞれに通し番号と短いコメントがついている。
そのコメントや「◯◯度⭐︎いくつ」、といった説明だけを読んで
購入する本を決める。
レトロでお洒落な雰囲気の喫茶店も併設されている。

そんな経緯で、
翻訳文学が苦手な私がこの本を手に取ることとなったのだ。
自分では絶対に選ばないジャンルの作品。
梟書茶房での本との出会いは、
そんな思いがけない形で自分の世界を広げてくれるのが、楽しい。
今までにない読書体験をしてみたい人に、ぜひおすすめしたい。
読書が苦手な人も、◯◯度を基準に本を選んでみるのもいいと思う。

今回読んだのは
『ジョイランド』スティーヴン・キングの作品である。
私も名前は聞いたことのある著者だ。
有名な『スタンド・バイ・ミー』の著者でもあるそうで。
これは名前が有名すぎる作品。
でも全く読んだことがないので、読んでみよう。
積ん読がすごいことになっているので
(梟書茶房で買った本も、まだ4冊残っている…しかも開けてない)
先になるかもしれないが。
つまりこのレビューは、スティーヴン・キング初心者が書いたものである。
ぜひお手柔らかに見ていただきたい。

ということで、初めての本の読後ブログでした!
今回も最後までお読みいただき、
ありがとうございました!

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