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【映画感想】「怪物」と、銀河鉄道の夜

これまでの人生において、感情の状態が分からないまま
「美しい」と言う理由で涙が止まらなくなった経験は少ない。

是枝裕和監督の映画「怪物」は自分にとって、最も美しい映画の一つ。

カムパネルラとジョバンニ

私が抱いたその感情は、
この脚本が私が最も好きな小説である宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をオマージュされているということにも起因すると感じる。


湊と依里という2人の少年には、「銀河鉄道の夜」におけるジョバンニとカンパネルラの像が重なる(どちらにも2人其々の像が少しずつ入っていると思う)。

銀河鉄道の夜では、ラストシーンで、
これまでの2人の冒険がカンパネルラが天国へ向かうための旅であったことが明かされる。

それを引用しているこの映画後半では、2人に危うい死の匂いが付き纏う。

しかし最終盤、
「生まれ変わりなんてない。(僕たちは)そのままでいいんだよ」
「そっか。よかった!」と、2人は
世界のやりなおし”ビッグクランチ”が起こった事を悟る。

鳥籠から飛び立つ


これまで2人の周りを取り囲っていた大人達の「普通」や「幸せの定義」などといった狭い鳥籠から解放されたかのように、自由に草原を羽ばたいていく。

そこには「死の影」など微塵もなかった。
ただただ、理想郷イーハトーヴのような美しい光景が広がっていた。

2人が生まれ変わる必要なんてなかった。

2人を縛る世界そのものを転生させるのだ。
この映画には、その力があると信じる。

あの子たちが野を走り回る姿をずっと観ていたい、そんな気持ちをずっと胸に抱いている。

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