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なぜ、オンライン授業は《出席扱い》にならないのか?

オンライン授業は《出席扱い》にならない

 全国的に新型コロナウイルスの感染再拡大が続くなかで、臨時休業になった学校や学級では、オンラインによる授業を行うところが増えています。
 ICT環境の整備状況や教職員への支援体制の違いなどから、その取組には自治体や学校ごとに差があるものの、2020年の3月から5月にかけて全国一斉の臨時休校があった際に、オンライン授業を実施した自治体や学校が極めて少なかったことに比べれば、確実に前進をしていると言えるでしょう。

オンライン授業

 しかし、文部科学省では、オンライン授業に参加した児童生徒の出欠席については《出席停止・忌引き等の日数》として扱い、《出席すべき日数》からは除外をするとしています。
 なぜ、オンライン授業は《出席扱い》にならないのでしょうか?
 まず、いくつかの場合に分けて、その根拠を明らかにしていきたいと思います。

〇休校や学級閉鎖などの際、一斉にオンライン授業が行われる場合
〇平常時にオンライン授業が行われる場合
〇登校かオンラインかを選択する場合に、オンライン授業を選んだ場合

臨時休業は《出席を要しない日》

 感染症の流行などによる非常時の場合、学校保健安全法第20条の規定によって、学校は休校や学級閉鎖などの臨時休業となります。また、臨時休業になった日は、この法律で《出席を要しない日》という位置づけになり、その場合に児童生徒は、出席簿上で《出席停止》として扱われることも定められています。
 また、文部科学省では、臨時休業の際のオンライン授業を「正規の授業ではなく、《出席停止》になった児童生徒に対する《学習保障》の手段の一つ」だと捉えているのです。言いかえれば、「《出席を要しない日》なのだから、そもそも《出席扱い》にはなり得ない」というのが文部科学省の基本的な考え方だと言えるでしょう。
 この考え方は、分散登校による《在宅》に割り当てられた日にオンライン授業へ参加した場合にも当てはめられます。

《受信側》にも教員が必要

 次に、平常時、すなわち《出席を要する日》のオンライン授業はどのような扱いになっているのでしょうか? 
 これまでは通信制の高等学校などを除けば、《出席を要する日》にオンライン授業を行うことはイメージがしにくかったと思います。しかし、離れた学校同士がインターネットを介して合同で授業を行う「遠隔授業」については、すでに中学校での実証研究や特例校による実践が進められてきています。
 文部科学省では、「遠隔授業」が成立する条件として次のことを挙げています。

〇原則として、遠隔授業の場合には、送信側だけでなく受信側にも、その学校種や教科に応じた教員免許状を持った教員がいる必要がある。

 学校で児童生徒に対して授業を行うためには、それぞれの学校種や担当教科に応じた教員免許状が必要です。教育職員免許法第三条で「教育職員は、この法律により授与する各相当の免許状を有する者でなければならない。」と定められており、「相当免許状主義」と呼ばれています。これは、無免許で自動車の運転をすることができないことや、普通免許では大型車の運転ができないことと似ているでしょう。
 ただし、最近になって、「遠隔授業」における「教科に応じた教員免許状」に関して、受信側については「同じ学校種の免許であれば、他の教科でもよい」と緩和されました。もともと、こうした「遠隔授業」は、学校規模が小さいために全教科の教員が揃っておらず、免許外の教員による授業が常態化している中学校等に対して、当該教科の免許を持っている教員が遠隔地から支援をするケースなどを想定しているため、当然のことだとも言えるでしょう。
 ちなみに、企業や官公庁、NPOの関係者などが、ゲスト・ティーチャーとして学校で授業を行う場合には、当人が教員免許状を持っていなくても、担任の教諭など当該の免許状を持っている教員が一緒にいるのであれば、教えることに問題はないとされています。 

オンライン授業でも…

 こうした「遠隔授業」に対する文部科学省の考え方を、オンライン授業や、登校かオンラインかを選択するハイブリッド型授業に当てはめると、送信側(教室等)に「教員免許状を持った教員」がいるだけでは不十分で、受信側(児童生徒の自宅等)にも教員がいなければ授業としての条件を満たすことができません。授業ではない以上、《出席》とも認められないことになります。
 ただし、臨時休業のときのような非常時ではありませんが、文部科学省の通知によると《欠席》ではなく《出席停止》の扱いになります。
 現在の小中学校で《出席を要する日》に一斉のオンライン授業を行うことは想定しづらいですが、仮に在籍40名のクラスで、正規の授業として扱われるようにオンライン授業をやろうとすれば、送信側の教室だけではなく、それぞれの児童生徒の家庭にのべ40人の教員を配置しなければ成立しません。事実上、これは不可能です。そもそも、これだけの人数の教員を集めることができるのならば、オンライン授業ではなく、各家庭を訪問してマンツーマンで授業をやればいいという話になってしまいます。
 また、ハイブリッド型の授業で、感染症への不安などから結果的に全員がオンラインを選択した場合には、《出席を要する日》であるため、理屈のうえでは「出席者はゼロ。全員が出席停止」という扱いになるでしょう。

同じ空間にいることが必要?

 教育職員免許法が制定されたのは、今から70年以上前の1949年のことです。当然、「教員と児童生徒が、教室という同じ空間にいる」ことを前提としており、教員とそれぞれの児童生徒が別々の空間にいるオンライン授業のことなど、想像すらできなかったことでしょう。
 もちろん、一口にオンライン授業とは言っても、動画などの視聴をするだけの「一方通行」の授業の場合には、児童生徒の学習状況を送信側から把握したり、個別に受け答えをしたりすることが困難なため、受信側にも教員が必要だとされる理由も理解できなくはありません。
 しかし、最近では同時双方向のテレビ会議機能をもったアプリの急速な普及などもあり、物理的には離れていても、課題の提示や回答の提出をしたり、教員と児童生徒が対話をしたり、グループで討議をしたりするなど、同じ空間にいるような授業を展開することが可能になっています。
 ハイブリッド型の授業では、教室にいる児童生徒と自宅にいる児童生徒とが、画面を介して一緒に学び合うという場面も珍しくありません。インターネットを利用した仮想のものではありますが、「教員と児童生徒が、教室という同じ空間にいる」と言っても言い過ぎではないでしょう。けれども、現状では教室にいる生徒は《出席》、オンラインの場合には《出席停止》という扱いになります。
 なお、高等学校に関しては、2015年4月に「受信側に当該教科の免許状を持った教員がいなくても、同時双方向型の遠隔授業を行うことができる」と改められました。これは、すでに通信制の高等学校が存在するなど、義務教育段階の小中学校とは大きく事情が異なっていることが背景にあります。また、大学教育に関しては、もともと教員免許が不要です。

「出席」ではないが「欠席」でもない

《出席停止》は《欠席》ではありません。前述したように、《出席停止・忌引き等の日数》は《出席を要する日数》から除外されるため、欠席日数には含まれません。一般的な風邪や体調不良で学校を休むと《欠席》になりますが、インフルエンザや麻疹、水痘などの感染症で休んだ場合には《出席停止・忌引き等の日数》として数えられ、授業日数にも欠席日数にも含まれないのと同じ扱いです。
 昭和の時代には、1年間で1日も学校を休まなかった児童生徒を「皆勤賞」として表彰するという学校文化がありましたが、今ではそうした話も聞きません。《出席扱い》にならないからといって目くじらを立てなくてもいいのではないか、という声も聞こえてきそうですが、そうも言ってはいられません。
 オンライン授業に参加をした日が《出席停止・忌引き等》として扱われ、全体の出席日数が減ることにより、中学校や高校の入試などで不利になるのではないかという不安が受験生や保護者の間にはあるようです。
 このことに関して文部科学省は、2021年9月10日付で「高等学校や中学校の入試で、受験生が出席日数などで不利益を被らないよう配慮すること」を全国の教育委員会や学校法人に要請しています。しかし、受験生やその保護者にとって入試の選抜基準はブラックボックスのようなものです。この通知だけで不安を完全に拭い去ることは難しいでしょう。
 また、同年10月22日、同省は事務連絡で「オンライン授業に参加した日数が指導要録上で『出席停止・忌引等の日数』という名称で扱われていることが、保護者や児童生徒に不安を与えている」として、その名称を各自治体の判断で変更してもよいと通知しました。けれども、問題の本質はその名称にあるわけではないと感じます。
 一方、こうした問題とは別に、「どうせ《出席扱い》にはならないのだから」という理由で、オンライン授業に参加をする児童生徒や、その準備・運営に携わる教職員の意欲を損なってしまうのではないかという懸念もあります。

授業としては認められる?

 現在のところ《出席扱い》にはならないオンライン授業ですが、文部科学省は2021年2月19日付の通知で、感染症や災害などの非常時に登校できない児童生徒に対する学習指導について、「オンラインを活用した学習指導を特例の授業として認め、十分な学習内容の定着が見られれば、再度の対面指導は不要」だと示しました。《出席》とは認めていないが、特例とは言え、授業として認めていると受け取れる内容です。
 また、学習評価の対象にすることもできるとされているため、その履歴を残しておく必要があることから、「同時双方向型のオンラインなどで学習指導を行った場合には、指導要録に記載をする」ように求めました。通常の学習履歴を記載する指導要録とは別に、「別記」と呼ばれる新たな書式を作成し、児童生徒が登校できない事由、オンラインを活用した特例の授業の日数と参加した日数、オンライン授業の実施方法などを記載することとしたのです(下図参照)。

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中学校生徒指導要領・別記の書式

 しかし、小中学校の教員からは「事務が煩雑になった」「負担が増えた」という声も聞かれます。また、全国各地の自治体や学校では、出席簿や指導要録をはじめとする帳票類を電算化するために「校務支援システム」の導入を進めていますが、新たな帳票を作成するための対応も必要となりました。
 コロナ禍が長期化するなかで、感染対策、授業の在り方、行事、部活動などの度重なる見直しを図ったり、教室内外の消毒作業や健康観察の徹底に取り組んだりするために、教職員の心身の疲労は通常時とは比べものになりません。その負担をさらに増やすことがないように願いたいものです。

例外はある

 ここまで、オンライン授業で《出席扱い》になるためには、受信側にも教員が必要であることについて述べてきました。けれども、例外もあります。それは、病気療養児や不登校児童生徒を対象にした授業の場合です。
 病気療養児については、2018年9月20日付の文部科学省通知「小・中学校段階における病気療養児に対する同時双方向型授業配信を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について」で、病院や自宅で行われるオンライン授業に関して、「校長は、指導要録上出席扱いとすること及びその成果を当該教科等の評価に反映することができることとする。」と示されています。また、受信側の体制についても「保護者、保護者や教育委員会等が契約する医療・福祉関係者等」がいれば可能であるとし、教員の立ち会いは求めておらず、現実的な内容になっています。
 一方、2019年10月25日付の文部科学省通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」では、不登校の児童生徒を対象にしたオンライン授業に関しても、一定の条件を満たせば「校長は指導要録上出席扱いとすることができる」とされています。
 2020年の3月から5月にかけて、全国一斉に臨時休校の措置が取られた際、オンライン授業を試行した学校の一部で、不登校中の児童生徒がそこに参加をして話題になったことがありました。オンラインであることが心理的なハードルを下げたのかもしれません。学校が再開された後も、オンラインで授業に参加する児童生徒は増えています(下のグラフを参照)。

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 しかし、不登校中の児童生徒がハイブリッド型の授業にオンラインで参加をすれば《出席》になるという配慮があるのに対して、別の児童生徒が感染症への不安などからオンライン授業を選んだ場合には《出席停止》として扱われることについては、「整合性を欠いている」という意見が少なくありません。 

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 「令和の日本型学校教育」のなかで「学校で学びたくても学べない児童生徒への遠隔・オンライン教育の活用」を掲げ、病気療養児や不登校の児童生徒については《出席扱い》と認めながら、感染症への不安によって登校を控える児童生徒を対象から除外するのであれば、そこには矛盾があると言わざるを得ないでしょう。

柔軟な解釈によって…

 SNS上などでは、「病気療養児や不登校児童生徒に対する例外規定を、コロナ禍でのオンライン授業にも適用し、《出席扱い》にしてほしい」と、教育委員会や学校に対して柔軟な対応を求める声が少なくありません。こうした声も踏まえてか、実際にオンライン授業を《出席扱い》にしている自治体もあります。
 大阪府寝屋川市は、2021年4月23日付の通知で「感染拡大により、登校に不安を感じる場合は、自宅での学習を選択することが可能です。その場合でも、全ての子どもたちに配備したタブレットを活用し、授業をライブ配信します。『授業のライブ配信』を視聴し、一定の要件(課題の提出、家庭と学校との連携 等)を満たした場合は、『出席』扱いとします。」と示しています。
 また、福岡市や熊本市などでも、感染症への不安等で登校できない児童生徒に対してオンライン授業を行い、《出席扱い》にするとしています。これらの自治体では、「感染症に対する不安等で登校できない」という状況に対して、不登校の場合の例外規定を適用することにより、オンライン授業を《出席扱い》にしていると言えるようです。
 ただし、これらは《出席を要する日》にハイブリッド型の授業や「ライブ配信」が行われた場合のことであり、臨時休業となった《出席を要さない日》のオンライン授業を《出席扱い》にすることは、文部科学省が現在の枠組みを変えないかぎりは難しいと言えます。

「パンドラの箱」を開けてしまう?

 萩生田光一文部科学大臣(当時)は、2020年10月9日の記者会見で、オンライン授業の在り方について、「原則として、児童や生徒のそばに教員が同席することが必要である」「学校教育では対面、集団での学びや、リアルな体験を通じて、思考力や判断力、人間性を育てる必要がある。一人一人に適切な指導をするためには、児童・生徒のそばに教員がいる必要があり、教員がいない指導が対面授業に代替できるとは、現段階では考えていない」と述べました。これが現段階における文部科学省の見解ということになるでしょう。
 しかし、2021年9月29日に開催された政府の「規制改革推進会議 子育て・教育・働き方ワーキンググループ(WG)」の第2回会合で、一部の委員から「病気療養などで一定の要件を満たす場合には出席扱いとなる一方で、オンライン授業が出席停止扱いになるのは理解しづらい」との声が上がりました。 
 さらに、同年11月17日に行われた規制改革推進会議WGの第5回会合では、再びオンライン授業について議論があり、現行の《出席停止等》とする扱いについて、改めて「納得できない」という意見が出されました。
 それに対して文部科学省の担当者は、オンライン授業の実施状況に地域差があることや、学校の福祉的な機能について考慮をする必要があることを理由に、当面は現行の対応を堅持するという考えを示しました。
 文部科学省が対面授業にこだわる理由を整理すると、次の3つになるでしょう。

(1)義務教育の段階では児童同士や教員と児童との直接的な関わり合いを重視していること
(2)オンライン授業への対応状況には、自治体や学校間での差が大きいこと
(3)学校の福祉的な機能も考慮する必要があること

 しかし、それぞれについて次のような反論が成り立つでしょう。

(1)「児童同士や教員と児童との直接的な関わり合い」は義務教育の9年間を通して行われるものであり、少なくとも「非常時」 には例外が認められてもよいのではないか。
(2)「自治体や学校間での差が大きい」と言うが、これまでの文部科学省の通知などに沿って、オンライン授業の準備を進めてきた自治体や学校ではなく、準備不足のところに合わせるのは不合理ではないか。
※全ての自治体や学校がオンライン授業へ対応することが可能になれば、この理由自体がなくなる。
(3)たしかに、児童虐待の防止や貧困対策など、学校が福祉のプラットホームになっているという実態はある。しかし、2020年の全国一斉臨時休業中、福祉的配慮が必要な児童生徒に対しては、学校での緊急受入れや家庭訪問など、個別の対応が行われていた。むしろ、 オンラインによって画面越しにではあるが本人や家庭の状況を確認できるのではないか。

 日本の学校教育、特に義務教育の段階では、「学校で学ぶこと」と「登校をすること」とが、ほぼ同義語として扱われてきました。教育関係者の中には、オンライン授業が普及することによって、「子どもが登校をする」とか「1つのクラスに1人の担任」といった、これまでの学校教育の大前提がなし崩しになってしまうのではないか、という危惧があるのかもしれません。
 たとえば、「感染不安による登校回避」でオンライン授業を受けている児童生徒を《出席扱い》にすると、これまで登校していた子どもたちのなかからも、新たに「子ども同士の人間関係」や「教師への不信」などを理由にオンライン授業を選択する者が増え、次第に「今日は雨が降っているからオンラインで」等々、歯止めが利かなくなるのではないか、といった懸念を抱いている教育関係者は、少なからず存在すると思われます。
 近年、大手の予備校では「サテライト授業」が普及しています。これは、人気や実力のある講師が、拠点となる教室で授業を行い、その模様を全国各地の教室にインターネットで配信をするものです。受講者がどこにいても良質な授業の提供や受講が可能になることに加え、予備校側には講師にかかる人件費の削減というメリットもあります。
 これは「あくまでも予備校の話」だと思われるかもしれませんが、米国内の公立学校では、すでにこうした配信型の授業が広まっています。日本でも、教育予算の削減や教員志望者の減少が続いていけば、米国と同じような教育施策が検討される可能性もゼロだとは言い切れません。
 オンライン授業の普及が、学校の施設や授業の在り方、教員の役割など、これまでの学校教育を根底から覆してしまうかもしれないという、いわば「パンドラの箱」を開けてしまう可能性は確かにあります。

 しかし、こうした「常態的なオンライン授業」の可能性と、現在のような「特別な状況下でのオンライン授業」については、少なくとも分けて考えていく必要があるのではないでしょうか。
 そして、コロナ禍によって「GIGAスクール構想」の実施が前倒しとなり、全国の小中学生に対しては、「1人1台」のパソコンやタブレット端末が配布されました。あらかじめ計画していたことではなかったにしても、コロナ対応としてオンライン授業に取り組むことによって、その活用は急スピードで進んでいます。その契機となったオンライン授業が《出席扱い》にならないことで、こうしたICT活用の機運に水を差すことがないことを願いたいです。

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