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「パフォーマンス」と「アリバイづくり」

 今月の2日に、高知県で教育長と若手教員との「対話」が初めて試みられたそうだ。

 この取組は、若手教員の日々の業務の状況ややりがい、悩みなど、学校現場の「生の声」を把握し、今後の教育政策に生かそうとするものだという。

 今回は、高知市内の小学校から2名、中学校、高校、特別支援学校からそれぞれ1名ずつの合わせて5名の若手教諭が参加し、長岡幹泰教育長と意見を交わしている。

 こうした「対話」は、今後も須崎市や安芸市など県内3か所で行われる予定だそうだ。


 ・・・いろいろとツッコミどころが多いイベントである(参加した若手教員がどのように人選されたのかについても興味があるが、今回は触れないことにする)。

 たとえば、
「学校現場では人手不足が課題となっていて、若手教諭からは、『“やりがい”を伝えて教諭を目指す人が増えれば』といった意見が出ていました」
 ということだ。

 だが、現職教員の多くが、
「仕事に“やりがい”はあっても、若い人たちには勧められない」
 と考えていることは、すでに数年前に行われた調査からも明らかになっている。

立教大学中原淳研究室・横浜市教育委員会共同研究(2017)より

 “やりがい”のアピールだけでは不十分なことは明白なのだ。

 また、県外出身の教諭からは、
「最初、私が来たときに子どもたちが『牛乳まけた!』と言って、“まける”って何?勝ち負け?と思って、あ、“こぼした”という意味とわかり、そういった高知の文化をもっと知ることができたら良いなと思います」
 という意見が出ていたようだ。

 心温まるエピソードなのだろうが、それ以上でも以下でもないとしか言いようがない。少なくとも「今後の教育政策に生かす」ような内容ではないだろう。

 さらに、「今年東京から来て、かつ、子育て中の特別支援学校教諭」からは、
「看護休暇もない、年休も数えるほどしかないというドキドキ感の中で生きていて、何か良い仕組みがあると、もしかしたら私と同じ、働く世代の先生方の安心材料になる」
 という意見も出ていた。

 こういう意見こそ、「今後の教育政策」に反映させるべきものだろう。けれども、この意見に対する具体的な方策等は、教育長や教育委員会の関係者から示されなかったようだ。


 長岡教育長は今回の「対話」を振り返って、
「人員不足の問題については問題意識を持っていたが、さらに若い方から直接的に意見を聞かせてもらった。いただいた意見について、さらに緊張感をもって取り組まなければならない」
 と語っている。

 しかし、昨年度の高知県では、病休や産育休などに伴う代替教員が配置されなかったケースが、少なくとも31件あったことが指摘されているのだ。

 今ごろになって「さらに緊張感をもって取り組まなければならない」というのでは、あまりにも悠長すぎるのではないか。教育長の発言に脱力感を覚えた関係者は少なくないはずだ。

 結局、今回の教育長と若手教員との「対話」は、首長や議会向けの「パフォーマンス」であり「アリバイづくり」なのだろう。

 ・・・そういえば昨年の3月、長岡教育長をはじめとする高知県教委の職員が、教員の確保を市民に呼びかけるために、高知市内の繁華街で「ティッシュ配り」をしたことが話題になったことがあった。

「パフォーマンス」や「アリバイづくり」はお家芸なのかもしれないが、それに費やす時間や労力は問題解決の本筋に向けられるべきだろう。

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