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木山サッカー2023完成形解説書

2023ファジの最終形について書く。
現在のファジは試合中2つの形を使い分けて戦っている。簡単に言えば、前半と後半でやり方を変えている。今回はその二つに分けて書いていく。
(注.記事内のワイドは高橋・末吉のポジションを指す)

1.前半・保持全振り型


I

大事な点

  • ボールを握る

  • 相手DFのピン止め(牽制)

  • 前線は即時奪回、DFはディレイ重視

1.1 5トップで起こること

前半のやり方の特徴的なものとして、攻撃時にワイドの二人+2トップ+IHの片方が最前列に並ぶ、5トップの形をとることがある。この形によって狙っていることを説明する。

サッカーにおいて、DFラインは3枚ないしは4枚で構成されるのがふつうである。5枚、というのは普通はない。というのは、後ろに重すぎるために自分たち主導で攻撃ができなくなるためである。5枚が採用されるのは守備固めだったり、よっぽど力量差があるときだけだ。

そのことを踏まえて5トップを考えると、たいていのチームはDFが不足することがわかる。

例えば右にボールがあるとき、相手はDFが足りず左ワイドの高橋はずっとフリー

この場合、相手の守備は

  • 四枚のままで見続けるか

  • 前から一人DFラインに下げて人数を合わせるか

というどちらかの手段を選ぶことになる。

前者の場合、相手はこちらの攻めを片方のサイドに誘導(多くの場合、岡山の右サイド側)し、逆サイドの選択肢を消す、という対応となる。これは後者に比べ、前プレの枚数を確保し、奪った後の攻めにもつなげやすい一方、うまく外されて逆サイドに展開されると一気に決定機になる。
後者の場合、前者のような決定機は減るものの、5バックということで完全に主導権を捨てることになる。

ということで、前半ということもありほとんどの試合で相手は前者の対応を採用する。そのため、岡山は5トップで相手DFに絶えずタイマンを仕掛けつつ、逆ワイドに展開してのアイソレーション狙いが基本となる。

1.2 325での岡山の攻め方

ここからは岡山として、どういった攻撃方法をとっているかを書いていく。

簡単に表すなら、"相手を押し込み、ボールを動かしてズレを作り、守備の薄くなった逆サイドへ展開"である。

まず、5トップの立ち位置をとることで相手のDFは目の前の選手を無視して前にでて守備をすることが難しくなる。これによって、よほど前プレに精通しているチームでもない限り、相手のMF、FWまでもが後ろに引っ張られる。これによって、相手を押し込んでいる状態を作る。

すると、岡山のDFラインにかかる圧はこれまでに比べると格段に軽くなる。その結果、鈴木や柳はこれまでより余裕を持ってプレーすることが可能になり、効果的な楔パスを通したり、運ぶドリブルなど選択肢が増え、成功率も上がっていると考えられる。柳のパフォーマンスが格段に上がったタイミングと、この形への移行がほぼ同タイミングであることも偶然ではないだろう。

そして、GK+3バック+輪笠を中心にビルドアップを行う。ここにIHの一人(片方は5トップを形成しているためもう片方、主に田部井)がフリーマンとして加わり、ボランチの位置やSBの位置(これ大事)での出口を作る。IHが比較的自由に動くことで、規則的なビルドアップにアクセントをもたらす。

この田部井のSBの位置で受ける動きは、ワイドが高い位置をとることと密接に関係している。左ワイドが高い位置をとることで相手SBはピン止めされた状態になり、前に出てこれない。すると、いわゆるSBやSHの位置は誰もいないため、スペースがある状態になる。そこにIHが入って受けることで、ビルドアップの逃げ道になり、またワイドとの中継点ともなれる動きなのだ。

SBの位置に生まれるスペースで逃げ道になれるし、フリーで配球できる

ビルドアップの出口~攻め手としては、主に三つ。

  1. 坂本への楔→レイオフ

  2. ワイドへ展開→縦突破

  3. ワイドへ展開→一度ボランチへ→逆ワイド

まず1。主に柳、輪笠からバイタルエリア(DF-MF間)で構える坂本へ楔。坂本は前を向いている仙波や田部井に落とし前進する。5トップで相手DFはタイマン状態であるため、ワンタッチを織り交ぜたこのやり方はDFをパニックに陥れるには十分である。

坂本に楔、前向きに受けた仙波から裏のチアゴ、左の高橋という黄金パターン

次に2。こちらはシンプルに本山・鈴木からワイドの二人に縦パスを入れ、縦に抜く突破手段である。ワイドの二人は、基本的に縦を第一にしたプレー選択をするようになっている。幅をとる役をこの形ではワイドの二人が担っていることもあり、敵陣深く以外では大外に立つ必要がある。そのため、右サイドに右利き、左サイドに左利きを配するほうがプレーしやすいうえ、突破後のクロスの選択肢も多くなる。

最後に3。一度サイドに展開した後、輪笠や仙波を経由し逆サイドへ展開する形。これは相手のブロックを引き付けたうえでスペースを作り、空いた逆サイドへ展開する形。一番シンプルだが、岡山の前線が5人いるため、相手はマークの受け渡しで混乱しやすくなる。その結果、連鎖的にフリーになる選手を作りやすい。

中盤経由の簡略版。降りてきたチアゴや坂本経由でサイドを変える場合もある。

岡山の攻撃の形としては、最終的にはサイド奥をとることが終着点となる。そこからはクロスだったり、マイナスに折り返したりと即興性が大事になる部分なので割愛させてもらう。

1.3 攻撃において2トップに求められること

この項では2トップに注目して二つ述べておこうと思う。

一つ目に、立ち位置の話である。2トップは基本的にサイドに流れてはいけない。(裏に飛び出した際はこの限りでない)この5トップのやり方では、サイドにいかに空間を与えるかが大事なので、FWがサイドに流れてしまうと本末転倒になる。2トップは真ん中で構えておくことが、チーム全体のプレーしやすさに関わってくる。

二つ目に、役割分担である。

5トップでは、相手がラインを上げてくると前線が窮屈になってしまう。そのため、ツートップの片方はオフサイドが増えようが裏へガンガン走り、相手のラインを押し下げる必要がある。これはチアゴの担っている仕事であり、元々のプレースタイルとも相性がいい。チアゴの存在感は相手DFにとって無視できないので、より裏を警戒せざるを得なくなるためだ。 
もちろん、抜け出せばGKと一対一にできるので、ゴール第一のチアゴにとっても願ったりかなったりのタスクになる。

一方、もう片方は後方からの楔を引き出し、素早く前向きの味方に落とす判断力と技術が求められる。後方からの楔を引き出すためには、タイミングよくDFのマークを外し、狭いスペースでしっかり収める能力が必要になる。それができるのは坂本一彩、ただ一人。ゴールからしばらく見放されていても、組み立ての局面での貢献度はずば抜けている。

以上二点を総合すると、2トップは縦の動き(縦に走るか降りてくるか)が攻撃における動きの鉄則となる。体を張って時間を作ったり、ハイボールを競ったりという仕事は求められない代わりに、動き出しの質が求められるのが特徴となっている。同時に、出し手の目線で言えばロングボールを蹴るときは必ず相手の頭を超える必要がある。

1.4 守備のやり方

  • 即時奪回

  • HVはディレイ重視

  • ブロックを敷くときは右ワイドがSBへ

守備に関しては、段階を追って移行していく。
まず囲んで即時奪回を狙う。前線に枚数をかけている分、囲みやすくなっているためだ。
その後、相手がGKまで戻した場合は、2トップによる牽制となる。352の形で牽制しつつ、SBに出させたところをワイド・IHの二人で奪いに行く。

SBで挟みに行く時は輪笠と逆のIHがスライドしてカバーに入る


一方、相手がうまく回避して、岡山のサイド裏に飛び出された場合、HVの本山・鈴木が飛び出して対応する。ここではディレイ、つまり遅らせて相手のスピードを弱めることで、味方のプレスバックする時間を稼ぐことが優先される。
その際、後述するブロックの組み方にもつながるのだが左右でプレスバックのやり方は変わってくる。詳細は画像を見てほしい。

右の場合、本山が遅らせ、末吉が戻る時間を稼ぐ。その後は鈴木柳本山末吉の4バックへ移行


左の場合、鈴木が遅らせて柳本山がスライド、末吉が逆サイドを埋める。高橋はオーバーラップをする相手を見る(SHの守備位置)

上の画像で示したように、ブロックを組む際は末吉が右SBに、鈴木が左SBに入る4バックを形成する。

442気味のブロックへ

基本的に3バックでは守備時、ワイドの二人が下がって5バックを形成するのが一般的である。しかしこれは1.1で述べたように、後ろに重く、奪い返しても主導権を握りにくくなる。そのため、可変4バックを採用しているのだと考えられる。

2.後半・バランス型


基本的には2トップを入れ替える

大事な点

  • 攻撃は2トップがサイドに流れて起点作成

  • 5バックもいとわない

  • 臨機応変

2.1 前半からの主要な変化

後半途中、2トップが交代すると大きく戦い方が変わってくる。まず、5トップにならず、純粋な352に近い形でポジショニングすることが増える。これにより、被カウンターのリスクを減らし、バランスよく振る舞うようになる。とくに、ワイドの二人は相手のSHをより見れる位置をとるため、サイドの守備の安定感はぐっと増す。

5トップを解除したため、2トップの動き方も変わってくる。まず、サイドに流れる動きが解放される。というか流れる必要が生まれてくる。ワイドの二人が低い位置になる分、前線は動き回り、前で時間を作る必要が出てくるためだ。

2.2 352での攻め方

FWが斜めに走る動きが中心となる。前半は受け手だったワイドは、FWに対する出し手、及び三人目の動きを担当する。

イメージ

また、保持にこだわらず、素直にロングボールを蹴る局面が多いのも特徴だ。これはルカオがいるのが大きいが。

いずれにせよ、FWが前線で体を張って、押し上げる時間を作ることが大事になってくる。前半の攻撃が保持志向なのに比べ、後半の攻撃は縦志向が鮮明に出ている。このことで、疲労によりミスが出やすくなる時間帯、繋ぎにこだわりすぎて軽率にボールロストする危険性を減らす狙いがあると考えられる。

そして、なんといってもこのやり方はルカオにとって絶好の舞台である。ほぼ確実に競り勝てる相手SBとの勝負、縦への力強さ、そしてラストパスのセンスといった能力が、このやり方でのFWに求められることそのものであるためだ。

また、ゴール前までえぐっていけるルカオの存在によって、ゴール前に人数がかけにくい(=浮き球のクロスでは確実性が下がりやすい)という、FWがサイドに流れる弊害も軽減されていることは記しておきたい。

2.3 後半の守り方

後半の守備のやり方は、ワイド二人の立ち位置と選手の投入によって臨機応変になる。しかし、どちらにしても2トップがSBやSHまで二度追い、三度追いをする。前半に比べて前で奪いきれる回数は減るものの、中盤以降での守備の安定感は増す。

まず、前半も見せた末吉右SBの442ブロックを敷く場合。この場合は一般的な442と同じように、2トップが真ん中へのパスコースを牽制しつつ、サイドに誘導する。

次に、両ワイドがSBの位置まで下がり532となる場合。これは主にバイスが投入されたときの形である。この形になると、まずDFラインを下げてブロックを敷く形になる。この形になると、攻め手はほぼルカオを走らせるロングカウンターのみになるが、その代わりに守備時相手に与えるスペースをとことん消すことで、相手は攻めにくくなる。

3.その他

・前後半でやり方が変わる理由の一つに、体力面が考えられる。前半のやり方では、奪われた際に走らないといけない距離が長い。そのため、足が止まってくる時間以降はリスクが許容できなくなると考えられる。同時に、その時間以降で動けるルカオを投入することがより効果的、というのもある。

・バイスは今年身体的な衰えが出ているのか、動きが鈍くなっている。そのため先発で使うとDFラインが下がりすぎたり、ついていけないシーンが目立ってしまう。これを後半のクローザー役として起用すると、ガス欠を気にする必要がなく、またDFラインを上げる必要もないため弱点をうまく隠せる起用になる。

・個人的に、このサッカーを来年一年継続すれば仮に今年届かなくてもかなりいい勝負ができると感じている。というのも、このサッカーはそこまでスペシャルな選手を必要としない。強いて言えば坂本一彩のような、ボールを引き出し捌ける選手が必要だが。加えて、SBの位置では少し不安定な河野が高い位置でプレーできるやり方でもあり、岡山の選手の苦手をうまく隠せる構造になっている。岡山のサッカーは間違いなく進化している。

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