▶︎マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展
7月6日から10月6日まで、三菱一号館美術館で開催されていたマリアノ・フォルチュニ展。
最終日の10月6日に駆け込みで行ってきました。
20世紀初頭に、繊細なプリーツを施した絹のドレス「デルフォス」を制作し、ファッション界のダヴィンチと呼ばれたフォルチュニ。
彼は舞台照明や舞台機構、写真など、いくつもの革新的な発明をもたらしました。
そんな作品の数々とともに、彼の人生を振り返る展示。
とても面白い展覧会だったので紹介します。
■ヴェネツィアの魔術師
Profile
1871年、スペイン・グラナダ生まれ。
同名の父フォルチュニは、中東の風俗を描き人気を誇っていた画家でした。
3歳の頃に疫病で父を亡くしたフォルチュニはパリへ。画家の叔父や、オリエンタリズムの画家バンジャマン・コンスタンに学びます。
印象派の画家には目もくれず、父の油彩や版画を模写する日々。
1889年に一家はヴェネツィア・ペーザロオルフェイ邸へ移動。この館から、フォルチュニはかの伝説的なドレス「デルフォス」や、ベルベットの外衣などを生み出し、「ヴェネツィアの魔術師」と呼ばれるようになります。
中東の風俗を描いていた父の影響により、東洋への関心を抱いていたフォルチュニ。
「日本人の頭部」という作品は、日本の武士の頭部と思われる油彩画です。
頭部の描写は、自然だが相貌はアフリカ人のようでもあり、いくつもの資料を参照したと言われています。
父は日本の甲冑や絵画など、母は日本のきものを複数所有しており、両親とも極東への興味を持っていたことがフォルチュニにも影響していたのではないかと思います。
フォルチュニの妻アンリエットも、母のセシリアが所有していた日本のきものを室内着として使用していたとか。
■総合芸術・オペラ、ワーグナーへの心酔
スペインの画家ロヘリオ・デ・エグスキサから教えられたリヒャルト・ワーグナーのオペラに感激したフォルチュニは、絵画から舞台美術と舞台照明へと関心を移すように。
探求の基礎となったのがパリで脚光を浴びていた応用電気工学でした。
応用電気工学
電気工学と関連分野の発展 電気工学の源流は基礎理論としての電気回路学と実用としての電力工学である。(Wikipediaより)
また物理学と光学の研究も行い、自作の舞台装置の縮小模型を使ってさまざまな実験をしていたそうです。
■フォルチュニが目指していたものとは?
フォルチュニが目指していたものとは、音楽・演技・照明・舞台装置の間に共感覚を実現することでした。
光の特性と種類の研究を発展させ、クーポラという半球型のステージセットに拡散光と間接照明を用いた照明装置を組み合わせた革新的な舞台機構を発明。
クーポラに光を反射させ舞台に間接的に照明をあてる
ことで、朝から夜まで途切れることのない微妙な光の変化を演出。
外光の完璧なイリュージョンを創出しました。
このクーポラ・フォルチュニは、舞台装置と照明に革命をもたらしたと言われています。
■衣装作品
衣装作品も多数制作していたフォルチュニ。
■クノッソス
20世期初頭、古代遺跡ブームだったヨーロッパ。
フォルチュニはそこからインスピレーションを受け、クレタ文明の草花文様や抽象文様をそめ付けた絹のストール「クノッソス」をデザインしました。
また西洋中世やルネサンス期、中東や極東の文様を取り入れた絹ベルベットのテキスタイルを制作し、マントやコートに仕立てました。
■デルフォス
1896年に発見された紀元前5世期初頭の青銅彫刻「デルフォイ」の御者に着想を経てデザインしたこちらのドレス。
中国・日本からの輸入とされる絹地をさまざまな色に染め、手作業で細かなプリーツを付けて筒状に縫製。
とんぼ玉を装飾兼重りとして付けてあります。
自然な体型を美しく演出現代のドレスの先駆けとも言われています。
■ドレス
前後見頃がほぼ直線裁ちの接ぎ目の少ないシンプルな構成のドレス。
デルフォスと同様にプリーツを施した生地が袖下から両サイドにかけて嵌め込まれ、その下から見頃の前後や袖下をつなぐようにとんぼ玉を配した絹のコードが何連も垂れています。
■写真への関心
舞台機構、衣装作品と共に、写真へも関心を抱いていたフォルチュニ。
No.4パノラマコダックという写真機を使っていたフォルチュニは、140度の両角で、オートクローム方式で色彩を表現しました。
立体写真の撮影には理想的な機器。
アルビューメン(鶏卵紙)から食塩紙、コロジオンを使う湿版写真などあらゆる手法を試したと言われています。
■100年先まで残るフォルチュニの作品
20世紀の初頭に革新的なデザインのドレスを生み出し、ファッション界に影響を与えたフォルチュニ。
ヴァレンティノの2016年の春夏コレクションでは、デルフォスを連想させるファッションが提案されました。
■まとめ
今から100年も前に、今でも残る革新的な発明を次々と生み出したマリアノ・フォルチュニ。
そんな彼のデザインのインスピレーションは東洋や日本から受けていたというのが、少し嬉しく感じました。
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