実践的ジョブ理論③〜ユーザーインタビューにおける質問票の作り方
外資系IT企業でプロダクトマネージャーをしています、ハヤカワです。
日々、Twitterでプロダクトマネージャーのノウハウや考え方などを発信しています。
今回は、ジョブ理論の考え方を実践しよう!というのを目指した「実践的ジョブ理論」の第三弾です🎉🎉🎉
ジョブ理論って聞いたことあるけど、なんだっけ???という方はまずはこちらをご覧ください🙌
このジョブ理論の考え方にもとづいて、実際にみなさんのご自身の業務でこの考え方を使うためにはどうすればよいのか?🤔と考えて作ったのがこの「実践的ジョブ理論」というnoteシリーズです。
シリーズ①では、ジョブ理論を実践するのに役立つ、テンプレートシートの共有と、その作成手順について解説しました。
シリーズ②では、①で作ったジョブの仮説を実際にユーザーインタビューを通して検証する方法について紹介しました。
そして、今回ご紹介するのはシリーズ③「ユーザーインタビューにおける質問票の作り方」についてです。
ユーザーインタビューの方法自体は、②で基本的なことは紹介しましたが、実際にインタビューを行う上で困ることとして「で、具体的に何をどう聞けばいいの?🤔」という声を多く頂いたので、今回その方法についてより詳しく説明したいと思います。
0. はじめに ✍️
ユーザーインタビューというと、多くの企業が新規事業を立案する際や、会社を創業する際に取り組まれていると思います。
しかし、その多くが、場当たり的で計画性のない、ただのお話し会になってしまっているのではないでしょうか。形として、気楽にその方の体験を聞くという意味では、お話し会であることは何の問題もありませんが、インタビューが終わったあとに「は〜、楽しかった、聞きたいことも聞けたし、困っているだろうと思っていたことも困っていたようだったから、この事業アイデアは問題ないな!」と感覚的にインタビュー結果を解釈してしまってはいないでしょうか?
そして、ユーザーインタビューをすることを目的として捉えてしまい、なぜユーザーインタビューをするのか?の本質に蓋をしたまま、思いつきのアイデアのまま時間やコストをかけて、誰も欲しがらないものを作ってしまうことになります。
と、あえて批判的に書いてしまいましたが、伝えたいことはユーザーインタビューの目的は「顧客の実際の声を聞き、顧客が本当に求めていることを明らかにする」であることです。
つまり、顧客の声を聞いて終わりではなく、本当に何を求めているのかを導くために、インタビューした内容に向き合い、分析し、熟考し、データドリブンで意思決定をする必要があります。
にもかかわらず、うっすら想定したことと、それっぽいことを言っていたからOKとか、似たような課題感を何人かから聞けたから、という曖昧で抽象的で、バイアスの掛かった主観で判断してしまっては、せっかく時間を取っていただき慣れないユーザーインタビューを受けていただいた、ユーザーの時間を無駄にしてしまいます。
そこで、相手の時間を無駄にしないために、ユーザーインタビューから得られた「顧客の声を最大限に活用するための質問票の作り方」を説明したいと思います
1. インタビューの質問の作り方、の前提 ✋
本記事では「顧客が本当に求めていることを明らかにする」という目的から逆算して、そもそも何を聞くべきなのか?というインタビューの質問を具体的に考えます。
質問の仕方としても、何となく課題や困りごとについて聞いたり、ましてや自分の頭の中にアイデアをそのまま伝えて、「こんなんあったらどうです?」などと聞くのは絶対にやめたほうが良いです。
「顧客は未来を語らない」という鉄則があるので、「どこでもドアがあったら嬉しいですか?」などと聞いてしまったら「あー、たしかにあったらめっちゃ嬉しいですね!😍」という答えが返ってくるに決まっています。それを受けて「よし仮説どおりに顧客はどこでもドアが欲しいことをインタビューから検証できた!」と思ってしまったら終わりです。
そうではなく、顧客が過去に経験した実際の出来事や事実だけを聞き、そこから「あ、ユーザーはA地点からB地点に気軽に早く移動したいんだな」というジョブを導き出す必要があります。
ドラえもんも、のび太くんが実際に体験した出来事や課題を感じたことを受けて、「のび太のジョブ」を定義した上で、それに対して適切なソリューションを提供しています。なので、泣きながら帰ってきたのび太くんに対しても、第一声は「どうしたの?のび太くん」というオープンクエスチョンによるユーザーインタビューから入っています。
さて、話を戻すとユーザーインタビューの重要性自体については、「実践的ジョブ理論シリーズ②」でも解説しましたので、そちらもご覧ください。
では実際にどうやって、顧客が過去に経験した実際の出来事や事実を聞くべきかというところを掘り下げてみます。
2. カスタマージャーニーを作る🗺️
顧客が過去に経験した実際の出来事や事実を抜けもれなく網羅的に聞くために必要な準備が「カスタマージャーニーの作成」です。
つまり、想定する事業領域やテーマに対して、ユーザーが歩むだろうと想定できるジャーニーを描きます。
たとえば、分かりやすく、とあるサービスに対して、このようなジャーニーがあったと想定します。
認知→興味関心→比較検討→購入→利用
これに対して、それぞれのステージごとにユーザーがどういう行動を取っているか?というの考えます。また、そのときにユーザーが関わっているタッチポイント(ツールやサービス、場所や状況、人)を書き出します。
※今回は、私自身が今年購入した、デジタルカメラ SIGMA fp Lを実際に購入したときに体験した出来事、経験を記載してみました
次に、各ステージごとにユーザーが考えたり、感じているであろうことを書きます。
分かりやすく、ネガティブな感情は赤色、ポジティブなものは緑色、悩んでたり不安だったり中間を遷移するようなものは黄色にしました。
3. ジョブの仮説を立てる 📌
ユーザーインタビューを行う前に、とても大事な準備があります。それが、仮説作りです。ユーザーインタビューとは、事前に立てた仮説を実際の顧客の声を通して検証するための手段になります。
そのため、仮説なしでユーザーインタビューを行うのはとても難しいです。何を聞いていいかわかりづらいですし、話が人によってバラバラに逸れてしまうこともあります。慣れていない分しっかりと仮説を立てて、インタビューを行うことをおすすめします。
そこで、カスタマージャーニーで作った各ステージごとでユーザーが抱えていると想定できるジョブの仮説を考えます。
ここでは、アウトカムベースの記述法でジョブ仮説を書いてみます。
アウトカムベースでは、特にユーザーがどのようなアウトカム (= 指標 × 方向) を求めているのかを考えます。
文脈は「トリガーとなる状況や背景」を表しますので、たとえばステージ①「興味関心」からステージ②「調査」という次のステージに行くためには、ユーザーにどのようなトリガーとなる状況や背景、きっかけや出来事があるのか?という視点で、文脈の部分を考えます。これを各ステージごとに考えます。
ここまで来ると、ユーザーがこのジャーニーを進む行動の要因が見えてきます。
たとえば、ステージ①「興味関心」のジョブの仮説は、
変化の少ない日常を過ごす中で何気ない瞬間を記録に残して振り返られる思い出の数と価値を最大化したい
と書いてみました。これは、このご時世でなかなか出かけることもできず、変化の少ない日常を過ごしている中で、それでも一日一日にある小さな変化や、新しい体験を記録に残して、振り返ったときに良い時間を過ごしたと感じ、それを家族と共有して日常生活の価値を最大化したいという、気持ちが今振り返ってみると当時あったかな、と思ったからです。
これは、つまりユーザーがこのジャーニーを進む最初のきっかけになります。ただ、これは日常的に小さく、断片的に思っていることで、水面に小さな気泡が現れては消えるだけであり、ユーザーを行動させるのに十分な力は働きません。
次に、ステージ②は
日常でもそうでない時でも表現できる写真の幅を最大化したい
これは、実際に noteで @goando さんの 「SIGMA fpがほしくなるマガジン」やnote記事を見る中で、自分でもこういうかっこいい日常的な写真が撮れるのかな、と興味関心を経て、調査をする中で感じる欲求になります。
ここでは、日常の写真かどうかに関わらず、自分でもっとこんな表現をしてみたいなという欲求が生まれました。
され、私のカメラの購買体験で話がそれてしまいましたが、このように、カスタマージャーニーの各ステージごとにどのようなジョブがあるのか?という仮説をアウトカムベースで記述することで、ユーザーの行動体験に沿って、ジョブを体系的に整理できます。
さて、これでインタビューで聞きたい仮説が揃いました。これらを踏まえて、早速インタビューの質問を考えてみます。
4. インタビューの質問表を作る 📝
ユーザーインタビューは、だいたい10-15、多くて20人を目安に行うことを考えて、1人あたり1時間のインタビューを想定して、質問票を作ります。
できるだけ、予めインタビューのシナリオを作り、聞く相手によって聞く内容にばらつきが出ないようにします。
もちろん、相手の回答によって、深堀りをしたり、別の可能性について聞いたりすることはありますが、質問の幹としてずれないようにシナリオを作ります。
そうしないと、とある人からせっかくいい話が聞けても、他の人にその質問をしていなかったせいで、それが共通点として存在するジョブなのかどうかがわからなくなってしまう恐れがあります
では、質問表を考えるために、まず上記で作ったカスタマージャーニーの各ステージごとに分けて考えていきます。
まずは、ステージ①の「興味関心」を抜き出してみます。
一つのステージに対して、以下の6つの要素を考えます。
①Situation [状況に関する質問事項]
②Motivation [動機に関する質問事項]
③Outcome [求めている成果に関する質問事項]
④Struggle [もがいていることに関する質問事項]
⑤Obstacles [バリアや障壁、課題に関する質問事項]
⑥Alternatives [既存のソリューションや代替手段に関する質問事項]
これは、ジョブ理論において、重要な6つの要素を表しています。
今回のテーマは「カメラの購買体験」におけるステージ①「興味関心」なので、とあるユーザーがカメラの購入について興味関心を生まれたときの
「状況」:いつどんなときに、そう感じた/その行動を取ったのか?
「動機」:なぜ、そう感じた/その行動を取ったのか?
「成果」:何を期待して、何を求めてその行動を取ったのか?
「もがき/あがき」:その成果を達成するために何とかその時取っていた行動は?
「障壁」:そのようにもがいていたものの、成果を達成させるのを阻んでいたもの課題や壁、その理由は?
「代替手段」:その障壁を回避するために取っていたほかの行動や手段は?
これらのことを時系列的に順番にゆっくりとそれぞれを深堀りしながら、聞いていくのが基本的なインタビューのシナリオです。
さらに、この6つの観点をさらに5W1Hの観点に分解してヒアリングします。
こんな感じです。もちろん、それぞれの要素にまんべんなく5W1Hが揃うことはありませんが、インタビューをする際には5W1Hの観点で抜けもれなく聞けているかを意識しながら聞くと、良いヒアリングができます。
特に、Howは「手段や方法」だけでなく、How muchやHow longなどのような数量や期間や、How + 程度を表す形容詞を入れて、感情や気持ち、状態の具合や度合いを聞くことを意識します。
そして、必ずユーザーの回答に対して、深堀りを行い、Whyを3-5回必ず尋ね、1問1答ではなくフォローアップの質問をしながら、これらの項目を埋めていきます。
すると、このような形で、[状況 - Situation]だけ切り取っても、縦軸に5W1Hが並び、横軸にインタビュイーごとに回答が並んでいきます。
ここでは、[状況に関する質問事項]に対して具体的に質問内容を記載していませんが、最初はどのように質問するのかを事前に考えて、想定質問を具体的に記載した方がいいと思います。(このときは、あまり良いやり方ではないですが慣れで頭の中で状況質問を想定して聞いてしまいました)
これを、複数人に対して、網羅的に聞いて、回答をまとめていくと、このような表が出来上がると思います。
便宜上、ステッカーの集合で表現していますが、実際はスプレッドシートなどで記載をまとめていくことが多いです。
また、ステージの種類や分け方によっては、必ず「もがき/あがき」「障壁」「代替手段」などの要素が埋まるものではありません。あくまでも、インタビューの質問表を作る上で、網羅的に抜けもれなく、ユーザーの潜在的なジョブを見つけるために観点として枠が存在するということになります。
埋めることを目的にして、無理やりユーザーから引き出したり、誘導尋問をしては絶対にダメなので、目的はあくまでも「顧客の実際の声を聞き、顧客が本当に求めていることを明らかにする」ことを忘れないようにしましょう。
決して、自分のアイデアを証明するためや、自分の考えの確信を得るため、という考えをしないようにします。
https://note.com/12011991/n/nffeb159171a3
実践的ジョブ理論を使った後は?
この実践的ジョブ理論を用いて考えた仮説を立てたジョブ仮説について、正しく書けているか?ちゃんと検証できているか?を評価してくれるツールも作ったので、ぜひ利用してみてください!
5. おわりに 👏
今回のnoteを通して、実際にユーザーに何を聞けば良いのか?ということを体系的に理解して、実践的に質問票を作っていただくための、方法をご理解いただけたら嬉しいです。
次回は、これらの質問を通して得たユーザーインタビューの結果をどのように分析していくべきか?という話についてももう少し実践的にまとめていきたいと思います!
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