「分かり合えない」に苦しむ人に差し出す一冊

同じ時間を共有すると、ついつい自分のことを100%理解してるだろうと錯覚して、だんだん会話がズレてき、会話する時間すらなくなっていく現象はなんで起きてしまうんだろうか。「私とあなたは違う人間で違う思想の持ち主だ」ということを忘れてしまうと、相手を所有する感覚になってしまう。

いつも一緒に時間を共有する人と最近話をする機会が減った。今さら話し込むのもなんだか照れて恥ずかしい。そんな人に読んで欲しい本があります。

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『きみはいい子』 著:中脇 初枝

学級崩壊のクラスを受け持つ新米の教員。家族に虐待をされ、自らの傷を癒すことがでできずに大人になってしまった母親。子どもの友達が親から愛されないことを知ってしまった親。老いていくほど、孤独になることを知ってしまったおばあさん。

この本は5つの短編集で構成されている。文章としては読むやすくて、ページをめくる手もなんだかいつもより早く感じたのだが、温かくてずっしり重たいものを心に残していく。そんな小説だった。

私がこの本を読もうと思ったきっかけは、この映画のプロモーションビデオである。

2015年に公開されたこの映画はPVだけでも迫力的だった。軽快な音楽とは裏腹にどこの街でもありそうな虐待や学級崩壊が描かれている。その聴覚から得られる情報と視覚からの情報の違いにどぎまぎしつつ、学級崩壊の担任を担う主人公を演じる高良健吾さんの最後の一言にぐさっときた。

「とても難しい宿題を出します。家族に抱きしめられてください」

抱きしめること・抱きしめられること、私の年齢になればちょっと難しい行為なのかもしれない。でも、それは子どもにとっても難しいのかもしれない。歩くことができないときは抱きしめられることが普通だった。だって歩けないから。そうやって母親や父親の体温を感じることで、「誰かがいる」「私は安全だ」「安心する」「1人ではない」そういう感覚を与えてくれた。

しかし、できることが増えるといつの間にか抱きしめること、抱きしめられることが減ってしまう。西欧みたいにハグが文化としてない日本ならなおさらだ。

そうやって他人の温度を感じなくなると「私は1人であるんだ」と子どもでも無意識に思ってしまう。その孤独感がからまって誰かにいたずらをしたり、傷つけたりといった行動に移ってしまう。

「私は1人かもしれない」そう感じはじめたら、そっと誰かを抱きしめてほしい。この本を読んで強く感じたことだ。

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長く時間を共有している相手ほど、「私もあなたも同じ」と錯覚してしまうかもしれない。言葉を交わそうと思っても何を言えばいいのかわからなくなるときがある。そんな時はそっと抱きしめてみてほしい。肌から伝わる体温はあなたより温かいかもしれないし、冷たいかもしれない。どちらにしろ、自分とは違う体温の相手がいて、それは自分と異なるものなのだということを感覚で知ることができる。

朝起きて、「おはよう」という人に。
疲れて家の扉を開けて「ただいま」という人に。
そっとハグを送ることをお勧めします。

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