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高血圧は塩分が本当に原因なのか?

ナトリウムとカリウム: 健康を支えるミネラルの重要性

ナトリウムとカリウムは、私たちの身体にとって非常に重要なミネラルです。ナトリウムはドイツ語で "Natrium"、英語では "Sodium" と呼ばれ、カリウムはドイツ語で "Kalium"、英語では "Potassium" と呼ばれています。これらのミネラルは、身体の重要な機能を担う「ナトリウム-カリウムポンプ」の働きをサポートしています。


ナトリウム-カリウムポンプの役割

私たちの身体のエネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸)によって供給されますが、ATPのうち約3分の1から4分の1は、ナトリウム-カリウムポンプの働きをサポートするために使われています。このポンプの主な役割は「情報伝達」です。

細胞内はカリウムが多く、細胞外はナトリウムが多い状態が保たれています。ナトリウム-カリウムポンプは、ナトリウムイオンを3個細胞外へ運び出し、カリウムイオンを2個細胞内へ運び入れることで、イオン濃度差を作り出し、電気的な勾配を発生させます。この電気勾配によって「活動電位」が発生し、情報が伝達されていきます。

このポンプは、神経の興奮伝達や細胞の浸透圧調節、小腸や尿細管での栄養素吸収にも関与しています。ナトリウムとカリウムが不足すると、情報伝達ができなくなり、細胞の浸透圧が調整できず、細胞が破壊される恐れがあります。また、栄養素の吸収もうまくいかなくなります。


塩とナトリウムの違い:正しい理解と摂取方法

多くの人が「塩」と「ナトリウム」を同じものと考えていることがありますが、実際には違います。この記事では、塩とナトリウムの違いや、それらの正しい理解と摂取方法について説明します。

塩とナトリウムの関係

ナトリウムは、塩の一部である化学元素です。塩は、ナトリウム(Na)と塩素(Cl)が結合してできる化合物で、その化学式はNaClと表されます。これを塩化ナトリウムとも呼びます。

飲料ラベルにおけるナトリウムと食塩相当量

清涼飲料水のラベルには、ナトリウムの量(mg)と食塩相当量(g)が記載されていることがあります。これは、塩が水に溶けると、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)に分離するためです。溶液中では「食塩」ではなく「ナトリウム」の量が正確な表記となります。

しかし、塩分制限が必要な場合など、「食塩として何グラムまで」といった制限がかかることがあります。そのため、食塩としての量が分かりやすいように、食塩相当量が表記されることがあります。ちなみに、ナトリウムはmg、食塩はgで表記するのが一般的です。

ナトリウムと食塩の換算方法

ナトリウムの原子量は23、塩素の原子量は35.5です。これらを足すと、58.5になります。ナトリウムの量に2.54(58.5 ÷ 23)を掛けることで、塩の量に換算することができます。例えば、ナトリウムが1000 mgだった場合、それは塩分に換算して2540 mgとなります。

塩分と高血圧の関係

よく知られている通り、血圧が高い人は塩分の摂取量を制限することが勧められています。では、なぜ塩分と血圧には密接な関係があるのでしょうか?

人類の祖先はもともと海に生息しており、約3億年前に陸に上がったとされています。陸に上がった際、体内の液体を海水と同じ成分で維持するシステムが必要になりました。このシステムは、「レニン・アンジオテンシン系」と呼ばれています。

レニンは腎臓から放出される酵素で、分泌されるとアンジオテンシンという酵素が活性化します。さらに副腎から分泌されるアルドステロンが活性化し、ナトリウムの再吸収が促されます。アルドステロンにはカリウムを排出する働きもあります。陸上では海のように塩分を摂取することは難しいため、このようなナトリウムを効率的に吸収するシステムが進化しました。


塩分を多く摂取すると、体内の液体が濃くなります。これを薄めるためには、体内の水分量を増やす必要があり、しょっぱいものを食べた後に喉が渇いて水を飲みたくなるのはそのためです。水分が増えると、心臓はより多くの液体を運ぶために圧力を強める必要があり、その結果血圧が上昇します。


また、アンジオテンシンは血管を収縮させる働きがあり、これも血圧を高くする要因となります。血圧を下げる薬として代表的なものに、ACE阻害薬があります。この薬は、アンジオテンシン1がアンジオテンシン2に変換されるのを阻止する働きがあります。最近ではARBという薬も登場し、これはアンジオテンシン受容体の働きを妨げるものです。

レニン活性が高血圧との関係の鍵:

私たちの体には、貴重な塩分を保持し、効果的に使用するためにレニン・アンジオテンシン系が備わっています。つまり、体に必要なナトリウムの摂取量が少ないと、それに応じてレニンが分泌されるのが本来の働きです。ナトリウムを多く摂取すると、レニンの分泌は減少し、血圧は下がります。このシステムが正常に機能していれば、血圧の変動は起こらないはずです。


では、なぜ塩分の摂取が血圧上昇と関連していると言われているのでしょうか?この問題の核心はレニンの活性にあります。正常な状態では、体内のナトリウムが多いと、レニンの分泌が減少し、体内のナトリウムが適切に減少するように働きます。しかし、レニン分泌機構がうまく機能しない場合(レニンが減少しない場合)、体内のナトリウムが適切に減少しません。その結果、レニン活性が低い人は心血管リスクが高まります。


一方、レニン活性が正常な人は、常識的な範囲で塩分を摂取しても問題ありません。ただし、レニン活性は30〜40歳から低下し始めるため、血圧が高めの中年以降の方はレニン活性を測定することが望ましいかもしれません。

このように、レニン活性が血圧との関係の鍵となります。血圧管理には、適切な塩分摂取量と個々のレニン活性の理解が重要です。特に年齢を重ねるにつれ、レニン活性の変化に注意し、適切な血圧管理を心がけることが大切です。


食塩感受性高血圧とは?日本人に多い高血圧のタイプ

食塩の摂取が高血圧に影響することはよく知られていますが、特に日本人の場合、食塩を多く摂ると高血圧になりやすいという説があります。このタイプの高血圧は、「食塩感受性高血圧」と呼ばれています。


食塩感受性高血圧のメカニズムは少々複雑ですが、ここで解説しましょう。ナトリウム過多によって、ノルアドレナリンが増加し、β2アドレナリン受容体が活性化します。その刺激がエピジェネティクスとしてWNK遺伝子の発現を抑制し、これがNa-Cl共輸送体の活性を高めてナトリウムを貯留させるメカニズムになっています。


簡単に言い換えると、食塩を摂取することで交感神経が興奮し、それが遺伝子を修飾してナトリウムの排出が抑えられ、血圧が上昇するということです。逆にナトリウムが足りないときは、交感神経が興奮しにくくなります。江戸時代には「塩抜きの刑」というものがあり、この刑を受けた罪人は次第に目の力が衰え、無気力になっていったそうです。スポーツ選手がナトリウムを制限すると、パワーが喪失するのが体感できるはずです。


国立循環器研究センターの調査によれば、日本人の食塩感受性高血圧は高血圧患者の40%程度を占めるとのことです。ただし、この調査では一日0.5gの食塩を1週間続けた後、一日14.5gの食塩を摂取させ、血圧上昇が10%以上だったものを食塩感受性だとしています。しかし、一日0.5gの食塩摂取は非現実的であり、研究内容が操作されたのではないかという批判もあります。

藤田教授の研究(1995年)では、日本人で食塩感受性の遺伝子を持つ人は20%だとされています。また、50%の人は塩分を摂取してもしなくても血圧に影響しないということです。


高血圧以外に、ナトリウムが問題になりやすいのが腎臓病です。腎臓が悪いとナトリウムの排泄が悪くなり、体内のナトリウムが増えて高血圧になると言われます。しかし、腎臓ではナトリウムの「再吸収」が行われており、腎臓が悪くなるとこの再吸収が減るため、ナトリウムの排出がむしろ増え、逆に低ナトリウムになることが多いのです。

そのため、腎臓が悪い場合でも、最近では極端にナトリウムを制限することはなくなりました。腎臓が悪い場合、むしろカリウムの制限が必要になります。


減塩は本当に効果的?血圧に与える影響を検証

減塩が血圧に与える影響について、研究が進められていますが、その結果は一概には言えません。13件の論文を元にしたメタ・アナリシスによると、「減塩に血圧を下げる効果がない」という結果が出ています。つまり、食塩感受性がない場合(約80%の人々)、あまり減塩を気にする必要はないかもしれません。


日本人の一日の平均的な食塩摂取量は9~11g程度です。一方、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、男性は一日8.0g未満、女性は7.0g未満が目標量とされており、さらにWHOの推奨基準は一日5g未満です。これを見ると、減塩に気を遣わなければならないように感じますが、減塩にはデメリットもあることが分かっています。


例えば、骨はミネラルの貯蔵庫であり、塩分を控えめにした食事を続けると、骨からナトリウムを取り出そうとする働きが起こります。しかし、その際にカルシウムやマグネシウムも骨から取り出されてしまうことが報告されています。さらに、米国医学研究所(IOM)の発表では、「心臓に問題を抱える人が塩分摂取を減らし過ぎると、逆にリスクが高まる」とされています。また、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は、「ナトリウムを一日1500~2300 mg以下」にすると、逆に死亡率が高くなったというメタ・アナリシスを発表しています。


これらの研究結果から、塩分摂取を極端に控えることはデメリットの方が大きいと言えます。ただし、塩分摂取が多いと胃がんになりやすいという疫学的な報告もありますが、まだ相関関係ははっきりしていません。

国立がん研究センターによれば、塩分の量そのものではなく、塩分濃度の高い食品(いくらや塩辛、練り海胆など)がリスクを高めているかもしれないとされています。また、塩蔵加工で生成される化学物質がリスクを高めている可能性も指摘されています。


塩分摂取のメリット

塩分摂取のメリットについて考えると、実際にいくつかの利点があります。例えば、体調が悪いときや疲れているとき、点滴が行われることがありますが、その主成分はブドウ糖と生理食塩水です。生理食塩水は細胞外液の浸透圧と同じで、体内の浸透圧や水分量を正常に保つ働きがあります。単に水を飲むだけでは、細胞内液との浸透圧のバランスが崩れ、脱水や尿毒症を引き起こすことがあります。


また、夏場にハードな運動をすると、大量の汗と共にナトリウムも流出します。このとき、ただの水を飲むだけでは、体内のナトリウム濃度が低下し、自発的脱水という悪循環に陥ることがあります。ナトリウム摂取は、運動中の水分補給だけでなく、体内のpHバランスを保つことにも役立ちます。


さらに、塩分は消化にも必要です。胃酸の主成分である塩酸は、食事で摂取する塩分を主な原料としています。夏バテの際は、味噌汁などで塩分を補給することが効果的です。また、研究では、塩分が多い食事を摂取すると、食事量が増加することが示されています。これは、食欲増進だけでなく、消化の促進作用があるからです。

ハードなトレーニングやストレスにより、コルチゾルが分泌されることがありますが、コルチゾルは水分や塩分の排出を増やす作用があります。そのため、トレーニングを行っている人は、普通より多めの塩分摂取が問題ないとされています。

要するに、塩分摂取は適度な量であれば、体調維持や運動時の水分補給、消化促進などのメリットがあります。ただし、過剰な塩分摂取は健康リスクを高めるため、バランスを考慮した食事が大切です。

カリウムを摂取して、健康をサポートしよう!

腎臓が正常であれば、毎日20〜30gの塩分を排出できますので、減塩に特別にこだわる必要はありません。減塩で血圧が少し下がったとしても、心臓血管系疾患や死亡率を下げることにはつながらないという報告もあります。

それでも塩分摂取が気になる方は、カリウムを意識的に摂取することをお勧めします。もともと塩分と高血圧の関係は、日本の東北地方での調査から導き出されたものです。


しかし、青森県の弘前地方では、リンゴを食べる習慣があることから血圧が正常であり、脳卒中や死亡率も低いことが判明しています。リンゴにはカリウムが豊富に含まれており、カリウムはナトリウムの腎臓での再吸収を抑制し、体外に排出する働きがあります。


細胞内にはカリウムが多く存在し、細胞外にはナトリウムが多く存在します。カリウムを摂取することで、ナトリウムポンプが活性化され、細胞外にナトリウムと水分を排出する働きがあります。これにより血液量が増え、血圧が下がることが示されています。


実際、カリウムを摂取することで血圧が下がったという研究があります。また、カリウムの多い食事を摂取することで、高血圧や脳卒中のリスクが減るという報告もあります。ただし、日本人のカリウム摂取は減少傾向にあります。WHOの基準では、脳卒中や心筋梗塞の予防に望ましい摂取量は1日あたり3510mgですが、日本人の平均摂取量は1日あたり2201mg程度です。


カリウムが多く含まれる食品には、野菜や果物がありますが、特にイモ類に多く含まれています。イモ類は調理によってカリウムが流出することはありません。サツマイモやジャガイモを積極的に食べることで、ナトリウム過剰摂取の心配が軽減されます。また、海藻類や切り干し大根などにもカリウムが豊富に含まれています。

カリウムを積極的に摂取することで、塩分摂取による高血圧リスクを緩和し、脳卒中や心筋梗塞の予防に効果があることがわかります。日常の食事において、カリウムが豊富な食材を取り入れることで、健康的な生活をサポートできます。

具体的な摂取方法として、リンゴやサツマイモ、ジャガイモをデザートやおやつ、主菜として取り入れることがおすすめです。また、切り干し大根や海藻類を煮物やサラダに加えることで、手軽にカリウムを摂取することができます。


まとめ

腎臓が正常であれば、減塩に過度にこだわる必要はありません。しかし、カリウムを摂取することで、塩分摂取によるリスクを軽減し、心血管系の健康をサポートすることができます。カリウムが豊富な食品を積極的に摂取することを心がけ、健康的な食生活を送りましょう。












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