キャンプには神様が宿る
空前のアウトドアブームで、キャンプ用品やアウトドアグッズを扱う会社は増収増益らしい。
先日、テントを購入した我が家もその一端を担っている。
正直アウトドアには苦手意識があった。
ろくにキャンプもしたことがなかったのになぜそんなに嫌いになったかというと、小学校の宿泊学習にいい思い出がないからだろう。
アスレチック中は蚊に刺されるわ、テントはうまくたたないわ、夕食作りのカレーはうまくいかないわ、夜はゴツゴトした地面で寝づらいわ散々だった。
先生達は遊びではなく勉強に行くのだから、決してはしゃぐなよ!と始まる前から睨みをきかせていたが、こんな不便な生活にはしゃぐも何もないよ。。とみんな死んだ魚の目をして聞いていた。
それなのになぜテントを購入するに至ったかというと、結婚した相手がアウトドア好きだったからだ。
キャンプはしたいがテントは持っておらずなので、宿泊はバンガローだ。バンガローの窓から見えるテントサイトはみんなおしゃれで賑わっている。不便さを工夫で乗り越えて、さらにおしゃれだ。みんな上級者なのだなと呑気に見ていたが、主人はテントに対する憧れを募らせていたらしい。
そんなに欲しいならテントを買えばいいじゃないかと思うだろうが、なんと人気のテントは今や抽選なのだ。抽選といっても当たったらテントが貰える訳ではなく、テントを購入出来る権利がもらえるだけだ。昨今のアウトドア人気が伺える。
抽選にはたびたび主人が参加していたが、いつも落選していた。肩を落としている主人を気の毒に思い、珍しく私が応募したところ当選してしまったのだ。アウトドアに興味がない方が当たるなんてなんだか皮肉な話で、主人は少し恨めしげな顔をしていたが、届いたテントを見て恨めしい感情も吹き飛んだようだ。
テントを買ったからには早速キャンプに行かねばらなない。何とか近場のキャンプ場を予約し、前日から準備をして大荷物を車に積み込んで家族でいそいそと出かけた訳だ。
案の定、テントを建てる作業に苦労したり、汗びっしょりなのに自宅に着替えの一部を忘れていることが判明したり、テントを固定する金具が地面深くにのめり込み、どうやっても抜けず泣く泣くそのまま帰宅する羽目になったなどハプニングはあったが、夜、隣のテントから聞こえてくるイビキが酷かったとか、バンガローに宿泊している家族が夕食で食べていたカレーがおいしそうだったとか、蝉の抜け殻をたくさん見つけたとか、花火をしているときの子供のキラキラした眼差しとか思い出をあげるとキリがない。
偶然にも満月で、曇も少なく月が綺麗だった。
夜空に浮かぶ満月の下を飛行機が飛ぶ。定規を当てて線を引いたように真っ直ぐな線が月の下に引かれるている。何だか『旦』という漢字を連想させられて、満月のまん丸の月と相まってボンタンが思い浮かぶ。
文旦とは、柑橘類の一種で漢字そのまま読めばブンタンだ。私の生まれ故郷では『ボンタン』と呼ばれていた。皮が厚くて身にたどり着くまで難儀するが、酸っぱさの中に甘さもあって美味しい。おすすめ。
対して思い入れもない故郷だが、やはり私の根っこに住み着いているようだ。
鳥のさえずりで朝起こされたり、夕方はひぐらしの声を聞きながら夕食を取る。たまに寄ってくる蜂や虻、蚊に辟易しながらも自然に触れていると自分の奥底にある記憶をキャンプの神様が呼び起こしてくれるのかもしれない。
一番の衝撃は隣のテントから聞こえてきたイビキの主はぽっちゃりのご主人かと思いきや、奥さんの方だったことだ。
こんな笑い話しが出来るのもキャンプならでは。
あまりきれいに建たなかったテントは、もっとアウトドアを勉強しなさい、キャンプの神様に叱られそうだが、またキャンプに行きたい。
次は文旦を持って行き、月明かりの下で食べようかな。