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クマノミはくねくね泳ぐ
『DIY』
長年読み方が謎だったが、そのまま『ディー アイ ワイ』で正しいようだ。知ったかぶりで『ダイ』と人前で読む前に知って本当によかった。
DIYといえば結婚してすぐ、一年間だけ住んでいた古いアパートを思い出す。
お世辞にもいいとはいえない環境だったが、安い家賃に惹かれて、転勤を見据えた仮住まいと割り切って入居を決めた。
が、甘かった。
あんバターサンドよりも遥かに甘い考えであった。
部屋は狭く収納も少ない。部屋には荷物が溢れていた。大通りから少し離れていたが、夜も車の音が響いてうるさい。さらにいつの間にか蟻の行列が部屋の中にできていた。2階の部屋まであの小さな蟻たちは下界から登ってきたわけだ。なんて根性だ。
せっかくの新婚生活だ。私も蟻に負けていられない。
問題点の一つである収納面を解決すべく、100均でスノコで簡単な棚を作ることにした。スノコを組み合わせて木工用ボンドでくっつけるだけのお手軽棚で、すぐ完成した。
工夫次第で生活は豊かになるのだ、とそれはソフトクリームより甘い考えとは知らずのんきに過ごしていた。
ソフトクリームが瞬殺されそうな暑い夏の日。会社から帰宅して玄関を開けると、スノコ棚がぱったり倒れていた。置いていたスナック菓子も共倒れして散乱している。軽い物しか置かなかったはずなので、重さに負けたわけはない。
近寄ってみるとなんと木工用ボンドが溶けているではないか!
木工用ボンドは南国の暑さに負けたのだ。
私は悟った。
センスのない素人にDIYは無理だ。
玄人がおしゃれに作った物を買うのが結局一番の近道だ。棚を作るより蟻に対抗すべくアリの巣コロリを買った方がよかったのだ。
そんなこんなでしばらくDIYから遠ざかっていたが、コロナ禍になる少し前、奄美大島に旅行へ行った。
すっかり奄美大島の虜になった私は、今年は奄美大島の景色を描いたカレンダーを飾ることにした。
過ぎた月のカレンダーは普通はめくって捨てるが、今回は思い入れがある。絵の部分だけ切り取って保管していた。
こんな時にセンスがあれば活用できるのに、とぼんやり思っていたところ、娘にねだられて100円の魚釣りセットを買った。
プラスチックでできた魚の頭と釣竿の糸さきに磁石が仕込まれている簡単なおもちゃだ。しかし、片付けられない親を見ているからかプラスチックの魚たちはいつも部屋に散らばっている。
このままでは教育上良くない上、魚たちはいつかルンバに吸い込まれるだろう。
そうだ、水槽を作ってあげよう。
猫がすっぽり入りそうな段ボール箱に、保管していたカレンダーの絵を貼り付けるとちょっとしたおしゃれな箱が出来た。
あの夏の終わり。
まだ暑い奄美大島の海で泳いだ記憶と水中にサンゴと色とりどりの魚たちが手足が届く距離を優雅に泳いでいたことを思い出す。
プラスチック製のおとぼけた顔をした魚たちも心なしか気持ちよさそうに見えるのだ。