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留守番電話と尊敬語で考えた話(ランダム単語) 第八話

noteオリジナル小説を書きたいと思い投稿してみます。

ランダムに単語を出現させるサイトで偶然出た(留守番電話)(尊敬語)を組み合わせて考えた小説です。読んでいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。全十話を予定しています。物語も終盤になりました

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ドア上の(校長室)の札を見ると、否応なしに緊張してきてしまった。本来は縁がない場所である。最後に訪れたのは、そうだ、中学の時に校長先生に模範生として褒められた時だ。ああ、あの頃が遠く感じる。それくらい今のこの状況が異常だってことなのだろう。

「よし、あんたらいいね、いくよ」

咲はそう言うと先陣切ってドアをノックした。流石の咲。彼女の辞書に躊躇という文字は載っていないのかもしれない。

外はすっかり暗くなっている。本来学生はみんな各々の寮に戻っているから、基本廊下は常夜灯の明るさしかなく薄暗い。校長室のドアは、校長がいる部屋だからといって、別段他の部屋のドアと差をつけて厳かにしてるわけではないんだけど、やっぱりこの暗さとドア札と、僕らがこれから行おうとしている事を踏まえると、やはり緊張感は半端なものではないのだった・・・。

「校長いる?」

咲はノックの返事も聞かずにがチャリとノブを回してドアを開けた。思わず喉を鳴らす僕。さっきから無言の文太も、図体に似合わず多分同じ心境なのかもしれない。

校長室はこれまた廊下と同じく薄暗かった。でも、その少ない光源は、廊下とは違い常夜灯ではなかった。大きな本皮のソファーと、年輪が映える豪華な木のテーブルの奥に、黒塗りの大理石の立派なデスクがあり、そこに置かれたデスクスタンドの灯りだけがこの緊張感のある部屋を照らしていた。

そして、そのスタンドの灯りを一番に集める、この部屋の緊張感の元凶がそこにはいた。

「・・・なんだね?君たちは」

この学校の校長である、黒魔砕雄(くろま くだお)先生だ。

「ちょっと校長に話があるんだよ」

しつこいかもしれないけど、咲は本当に躊躇という言葉を知らないようで、この独特の緊張感をものともせずに一歩前に踏み出した。

黒魔校長は初老の白髪交じりで、学校の外で見たら本当に普通の別段取り立てた特徴があるわけでもないおじさんなのだが、やはりこの狂った学校を束ねる存在というオプションが付けば、逆にその普通さが不気味で近寄り難い存在として僕には映った。全校集会での別ベクトルの怖さも相まって。

「・・・君は、一年の透場くんだね?後ろの二人は、君の事はよく知ってる。でも、君は知らないな。すまない、我が学園の生徒だというのに。何せこの学校は生徒数が多いものだから」

校長は多分あれはゴルフのクラブなんだろうけど、それを布か何かで磨いている最中だった。電気を点けた方がよく見えると思うんだけど、そんなことは口が割けてもいえない。

いや、そんなことより僕は驚いた。黒魔校長が咲の事を知っているのは、まあ、当然だろう。黒薔薇連合で派手にやっているわけだし。

でも、後ろの文太と僕の二人のうち、なんと僕の方を知っているということが驚きなのだ。文太だってクラスで大分派手にやってるのに。まあ、この学校なら文太クラスは珍しくもないのかもしれないけど、よりによってこの三人の中で一番目立たない僕の事を校長が知っているなんて・・・。

「あんたがあたしたちを知ってようが知らなかろうが、そんなことはどうでもいいんだ。あたしたちはこの学校の謎を解きに来た。そしてその手がかりが校長、あんたにあると睨んだってわけさ」

校長は咲の言葉に眉をしかめた。ただそれだけの行為だけど、この黒魔校長がやるととても恐怖に見え、僕は人知れず鳥肌が立った。

「・・・謎?七不思議の事かね?トイレの花子さんや魔の十三階段とかの。懐かしいね、私が学生時代にもそんな噂が流れていたものだ」

「あたしたちが追ってるのはそんな子供騙しな謎じゃないんだ。この学校にいる一部を除いて全ての人間が狂ってるってことを言ってるんだよ」

その一部の人間ってきっと松戸先生の事なのかな。でも、僕だって今は何故か敬語を使えなくなってしまったけど、一応まともな人間だと思うんだけどな。

「・・・ほう、狂っているとはまた過激な事を言うお嬢さんだ。流石、暴走族を率いているだけある」

「ふん!・・・あたしだってね、好きでなったんじゃないんだ。みんなこの学校のせいじゃないか」

ん?咲の今の言葉、どういう意味だろう?好きでなったわけじゃないって。見るからに好きで入ってそうな感じなのに。

「ほう、どうしてこの学校が悪いと決めつけるんだい?」

「・・・知らない。けどね、あたしたちはこの学校から出ることは許されてない。外部との連絡も一切取れない。それである日を境にみんなの頭がおかしくなった。これって絶対学校が何かを企んで絡んでいるって考えるのが普通じゃないのかい?」

「お、おい、透場、俺たちって本当に頭がおかしくなったのか?」

文太が不安そうに言った。

「あんたはおかしいと思わないのかい?そう思うから付いてきたんだろ?」

「そ、それは、その、まあ、確かにおかしいと思ったよ。みんな四月に入学してきて、一週間くらいしたら急に言動が荒っぽくなったからさ。俺はその、中学でもワルしてたからあまり変わらなかったけど・・・」

成程、文太はつまり筋金入りのワルだっていうことだね。

「でもこの学校がおかしいって思うのは事実だ。だからこうしてお前らについてきた。そ、それに・・・」

ん?それに・・・?どうしたんだ文太、咲を真っすぐ見つめたりして・・・。

「何さ?」

咲もちょっと戸惑ってるじゃないか・・・。ん?この流れってもしかして・・・。え!?文太よ!ちょっと待ってくれ!まさかお前、このタイミングでまさか咲に想いを告げようというんじゃあるまいな?何を考えてるんだ文太よ!落ち着いてくれ、まだ謎は解けちゃいない。目の前には黒魔校長までいるんだぞ?もう少しTPOを考えてくれ!そして、そして何よりも・・・僕より先に行動しないでくれ・・・。

「・・・これ以上、お前が変わっちまったのを見るのが辛いからよ・・・」

え・・・?お前が変わっちまったのって、それって咲の事・・・?

「は?何言ってんだい?あんた」

「・・・お前、こいつもそうだけどよ。入学式を休んだじゃねぇか。それからお前は三日ほどで学校に来たけどさ。そん時のお前は、今みたいな奴じゃなかっただろ?」

ど、どういうことだ文太よ!?僕は確かに入学当初から学校を休んだ、半月もね。でも咲もそうだったのは知らなかったな。まあ、三日しか休んではいないみたいだけど。

咲は文太のその言葉に暫くあっけにとられていたみたいだったが、やがて視線をまさかの僕に向けてきた。嬉しいけど一体何を言うつもりだい咲。

「さっきあんたに言ったよね。この学校が狂ったことを知った上でこの学校を選んだって・・・」

僕は咲のその言葉を覚えていた。そう、あれは屋上での会話だ。

(ふん、あたしはそれを知った上でこの学校を選んだんだ。あたしみたいな馬鹿にはお似合いの学校だからね。)

そう、確かに咲はそう言った。

「・・・覚えてるよ」

「矛盾してるって気づいたかい?だってこの学校がおかしくなったのは、四月からだ。つまりあたしたちが入学した後って事。なのに、あたしはこの学校がおかしいのを知った上でこの学校の世話になってるって矛盾に」

「た、確かに」

「まあ、言いたかないけどさ、あたしは元々身体がそんなに強いわけじゃないんでね。だから入学式を含めて三日間は学校を休んじまった」

知らなかった。学校を休んでいたことはまあいいとして、咲が身体が弱いだなんて。でも到底信じられない。黒薔薇連合のトップで自転車を乗り回し、喧嘩先輩の股座に蹴りを入れるような人が・・・。

「でも本当さ。だから良くなって登校しようと思ったら、姉貴から聞いた雰囲気とは全然違う学校になってるだろ?驚いたさ、勿論気づいた瞬間に登校拒否もできただろうけど、あたしは中学の時も身体崩して休みがちだったから勉強が遅れていてね、この学校しか入れなかったんだ。だから知った上で仕方なく入った。姉貴に詳しく話を聞こうと思ったけど、途中で携帯取り上げられるしね」

「透場はまだよかったさ、俺たちなんか入学式当日に携帯取り上げられて、外出禁止だって聞かされたから。親も入学式は出席禁止だった、学内の環境に早く慣れてもらう為だとか言われて・・・」

「ふ~ん、成程ね。これで少しは絞れるじゃないか。あんたもそうだろ?あんたの場合は半月学校を休んだ」

「え?う、うん・・・」

「つまり、入学式当日からいた人間と、あたしたちみたいに後から遅れて学校に来た人間とじゃ、おかしくなるのに微妙にラグあるって事。これって流石に学校が絡んでると見ておかしくないんじゃないの校長?」

咲の指摘はすこぶる鋭かったが、校長は狼狽える様子は無かった。寧ろ何かがっかりした様子で元気がないような気がする。

「・・・透場くんで三日のラグね」

そう言うと校長は、僕の方に視線を移した。

「・・・君は実際の所どれくらいのラグなんだい?」

僕は校長の不意の視線にそれこそ狼狽しそうだったが、ここは素直に答えることにした。

「は、半月程・・・」

僕のその言葉で、校長は更にがっかりしたように肩を落とした。

「・・・そうかぁ、半月もか。全く、あの装置はまだまだ欠陥だね。彼にはあとできちんと叱っておこう」

装置・・・?彼・・・?一体どういうことだ?校長は何を言ってるんだ?

困惑する僕を尻目に、校長は不意に自身のポケットから何やら取り出した。

どうやら耳栓の様で、校長はそれを両耳に入れた。

校長の突然の謎行動に更に困惑する僕だったが、やがて校内にチャイムが鳴り響いた。部活等で学内に残っている全生徒は全員、寮に帰るようにと促すチャイムだった。音色自体はいつものあの音ズレ不協和音と変わらないけど。

チャイムが鳴り終わると、校長は耳栓を外し、また僕の方を真っすぐ見据えた。

そして不意にこんなことを聞いてきた。

「・・・そもそも君はどうしてうちの学校に来たんだね。君の事はそれまで知らなかったが、ラグがあるのに気が付いた時に調べさせてもらった。中学の時は非常に成績優秀で品行方正な優等生だったそうじゃないか」

「・・・ああ、そうだよ、文句あるのか?俺だって好き好んでこんな所に来たわけじゃないんだ・・・」

俺がそう言った後、校長がにやりと笑い、咲と文太が何故か困惑したような顔をしているのに気がついたが、俺は気にせず話をつづけた。

「あんたの言う通り、俺は中学まで優等生だった。それは親からの躾がとても厳しかったからでもある。とにかくいつも言われていたのは、如何なる時でも相手を尊敬し、言葉は必ず尊敬語でなければならないってね。ふん、今思えばかったるいけどよ、そうやって育ててこられたんだから仕方ないわな」

「ほう?それは素晴らしい生徒だったんだね。それで?」

「本当は、親が推薦する名門校を受験するつもりだったんだ。まあ、難関として有名な所だったけどよ、俺の頭なら楽勝って言われてた。でもよ、いけなかった・・・俺がいけなかったんだよ!」

「・・・いけなかった?君は何かしたのかね?」

「違う!したんじゃない!出来なかったんだ・・・出来なかったんだよ・・・」

「何を?」

「・・・トイレ・・・」

俺のその言葉にみんなは一斉に「は?」と答えた。

「あんた、その話ってさっきあたしにしようとした話だろ?どういう意味だい?」

咲も大分困惑しているようだ。俺だって言いたかなかったこんなこと。しかも咲の前で。

「・・・あの日、あの名門校の受験当日の朝、俺は気合を入れて朝食を食べ過ぎたんだ。そのせいで駅に着いた途端、酷い腹痛になっちまった。しかも生憎、駅のトイレが故障中で・・・」

「そ、それで?」

「受験会場までの道のりを腹痛に耐えて進んだけどよ、もう限界だったんだ。しかも途中のコンビニも運悪く清掃中とかで全然入ることができない。そうやってトイレを探してあちこち探しまわっているうちに、とうとう受験時間を過ぎちまったってわけさ・・・」

俺の告白に周りはしんとなった。無理もない、こんな悲劇を聞かされちゃ、同情するだけで返す言葉など見つからないだろうから・・・。

「・・・は、くだらないね」

なんと、咲は静寂を破ったかと思えば、あろうことかそんな暴言を俺に浴びせてきた。途端に頭に血が上る俺。

「待ってくれよ!俺はめちゃくちゃ悲惨な目にあったんだぞ!?」

「知らないよそんな事、あんたみたいな秀才がこんな所に来るんだから、何かよほどの理由があると思って聞いてたけど、まさかトイレとはね。いけなかったって、トイレに行けなかったのかい。くだらない」

俺は咲のあまりにも配慮のない言葉に、思わずカッとなってしまったが、すぐに横目で不敵に笑う校長が視線に入り、理性を取り戻した。

「中々興味深かったよ。つまり、それで受験に失敗した君は、仕方なくこの学校に来たというわけだね?」

「あ、ああ。残された道はここしかなかったからな。でも親には失望された。まあ、当然だよな、俺も精神的にかなりショックで、入学式はおろか、半月は学校を休んじまったし・・・」

「成程、それで学校を休んでいたんだね。それでラグが発生した」

「ちょっと校長、さっきからラグラグって一体何の話だい?」

咲がイラついたように校長に詰め寄る。

「・・・ふん、君たちは気づかなかっただろうが、この学校のチャイム、あれに少し仕掛けをしていてね。あのチャイムを日常的に聞いていくと、どんどん頭の中が洗脳されていって、学校中が荒い言葉で粗暴な人間で溢れかえるって寸法だ」

「な、なんだって!?」

「一番効果があるのが、四月の入学式の時のチャイム。君たち新入生に向けて、早く洗脳されるように少し強めの電波を送っていたんだ。それを君たち二人は聞いていない。だから効果が出るのにラグがあったというわけだ」

な、なんということだ。まさかこの学校がそんなとんでもないことをやっていたなんて。

「まあ、元々粗暴な人間にはあまり効き目はないんだけどね。この電波の影響を一番に受けるのが、それまでが大人しくて真面目な人間だ。そういう人間程より効果が大きく表れる」

「・・・だ、だから俺はあまり実感ないんだな。それに、お前もさっきよりも大分言葉おかしくなってるぞ?」

と、文太にそう指摘されて、俺は気がついた。確かにさっきよりもさらに言葉遣いが悪くなってるし、僕から俺に変わってしまってるじゃないか。こんなこと前代未聞だぜ。

「何でこんな馬鹿ことしたんだい!?」

咲のイライラが増していくのが分かる。そりゃそうだ、俺だって同じ気持ちだこの野郎!

「・・・ふん、君たちに話す必要はないよ」

校長は俺たちの詰問に涼しい顔で微笑むと、さっきから手にしていたゴルフクラブのヘッドを弄りだした。そしてそのヘッドがポロリと取れると、校長はヘッドの取れた後の筒状の棒の先を俺らに向けてきた。そして、グリップの方を徐に自身の口の方に持って行くと、突然口に咥え、思い切り吹いた。

プシュ!!と、俺たちが校長の一連の謎行動に頭を傾げる暇もなく、筒状の棒の先から何かが飛び出すと、それが俺と咲の間を物凄い勢いで通り抜けるのが感覚的に分かった。そしてパシッ!!と後ろの壁の方で音がしたので振り返った。するとそこにあったのは薄暗いながらも吹き矢だということが分かった。

「なあに、この毒はちょっと記憶が飛ぶだけの白物さ。死にはしない・・・」

そう言って黒魔校長は、じりじりと俺たちに近づいて来るのだった・・・。













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