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留守番電話と尊敬語で考えた話(ランダム単語) 第五話
noteオリジナル小説を書きたいと思い投稿してみます。
ランダムに単語を出現させるサイトで偶然出た(留守番電話)(尊敬語)を組み合わせて考えた小説です。読んでいただけると幸いです。現在折り返し地点となっています。よろしくお願いいたします。下記よりスタートします。
追記 人物の呼び名の部分を修正してあります。
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午後の授業は淀みなく進んでいった。本当ならこんな授業風景は、一般の学校ならヘドロ並みの淀みなんだろうけど、この学校では淀みとは呼ばない。実にいつもの通りの授業風景で・・・。
「・・・おいお前!聞いてんのか!?」
「聞いてるよ!いちいちうるせぇんだよ!」
とか。
「・・・んだぁ?こんな問題も解けねぇのかお前は!おめぇみたいなクズは小学校からやり直しやがれ!」
「は!てめぇの教え方がワリィんだろ?てめぇこそ幼稚園からやり直すんだな!」
みたいな汚い言葉遣いが乱交している。これがこの学校の普通なのだった。
言葉の乱れは心の乱れとはよく言ったもので、心の乱れがあるからこそ、みんな粗暴で荒れ狂った人間になってしまっている。
最初来た時は本当に衝撃的だった。新学期に半月休んでしまって出遅れてしまった為、この学校がどんな所なのかをよく把握できていなかったのだ。だから間違って刑務所にでもやってきてしまったのかと錯覚してしまうくらい、この学校の荒れっぷりには閉口する他なかったのだった・・・。
僕は斜め前の方に座る、咲の背中を何となく見つめた。咲は頬杖をついて、先生の授業を聞いているのかいないのかよく分からない態度だった。注意されなきゃいいけど・・・。
咲はどうしてこんな学校を選んだのだろう。確かお姉さんがいたって言っていたな。まあ、この学校がおかしくなってしまったのは、四月のことらしいから丁度僕らの入学と重なってしまったんだよな。だから不幸としか言いようがないんだけど、それでも咲みたいな人にはこんな学校は似合わないと思う。だって・・・。
「聡明・・・」
僕は松戸先生が咲に言った言葉を思い出していた。理由はよく分からない。でも僕も咲が聡明と呼ばれる理由がわかるような気がした。
あれ?そもそも聡明って具体的にどんな人を言うんだっけ・・・?
僕は無意識に天井を仰ごうと視線を上げた。するとその途中で僕の方を見ている人物に気が付いた。前の席から先生に気が付かれないようにこっそりと僕の方を見つめてくる人物。
文太だった。文太はいかつい表情で、僕の方を見つめるというか睨みつけてきていた。
もしかしてまださっきの事を根に持っているのだろうか。だとしたら果てしなく面倒くさい男である。
僕はそっぽを向いて授業に集中することにした。
相変わらずの不協和音なチャイムの後、文太は先生が教室を出るや否や、僕の席へとズカズカと向かって来た。瞬時に咲に視線を送る僕だったが、残念ながら咲は意に介せずといった感じで、立ち上がって教室を出て行った。
そんな咲に小さくショックを受けた僕だったが、そんな心の痛みを慰める暇もなく文太は僕の席へとやってきて、これまた相変わらずの睨みを利かせてきた。
「おい!」
「・・・な、なに、いや、なんですか?」
「ちょっと面貸せ」
開口一番さっきの借りを返されて殴られるかもと思ったが、どうやら借りじゃなくて貸さなくてはいけないらしい。
僕は文太に従って後に続いて教室を出た。一体どこへ連れていかれるのだろう。まさか体育館裏にでも連れていかれて、そこで大勢の舎弟が待ち構えていて袋叩きに・・・。い、いや、止めよう、そんな恐ろしい想像をするのは。
文太が連れてきたのは購買部側の自販機の前だった。そこで文太は缶コーヒーのボタンを二度押した。あのコーヒーは確かさっき松戸先生も飲んでいたやつだな。
いや、そんなことよりも気にしなくてはいけないのは、文太がボタンを二度押したということだ。それはつまりコーヒーが二本出てくるということで、二本出てくるということはつまり・・・。
「ほら、飲め・・・」
ということだ。どうしたのだろう?文太が僕にコーヒーを奢るなんて。怒るならまだしも奢るんだよ?正気の沙汰とは思えない・・・。
「あ、ありがとう・・・」
まあ、礼は言わなくちゃね。
「・・・休み時間も限られてるし、俺はまどろっこしいのは嫌だから単刀直入に聞くぜ?」
僕は思わず喉を鳴らした。
「透場とお前はどういう関係だ?」
「え?」
意外な質問だった。意外といっても、じゃあ当然な質問を想定できていたかといわれるとNOだけど。
「ど、どういう関係と言われても、ただのクラスメイトです」
「だがさっき二人で出て行ったじゃねぇか、あれから全然姿見せなかったし、どこ行ってた?」
「え、ええと、それは・・・」
どうしようか、プール横の更衣室、薄がりの理科室なんて言うと、変な誤解を持たれそうだし、でも嘘じゃないし・・・。
「・・・き、君はこの学校がおかしいとは思わないかい?」
「は?なんだ突然?」
文太がそういうのも仕方がない。だって本当に突然だったんだもの。でも仕方がない、ここは話の本題をずらすしか術を見つけられなかったんだ。それに僕と咲が二人で話していたことはこのことだ。嘘をついてるわけじゃないんだし。
「僕と透場さんが話していたことだよ。この学校は三月まではまともだったんだ。それが、急に四月になってからおかしくなってしまった。どうおかしくなったかは君にも分かるだろう?」
「・・・どうって、確かにワルばっかりがいる学校だとは思ったけどよ。俺自身もワルやってるし、居心地はいい方だけどな」
「君はそうかもしれないけど、そう思わない人もいるんだよ。僕がそうさ。他にもいるかもしれない。第一、全員があんな汚い言葉で乱暴者だっていうのは不自然じゃないかい?」
「ま、まあな、先生もだし」
「だからどうしてこの学校がそんなことになってしまったのかを調べようと思ったんだ。その話をしていた」
「透場と?」
「そう」
「どうしてお前となんだ?」
「え?」
そう言われてしまうと困ってしまう。元はと言えば、この文太に絡まれたことが発端だ。それから成り行きで咲と謎を調べる事になったわけだけど。それを文太にどう説明したらいいものか。
第一、咲は何処へ行ったのだろう?さっき僕が文太にまた絡まれそうになったのに、全然気にせずに教室を出て行った。僕と一緒に謎を解き明かすんじゃなかったのか・・・。
「おい、何とか言えよ!」
文太の鼻息が荒くなる。持っている缶コーヒーも段々ひしゃげ始めていた。
「き、君も一緒に謎を追ってみないか?」
「は?」
「透場さんと僕の関係を気にしているんだろう?だったら心配ない。ただ僕たちはこの学校がおかしくなった原因を突き止めたくて偶然意見が一致しただけだ。だから君も仲間に加わるといい。透場さんも別に嫌とは言わないだろう。この場にいないのがいけないんだ・・・」
文太は僕の突然の申し出にしばらく考え込んでいたが、やがてひしゃげた缶コーヒーをグイと飲み干すと言った。
「よし、いいだろう。俺も仲間になってやる。確かにこの学校がおかしいのは事実だからな」
そう話す文太の顔は満足げだった。多分、文太の咲に拘る理由はあれだろう。
その反面僕の顔は寂しげだった。それは文太の気持ちを知ったからではない。今の僕の脳裏に浮かぶのは、咲の小さく微笑んだあの顔だった・・・。
「・・・三月までは普通だったんだろ?だったらいい人を紹介するぜ?」
文太は不意にそんなことを言った。
「え?誰を?」
僕がそういった瞬間、チャイムが鳴った。授業がもうすぐ始まる。
「話は後だ。透場さんもつれて三人で行こう」
文太は勢いよく飲み干したコーヒーをゴミ箱へと捨てた。僕はまだ飲みかけていたが、止む無く一緒に捨てた。
本当に文太を誘ってもよかったのだろうか。あの場ではああ言うしかなかったけど、咲怒らないだろうか?そもそも本当に一緒に謎を解き明かしてくれるんだろうか・・・。
「・・・でもよ、大丈夫か?」
文太は小走りで教室に向かう間に僕に言った。
「な、何が?」
「おかしくなった原因を突き止めようとしてる、お前だってその言葉遣い、おかしくなってきてないか?」
「え・・・?」
僕は思わず息をのんだ・・・。