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留守番電話と尊敬語で考えた話(ランダム単語) 第七話


noteオリジナル小説を書きたいと思い投稿してみます。

ランダムに単語を出現させるサイトで偶然出た(留守番電話)(尊敬語)を組み合わせて考えた小説です。読んでいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。全十話を予定しています。今回はあまり物語は動きません。

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初夏であっても流石にこの時間にもなると日が暮れてきた。

僕と咲と文太の三人は、校長室へと向かっていた。

喧嘩先輩の話によると、今年の春から教頭から出世したという、ここの校長は、その少し前に先輩を呼び出して、それまでのワルを褒めたということらしい。

学校がおかしくなったのは四月に入ってからということらしいので、その少し前に当時教頭だった校長が、先輩にそんな事を言うのは不自然だ。四月以降なら、校長も頭がおかしくなったということで、ある程度理解はできるけど。

いや、そもそもうちの校長は他の荒くれ先生とは少し違う雰囲気があるような気がする。確かに全校集会とかで話をする時の校長は、他の先生みたいに言葉遣いの荒い怖い雰囲気を持っているけど、なんていうのかな、怖さの中に冷静さがあって、ただ怒鳴られて怖いとかじゃない、冷徹な雰囲気を醸し出す、別のベクトルの怖さを持っているような気がするのだった。

「・・・しかし、腕が鳴るね」

咲は歩きながら指をポキポキと鳴らす。鳴らしているのは腕じゃなくて指じゃないのと聞いたら咲はどんな反応するかな。多分パンチが飛んで僕の骨が鳴ることになるだろうけど。

「・・・あ、あの、校長に会ってどうする気なの?」

僕は血気盛んな咲に勇気を出して声をかけてみた。というか、さっきからあまり咲と口をきいていないような気もしたからだ。

「え?そりゃあ、この学校がおかしくなった原因の可能性があるってだけでぶちのめす価値があるだろう?」

「あ、あまり手荒な真似はしない方が・・・。停学にでもなったらさ」

「あんた何ビビってんのさ。こんな荒れくれた学校に停学もくそもないだろ。そもそもあんたの為にやってんだよこれは」

僕はその咲の言葉にドキリとした。僕の為という言葉に思わず胸が鳴ったのだ。今日はいろんなところが鳴く日である。

「おい透場、どういう意味だよそりゃ」

文太が割って入ってくる。まあ、文太の気持ちを察するにそうしたくなる気持も分かるけど。

いや、待って。文太の気持ちって簡単に言うけどさ、缶コーヒー奢ってもらった時とか喧嘩先輩とのやり取りの時とか色んなときにその気持ちって見えてたと思うけど、やっぱりその気持ちって・・・。あれなんだよな・・・。

そして僕も今、咲の言葉にドキリとしたんだ。それってやっぱりあれなんだよな・・・。

「こいつが学校で浮きまくってるじゃないか。学内でこいつだけだぜ?敬語使って大人しくしてる奴、だからあたしが直してやろうと思ったのさ」

その行動は本当に嬉しいんだけど、本当にそれだけなのかい?咲・・・。

「でもよ、お前気づかなかったか?こいつだってさっきから敬語使ってないんだぜ?」

「え・・・?」

咲はあっけにとられたように立ち止まった。そしてジッと僕を見つめる。その瞬間、僕の心が揉みくちゃにされ、まるで揉まれたカイロのように熱を帯びてきた。やがてその熱は全身に渡っていく。

僕は何も言う術を持たず、ただ立ち尽くしていた。

「・・・そういえばそうだね。気づかなかった。あんたどうしたの?」

「・・・え、ぼ、僕も分からなくて・・・」

咲は視線を外すと暫く何かを考えているんだろうなという顔つきになった。何だろう、何を考えているんだろう。僕の事を考えているのは流れ的に間違いないだろうから、それを思うとまた熱量が増してくる。

「それなら別にあたしが骨を折る意味はないね、なぁんだ・・・」

咲はそう言うと急に酷くつまらない顔をした。

これは一体どういう風に捉えればいいのだろう。咲は僕の言葉遣いを直すという原動力で、これまでずっと行動を共にしてきてくれた。そういう認識で間違いはないんだよね。で、僕の言葉遣いが変わった瞬間、興味が失せてしまったということか。それは目的がなくなったから、これ以上一緒に行動する意味もないと考えている。そういう認識であってるんだろうか。でもそれでそこまでつまらない顔をするものなのだろうか。だって、肩の荷が下りたわけで、本当なら面倒に巻き込まれずにすむから安堵する方が正しい反応な気がするし。

僕は咲に今の心境を問いたくて堪らなかった。でもそんな勇気は、例え敬語を忘れて多少無作法になったとしても湧き上がってくるものではなかった。

「なんだよ透場、どうした?」

不意に文太がそう言った。途端に僕は文太に心の中で感謝する。聞きたいことを聞いてくれてありがとうと。でもそれは、文太もきっと僕と同じ気持ちだから聞きたいんだと思う。多分、咲に対する気持ちがこれで間違いないのなら、たぶんどんな人間でも、今は咲の一挙手一投足が気になるはずだ。

「・・・別に。校長を襲撃する大義名分が無くなってつまらないだけさ」

咲はぶっきらぼうにそう言った。

もどかしい。咲はいつも言葉足らずで真意が見えない。本当にそれだけなの?ねぇ、咲、教えてくれ・・・。

その瞬間、僕の脳裏に浮かんできた顔があった。

松戸先生である。薄がりの理科室でのあのやり取り。あの時の咲の様子。あれはやっぱり・・・。

僕の頭はどうにかなりそうだった。文太の気持ち、咲の気持ち、僕の気持ち、それらがマーブル状になって、昔の巨大特撮番組のオープニングみたいにぐちゃぐちゃになっている。あ、喧嘩先輩は無視します。すみません。

「・・・まあ、でもここまで来たんだしね、この学校がおかしいのは間違いないんだし、やっぱり校長をぶちのめす価値はある。それに・・・」

「それに?」

「それに?」

僕と文太はほぼ同時にそう言った。

「・・・やっぱ、喧嘩ってスカッとするじゃん!」

屈託なく笑う咲の顔。僕と、たぶん文太も見惚れていたに違いない。

そう、これはもう間違いのない事実。喧嘩先輩の時は、あからさまに咲が興味を持っていなかったからあまり意識はしなかった。でも、文太の気持ちは伝わるし、咲が松戸先生の前で見せた気持ちも伝わった。そしてかく言う僕の気持ちもこれまで謎だったけどはっきりした。

そう、三人とも共通して言えるその気持ちの名は(好き)だった・・・。








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