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16.人は何からでも学べるー京都木津川の流れ橋ー


学びの本質は観察にある

 知識を得ることは大切なことである。知識を得るために、人は何からでも学ぶことが出来る。先人から学ぶことは当たり前であるが、堺屋太一の「歴史から学ぶ」、畑村洋太郎の「失敗から学ぶ」、安岡正篤の「論語に学ぶ」など、学びは人からとは限らない。

 佐道健の「木を学ぶ 木に学ぶ」を読んで木の素晴らしさを実感することができる。重田康成の「アンモナイト学 絶滅生物の知・形・美/国立科学博物館」など形態学に関するものは興味深く、また奥が深い。

 良く考えると「学ぶこと」の本質は、「観察」にあることに気が付く。「読書百遍、意自ら通ず」という言葉もあるが、見たもの・聞いたもの・読んだものの本質をつかまえる鑑識眼かんしきがんが重要である。

 例えば、焼き物の世界では、飽きることなく、ものを良く見て「学ぶこと」が重要である。良い師につき、良い物をたくさん見ることで鑑識眼は養われ、効率良く「学ぶこと」が出来る。

 人は、まず自分の内に先人の知識と知恵の蓄積を行うことが必要である。その後、優れた鑑識眼により本質をつかまえてこれを突き破り、自分自身で新たな知識と知恵を積み重ねていくことで、進歩・発展するのである。
 これが本当の意味での「学ぶこと」ではないだろうか。

真竹まだけの観察から学べること

写真1 杉と真竹の対比から何が学べるか?考えてみよう

 杉の成長は、50年程度で直径:30cm、高さ:15~20mに達する。その後、高さは20~25mで止まるが、直径は年輪を形成しながら肥大化する。ひのきの成長は遅く、80年程度でようやく直径:29cmに達する。
 木は光合成を行うために、成長と共に枝葉が広がり大きな風圧を受ける。そのため根本付近は太くなりしっかりと根を張ることで、折れたり倒れたりしないように自己防衛している。

 一方、真竹まだけは4月頃にたけのことして芽を出し、5~6カ月で直径:5~10cm、高さ:10~20mの親竹に急成長する。伸び盛りの筍の1日の成長は真竹が121cm、孟宗竹もうそうちくが119cmと報告され、この成長の猛々たけだけしさが、竹の語源といわれている。
 親竹になると杉や檜のように毎年直径が肥大化することもなく、背が伸びることもない。竹は大きな風圧を受けると、上半部が風になびくように水平に変形して耐える。変形し易いように幹は中空構造で、根本付近では節が密になり補強している。

 以上のように、杉や檜は強風に倒されないよう大きな力が作用する根元付近を太くし、必死に耐えている。一方、竹は強風を受けても自身を大きく変形させ、受け流しているのである。

京都木津川に架かる上津屋こうづや

 木造橋は、石橋とは異なる独自の発展を遂げている。すなわち、橋を架ける周辺状況や利用状況に応じて異なる技術革新が求められるため、様々な形式の木造橋が架けられてきた。

 中でも、入手可能な木材の長さよりも広い川幅を渡ることができる木造りの桁橋けたばし橋が良く知られている。プレートガーター橋(Girder bridge)とも呼ばれ、「飛び石」のごとく橋脚を立てることで広い川幅に対応した。

 京都府久世郡久御山町と八幡市の境を流れる木津川に架かる上津屋橋こうづやばしは、現存する日本最長の木造りの桁橋である。正式名は「府道八幡城陽線上津屋橋」で、高欄のないシンプルな人道橋である。

写真2 八幡市側から見た日本最長の木造り桁橋「上津屋橋」(2011年4月撮影)

 特徴的なのは、台風などによる河川の増水時に激流に逆らうことなく、橋脚に載せてあるだけの橋床が流され、橋脚のみが残ることで、激流を受け流す仕組みである。
 橋に流木などが溜り、流れを妨げることで水かさが増し、堤防を越えて周辺に洪水を起こすなどの壊滅的な被害を抑えるのが目的である。分割された橋床の各ユニットは鋼製ワイヤロープで橋脚に連結されている。

 そのため、通称「流れ橋」とも呼ばれる。昔は渡し船が運航していたが、それに代わり1953年(昭和28年)3月に架けられた。橋長:356.5m、全幅:3.3m、橋脚73基のうち、17基は鉄筋コンクリート製の木造りの桁橋で、水面からの最大高さ約6mである。

写真3 橋床は鋼のワイヤロープでつながれて橋脚に連結されている(2011年4月撮影)

 第二次大戦後で永久橋を架ける物資が不足していた時期でもあり、広い川幅に対応した木造りの連続桁橋が架けられて、現在に至っている。
 たびたび近代的な橋への架け替えが提案されたが、昔ながらの風情ある景色として残されてきた。生活橋であるが、時代劇の撮影現場としても良く使われている。

写真4 八幡市側の堤防の上に設置された「ながればし石碑」

 2011年(平成23年)~2014年(平成26年)に4年連続で台風による流出が発生(一部の橋脚も流出)し、復旧方法が 有識者で構成する「上津屋橋(流れ橋)あり方検討委員会」で検討され、2015年に改修工事が行われた。 

写真5 台風による増水で流失した上津屋橋 出典:京都府山城北土木事務所

 2015年(平成27年)の改修でも、以前と同じ流出可能な木造橋による復旧を基本とした。増水時の流木等の影響を低減するため支間長(スパン)を約2倍(平均4.9m→9.1m)とした。
 また、流出頻度を低減するため橋面高を75cmかさ上げし、耐久性向上のため杭木くいきをコンクリート構造(PHC杭:プレテンション方式遠心力高強度プレストレスコンクリート杭)へ変更などの対策が施された。 

 2019年(令和元年)、「上津屋橋は、わが国で屈指の大規模な木造流れ橋で、コスト縮減を図りつつ風情ある景観を保つ取り組みが続けられている優れた土木遺産」として土木学会選奨土木遺産に登録された。
 5本組の橋脚の中央3本はPHC杭(直径300mm、長さ12m)で、両側の控木や床木などは、できるだけ再利用が行われた。 

写真4 2019年(令和元年)に土木学会選奨土木遺産に登録された「上津屋橋」出典:土木学会

 2023年(令和5年)8月15日に、台風7号の影響により流れ橋が流出し、現在(2024年4月)は通行止めとなっている。
 国土交通省淀川事務所が公開している流れ橋(上津屋橋)のライブカメラにより現状を確認することができる。


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