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内なる宇宙への旅1972~「Irricht(狂光 )」

*新シリーズ、いまは深く埋もれてしまった「名盤・妙盤・奇盤他」を掘じくり出して、ちまちまと紹介していこうとゆーコーナーです♪ただし、ジャンルはそーとー偏ってます……

──1970年代は、これまでにない新しい音楽が次々と生み出されていった時代でした。そのころの小生はロックとかジャズ、歌謡曲などだれもが聞くようなジャンルを聞くことはほとんどありませんで、いままでに聞いたことがない未知の音楽を貪るように探しまくっていたのです──

…すでにマニアックなクラシック愛好家だったので、当初はいわゆる「現代音楽」という前衛音楽のジャンルを漁りました。そこは音楽というより珍妙キテレツな音響が、超ひも理論ばりの複雑怪奇な理論体系によって構築されている音世界です。指揮者で作曲家の山本直純さんが司会(いまはMCというのか)をしていた人気テレビ番組「オーケストラがやってきた」で、武満徹作品とかそれ系の作品が紹介されたりすると、ああいう曲をもっと聴きたいと切望する、やや変な少年でした。

──そんな様子を見かねたのか、吹奏楽部の同級生が、「コレ、おまえにぴったしな曲だよ」と一本のカセットテープをくれました───ソレがピンク・フロイドの傑作「原子心母」でした。

もうね、まずこのタイトルにシビれましたよ。これだ!と思いましたネ。とりわけ、中間部の女声スキャットからフルコーラスに進んでいくあたりがもう超宇宙的で最好物!同じ頃人気かつ衝撃的だったTVアニメ「宇宙戦艦ヤマト」の主題歌の印象的な女声スキャットにも通じる、大宇宙を感じさせてくれるサウンドなんです!!(←やや興奮気味)

…これがのちに、アンビエント、トランスへとつながる、”内宇宙航路”の旅への第一歩だったのです──

──しかしここで紹介しようというのは、もういまさら説明する愚を犯すべきものではない原子心母ではなく、その次あたりで出会った、超内宇宙的音世界体験です。

…そこにたどり着く前提として、G.ホルストの「組曲・惑星」に文字通り惑わされていました。求めていたのは、このテの宇宙音楽です。宇宙を感じさせてくれるサウンドです。だからアース・ウインド・アンド・ファイヤーの「宇宙のファンタジー」には、ショージキがっかりしたのでした(ファンの方すみません・余談)。

原子心母からのプロセスを経て、ある時偶然にたどり着いたのが、「イルリヒト」と題されただけの一枚のレコードアルバム。このタイトルが「鬼火」とか「狂光」と訳されているのをのちに知りました。あらためて心酔しなおしたのでした。

…この頃の洋楽新譜には、何の情報もありませんでした。ましてや「プログレッシブ・ロック」なるジャンルなど、周りに知っている人など皆無です。そもそも、そのジャンル名の意味すらわからんのです。それでも、ここにこそ、求めてきた、まだ誰も聞いたことがない未知の音楽があるのだと信じて、店頭にあるすべての盤をチェックしつづけました。当時は、試聴コーナーすらありませんでした。ですから、いわゆる”ジャケ買い”です。

この頃の洋楽ファンなら、誰でも経験していることでしょう。レコードジャケットの絵と付帯する帯に記されたアルバムタイトルと曲名、そしてアオリのキャッチコピーだけを頼りに、どんなバンドがどんな曲を演奏しているのかも皆目わからないまま、自分の勘だけを頼りに2500円という大枚を投じたのです。

で、このジャケ(冒頭の写真)ですよ。どこですか、地球?そこで佇んでいるのはいったいだれですか、そもそも人間なんですか?この絵を描いたのは誰?演奏者はどんな人ですか、そもそもどんな音楽なんでしょう…

1. 地の章 2.雷の章 3.シルス・マリア 
シンセサイザー:クラウス・シュルツェ

オーケストラと電子音楽による黒暗世界…途中から暗黒の深遠にひきづりこまれるようなサウンドメエルストロームが始まります。ここであまりの恐怖に聞くのを止めたという人もいるほどです。…たしかに怖い、音楽を聴いて恐怖を感じるのは初めてです…しかしそれを乗り越えると、むげんにたゆたうかのような静穏な世界がいつ終わることもなく持続してゆきます──

…まさに大宇宙の深淵と永遠の平穏を感じさせますが、いや、まて、これは宇宙船が飛び交う外の宇宙ではなく、自身の内宇宙ではあるまいか?──といって、この作品を瞑想のBGMに、などとおもってはいけません。バッドトリップです。かなりやばいです。心奥に闇を抱えた人間が聞くことを許さない(危険な)音楽なのかもしれない…

──作品を自作自演したのは、クラウス・シュルツェ。”ワーグナーの継承者”とまでいわれた、ドイツではかなり知られた大物アーティストでした(2022年没)。この作品は1972年のソロデビューアルバムです。

彼の作品は、レコード時代もたいがい長い曲ばかりなのですが、CDになると、録音限界ギリギリの70数分で一曲とか(切れ目なし)、はては木箱に入った10枚組とか50枚組とか、尋常な量ぢゃない膨大な録音を残しました。最近すっかり名前を聞かなくなった喜多郎(NHKの「シルクロード」のテーマ曲で有名。グラミー賞も取りました)はまだ無名の時代に、来日したシュルツェにシンセサイザーを教わったんだそうです。

現代のトランスやテクノなどのクラブ系電子音楽(エレクトロニカ)の原点ともいえるのが、クラウス・シュルツェなのです。そのスタート地点となったのが、このイルリヒトといえましょう。

”コズミックミュージック”と呼べそうな、けれど70年代特有の妖しげ感を醸し出していて、作品自体はジャケの印象を裏切りません。この動画は、未収録トラックをボーナス追加した再販CDのものです。

*この記事にもしもスキが付けば、引き続きクラウス・シュルツェの紹介をしてゆこうとおもいます。付かなければ、これで終わりです笑。

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