秘密保持契約書の審査マニュアル④(前文①:契約当事者)
BtoBの製造業の上場会社において、法務として働いている筆者が、企業法務10年の経験を踏まえて、自分のために又は企業法務に配属されたばかりの方向けに秘密保持契約書の審査マニュアルを作成する。
今回は、第4弾として、「前文①:契約当事者」について、考えてみる。
1.前文の内容
前文とは、表題(タイトル)と第1条の間に記載されている部分をいいます。
秘密保持契約の前文では、契約当事者が秘密保持に関して秘密保持契約を締結する旨を記載します。
これに加えて、共同研究開発や具体的な取引の可能性を検討するなど、秘密保持契約を締結する目的を記載することもあります。
次の例は、前文に目的を記載したものになります。
ここからは、前文を規定するときに注意すべき、「当事者」と「目的」のうち、今回は「当事者」について説明します。
2.当事者
(1)一般論
契約当事者とは、契約の効果が帰属する者です。
契約の効果が帰属する者とは、会社の事業部や営業部ではなく、法人である会社です。
そのため、前文の当事者の表示は会社自体ですので、以下の例でいえば「AAA部」や「営業部」という表示は削除することが望ましいです。
もっとも、単にXX株式会社と株式会社YYとの間の契約とすると、その事業部のための契約にもかかわらず、全社的な取引にも適用されてしまうことになります。
そこで、前文にその旨を明記して契約が適用される部門を限定する旨を明示することもあります。
(2)秘密保持契約における特有の検討事項
秘密保持契約における特有の検討事項として、まず、開示者当事者・受領当事者が網羅されているかを確認する必要があります。
開示当事者としては、例えば、子会社が親会社に営業委託をしているような場合(子会社の製品を親会社の営業部員が代わりに販売するような場合)、子会社からのみ情報を開示するのか、親会社からも情報を開示するのかという点を考慮して契約当事者を決定します。
一般的な秘密情報の定義上、契約当事者から開示された情報だけが秘密保持契約で保護されることとなります。
もし親会社からも情報を開示するのに、契約当事者は子会社のみで親会社が含まれていない場合には、親会社から開示された情報は、秘密保持契約で保護されないこととなります。
もっとも、例えば親会社のみを契約当事者とし、すべての情報を親会社経由で開示する場合には、親会社のみを契約当事者とすることも可能です。
逆に、受領当事者としては、誰が情報を受領するのかという点を考慮して契約当事者を決定します。
例えば、子会社が親会社に営業委託をしているような場合(子会社の製品を親会社の営業部員が代わりに販売するような場合)において、実際に取引をするかどうかの検討段階では、開示当事者は子会社の技術者に対してのみ、どんな商品を必要としているかなどの情報を開示する場合があります。とはいえ、この場合でも取引を実際に開始するかどうかは親会社の決定が必要ですので、子会社から親会社に情報を共有する必要がある場合があります。
このような場合、当該子会社としては、①親会社も契約当事者とする、又は②子会社だけを契約当事者とし、必要な範囲で情報を親会社に開示することができるようにするとともに、もし親会社が情報を漏洩した場合には、子会社が責任を負うと定めることがあります。
開示当事者としては、親会社が情報を漏洩した場合に親会社に直接責任を問うことができるため、①の方が望ましいです。
その一方で、受領当事者としては、子会社の取引に関して親会社が責任を問われる可能性があることから、②の方が望ましいといえます。
いずれにしろ、親会社がどの程度子会社の取引に関与するか(最終的のみに関与するのか、初期段階から親会社の社員が関与して直接情報を受領するのか)や、親会社を契約当事者とすることにより社内的な承認手続きの負担などを考慮して決定されます。
3.おわりに
以上が秘密保持契約の「前文①:契約当事者」についてです。
次回、「前文②:目的」について更新していきたいと思います。