本が好きな理由を考えていたら、サッポロ黒ラベルが飲みたくなったという話。
高くそびえたつ高層ビルに目を引かれる。
六本木や虎ノ門を歩き「あの高層階には、どんな人がいるのかなぁ」と妄想しながら見上げたことは数えきれない。
そんな憧れが関係あるのかはわからないが、うちには決して広くない部屋に、天井まである本棚が高層ビルのようにそびえ立っている。
ちなみに、世間からいわれるような「読書家」ではない。
カバンにいつも本がないと不安に駆られちゃうよという活字依存症でもないし、暇さえあれば本を読んでしまうということもない。暇が出来たらもっぱらシムシティで高層ビルを建て散らかしたい。
そこまで読書にぞっこんというわけではないのに、本に特別な思いを抱いてしまうのは、なぜだろう。
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30歳という人生の節目を迎え、自分の人生についてこれまで以上に考えるようになった。それにともない、思い悩む事も増えてきた。
そういう悩みは、知らず知らずのうちに膨らんでいくものだ。
そして気づいた時には、孫悟飯に追い込まれて自爆寸前のセルのようになっている。
そうなっても瞬間移動でみんなを救う孫悟空は現れないので、膨らんでしまう前に処理しないとなーとは思う。
ただ、人に悩みを相談する、人を頼るというのが、すこぶる苦手なのだ。
「いやー、こんな事話されても迷惑かな!」
「話すのも何だか恥ずかしいし!」
「こんな事話して嫌われちゃったらどないしよ!」
そんな気持ちが「頼りたい」「相談したい」と言う気持ちをごぼう抜きして鮮やかにフィニッシュを決めてくる。
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誰かの言葉がほしいけど、誰かを頼ることがはばかられるとき、気づけば高層ビルのようにそびえ立つ本棚の前にいる。
この時、どの本が面白そうか、どの本が気を紛らわしてくれるか、ではなく、「誰の言葉が欲しいか」で本を探す。
連戦連敗の中にこそ人生の面白さがあることを叩き込んでくる建築家。
その企画は誰を幸せにするのか?を問うてくる放送作家。
肩書きにとらわれず、自分が思う美しく面白い笑いを追求してきた劇作家。
いいから行けよと言葉で背中を押してくれるクリエイティブディレクター。
高層ビルの本棚には、これまで自分が刺激を受けたり、尊敬する人たちがいる。
本を選んでいる時の気持ちは、このような人たちの誰に会いに行こうかなと悩む気持ちに似ている。…なんて贅沢な。
そして、本を開くという行為は、このような人たちから話を聞くことと同じなのかもしれない。…なんて贅沢な part2。
本を開けば、そこに、その人の言葉がある。
本に特別な思いを抱いてしまう理由は、ここにあるのかもしれない。
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この文章を書きながら、サッポロ黒ラベルの大人エレベーターというCMのことを思い出した。
俳優の妻夫木聡さんが「大人エレベーター」に乗って、フロア数に応じた年齢の大人に出会い、サッポロ黒ラベルを飲みながら「大人」というテーマで対談をする、あのCMである。
「あの人だったらどう考えるんだろう?」
そんな気持ちを抱いているという意味で、本棚の前に立つ時と大人エレベーターに乗り込む時は、似ているのかもしれない。
大人エレベーター、乗ったことないし、どこにあるかもわからないんだけど。
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そんなことを考えてたら、いっそのこと、本棚を大人エレベーターと同じような仕組みにしてしまうのはどうか?という妄想が膨らんできた。
今の本棚は、本のサイズやジャンルを考慮して区画を分けている。
そうではなく、ジャンルもサイズもバラバラで「著者の年齢」で分ける。
大人エレベーターが上の階へ行くと年齢が上がるのと同じように、上の区画に行くほど著者の年齢が上がっていく。つまり、上を見上げるほど、人生の先輩の言葉が見つかる…という本棚だ。
例えば一番上が100歳の区画だとしたら、100段ある本棚ということになる。ここまでくると、その段に行くために本当にエレベーターを設置しなければならないかもしれない。
「著者がひとつ歳を取ったら、一段上の区画にあげるのか?」
「そもそも一段目は何歳に設定するんだ?…まさか1歳?」
「100段ある本棚は構造的に作れるのか?」
そんなことも同時に思いついたが、ここでは考えない。単なる妄想の話である。
しかしそういうテーマで作る本棚とか、図書館とかがあっても面白いかもしれない。
そんな本棚の目の前に立った時の気持ちは、きっと大人エレベーターに乗っている時と同じに違いない。
もし一緒にその妄想を膨らませたいよという方がいらっしゃったら、是非ご一報をいただきたいところ。一緒に妄想を語りましょう。サッポロ黒ラベルでも飲みながら(※世の中が落ち着いたら)。