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【OAK】オークランド・アスレチックス最後の日【その1 移転は誰のせいなのか】
※ヘッダーはSacramento Beeから
アメリカ時間2024年9月26日、アスレチックスがオークランドでの最後の試合を行った。
2018年からnoteで書き続けているファンとして、オークランドにおける最後の試合について書かないわけにはいかない。
オークランドの最後の試合に合わせて、モントリオール・エクスポズの最後の試合の映像が度々流れてきた。そこで気になってエクスポズの最後の試合について書かれた何かを探しても当然見つからず。
それならば、今回のオークランド・アスレチックスの終焉について、何かアーカイブできるものを残しておきたいと思った。一ファンの分際だが、今回の経緯をどう評価し、最後の日には何を思っていたのかというところを書き記していく。
移転は誰のせいなのか?
簡単なあらましを書いておこう。1901年にフィラデルフィア・アスレチックスとして誕生し、1955年からカンザスシティに移転。そして1968年からはオークランドに移り、2024年までオークランド・アスレチックスを名乗っていた。
1972-74年の3連覇、1988-90年のリーグ3連覇(89年に世界一)という二度の黄金期、2000年から今に至るまで低予算で11回のプレーオフ進出を成し遂げた"マネーボール"期。多くの印象的なチーム、そして伝説的名選手の思い出をアスレチックスはオークランドに残した。
しかし、ほぼ四半世紀に及んだ新球場探しは、多くの者が望まない形での決着を見た。チームはベイエリアにおける最後の新球場計画であるハワードターミナルの新球場計画が頓挫した後、ラスベガスへの移転を発表。そして、ラスベガスの新球場が開場する2028年を前に、コロシアムのリース契約が切れた。オークランド市とアスレチックス球団はコロシアムのリース契約の延長で折り合うことができず、球団はサクラメントにあるジャイアンツ傘下AAAの球場を使用することとなった。サクラメントの球場(サッターヘルスパーク)では2028年までの3年間をひとまず過ごすことが予定されている。
後々、オークランドの移転についてどのような評価が下されているかは分からない。ただ、確かなのはファンのせいではないということだ。
メジャーリーグのことを知っている人なら耳にタコができるほど聞いているはずだが、オーナーのジョン・フィッシャーが悪役となっている。ただ、日本語メディアの書き方では、近年の成績と動員の低迷に触れる程度の記事も多い。やはり念の為、オーナーがとてつもない量のバッシングにさらされていることを書き残しておく。
ジョン・フィッシャーはなぜ悪名高いのか?
ジョン・フィッシャーの悪名のそもそもの部分を言えば、「大富豪のクセしてドケチ」というのが一番先に来る。
フィッシャーは純資産ならばMLBのオーナーでも有数の富豪であるにもかかわらず、彼が所有するアスレチックスの総年俸は常に球界最底辺だった。
それでもアスレチックスはフィッシャーの下、7回のプレーオフに進出した。しかし、地区シリーズより上のステージで戦うことはついぞなかった。
2018年からの3年連続プレーオフ進出を支えたスター選手マット・チャップマンは「あと1人良い選手がいればワールドシリーズにも…」と、オーナーの非献身的姿勢を嘆いていた。
特に同時期のコアプレイヤーだったマーカス・セミエンを流出させてしまったことを、チャップマンは特に悔やむ。2020シーズン後にFAとなったセミエンに提示したオファーはわずか1年1250万ドル、しかも基本給250万ドルで残りの1000万ドルは100万ドルずつを10年間後払いするという厚顔無恥なものだった。しばしばフィッシャーのケチさの代表例として上がる逸話だ。
ただ、総年俸が低いチームだけなら、他にもいる。アスレチックス以上にコスパ良く成功を収めているタンパベイ・レイズが良い例だろう。しかし、レイズの総年俸の低さはある意味、「選択と集中」の結果でもある。
レイズはわずかな資金力を分析部門に費やしている。上の記事によれば、2023年時点でレイズには球界最多の44名のフルタイムアナリストが揃っている。これはレイズの何倍もの資金力を持つヤンキースなどよりも上だ。
反面、アスレチックスは「マネー・ボール」でも知られるデータ分析の元祖でありながら、球界最小の8人のアナリストしかいない。これはフィッシャーにより予算削減、分析部門の縮小が導いた惨状だ。
Ross Stripling on how the Dodgers' investment in analytics is on another level 📈
— Foul Territory (@FoulTerritoryTV) August 29, 2024
He says the A's stopped at the Moneyball era and he's heard that Cardinals analytics was just Yadier Molina. pic.twitter.com/o1LXH6RTd4
今季から新加入のロス・ストリップリングは、アスレチックスの分析について「マネー・ボールの時代で止まっている」と手厳しいコメントを残している。アナリストの数が球界最小であれば、さもありなんという感じだ(ただ、上記で引用した記事からはアスレチックスの分析部門が少数精鋭で頑張っていることが伺える。実際に彼らは良い仕事をしている)。
また、アスレチックスのフロントではパンデミック以降、フィッシャーへの不信感が増しているという。
フィッシャーがオーナーになる前から重鎮であるビリー・ビーンやデビッド・フォーストには敬意が払われる一方、それ以下のスタッフは容赦なくクビを切られるためだ。特にコロナ禍の際には、スカウト陣は血も涙もない一時解雇の憂き目にあった。そして多くが一時解雇の後、チームに戻ることはなかった。
そして、ケチさをより批判の的としているものが、ジョン・フィッシャーという人間の度量の小ささだと私は思う。この男の小ささから来る人の神経を逆撫でする才能は、どこか並外れている。
2020年、フィッシャーはパンデミックによるマイナーリーグの中止に乗じて、マイナーリーガーへの週給400ドルの給与支払いを公に打ち切った。
そして、世間の猛反発を浴びると、それを撤回した。フィッシャーは「オズの魔法使い」のように、表舞台にはほとんど姿を現さない。しかし、彼が公に何か語り出すとき、彼は必ず失言を犯す。
サクラメントの移転の際の会見では「このメジャーリーグで最も親密な球場で、アスレチックスの選手やアーロン・ジャッジのような球界最高の選手たちがホームランを打つのを見られるのが楽しみ」と発言。
「敵チームのホームラン楽しみにすんなや」「そもそもアスレチックスの選手知らないんだろ」と総ツッコミを受けた。とにかくこの男は間が悪い。
極めつけに、フィッシャーはオークランドでの最終戦を前に、ファンに手紙を認めた。
皆さん一人ひとりに個別にお話しできればよいのですが、心から言えるのは、私たちは努力したということです。オークランドに留まることが私たちの目標であり、使命でしたが、達成できませんでした。そのことに対して心からお詫び申し上げます。
「皆さん一人ひとりに個別にお話しできればよいのですが、」嘘である。だったらメディアの前に姿を現して、ファンの代弁者である地元メディアの前で正々堂々と答弁すべきだった。そもそもフィッシャーは、移転問題で大々的な批判を受ける前からほとんど試合に足を運ばない。スタジアムで目撃される姿も、たいていイヤホンを耳につけ、スマホをいじる姿だ。
「心から言えるのは、私たちは努力したということです」言い訳に過ぎないだろう。
「オークランドに留まることが私たちの目標であり、使命でしたが、達成できませんでした」だったらチームを売ればいい。チームを引き継いでベイエリアに残そうという気力のある大富豪がいることは知られている。
Dear John,
— Trevor May (@IamTrevorMay) September 23, 2024
With all due respect, which is more than you likely deserve, save it. Be an adult. Get in front of a camera and say it with your chest. Releasing a letter, clearly written by someone else, and including a bunch of names you DEFINITELY do not know, is just… pic.twitter.com/3nOOC9xBit
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この“手紙”に最も過激な批判を加えたのが2023年にチームに在籍したトレバー・メイだ。かのリバース・ボイコット・ゲームで試合を締めくくったメイは、2023シーズン終了時からフィッシャーを批判することを厭わなかった。
レンジャーズとの最後の3連戦を前に出されたこの“手紙”には、地元メディアである『サンフランシスコ・クロニクル』も「葬式で殺人犯が喋るのなんて誰も聞きたくない」と批判した。
このように、フィッシャーは表舞台での振る舞いをとことん理解していない人物だ。それこそが彼がビジネスマンとしても、オーナーとしてもほとんど表舞台に姿を現さない要因でもある。
https://www.sfgate.com/athletics/article/Who-is-John-Fisher-Inside-the-world-and-16315323.php
これは元『ジ・アスレチック』のアスレチックス番記者だったアレックス・コフィーが謎に包まれたフィッシャーの人物像に迫った記事だ。
この記事で描かれるフィッシャーの人物像を紐解くキーワードは「頑固さ」、そして「自分の力で何かを作り上げたい」という憧れだ。
フィッシャーはGAP創業者である両親から一家のポートフォリオを引き継いでくれと依頼された際、強い拒否感を示した。
“I don’t know anything about the investment business – and I don’t wanna know anything about the investment business,” he said. “I want to build things. I want to be an entrepreneur and I want to build businesses or build shopping centers or whatever it may be.”
「私は投資ビジネスについて何も知らないし、知ろうとも思わない。何かを築きたいんだ。起業家になりたいし、ビジネスやショッピングセンターを作り上げたいんだ」
しかし、結局は折れて家族から投資管理を引き継ぐと、彼は手痛い失敗を犯す。彼が手動した木材産業への参入は、環境活動家から大バッシングを浴び、GAPにダメージをもたらした。この失敗がフィッシャーの今の頑なな秘密主義や寡黙さに繋がっていると、コフィーは指摘する。
しかし、彼の中にある「自分の手で何かを築き上げる」という渇望は、長く尾を引くことになった。
それが、度重なる新球場計画の失敗の遠因だ。
フィッシャーは6度の新球場計画を企てたが、その内1回も現在のオークランド・コロシアムの敷地に新しい球場を建て直すことを検討すらしなかった。前オーナーのルー・ウルフは早い段階でコロシアムの再建案を考えたが、当時は共同オーナーだったフィッシャーは乗り気ではなかったという。
2016年までアスレチックスの少数オーナーだったガイ・サパースタインは「コロシアムの再建する方が手早く、簡単だっただろう」と語っている。
しかし、フィッシャーが代わりに選んだのは、様々な環境規制や手続きにさらされる、壮大なハワードターミナル計画だった。
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(↑中3だった当時のもー中学生が書いた記事です。恥ずかしくて読めないくらいには拙いですが、健気で泣けてきます。特に予想オーダーのところ)
周辺の開発事業、空き家となるコロシアムの再開発、そして駅と球場を繋ぐゴンドラ・・・。ハワードターミナル計画は魅力的だったが、壮大すぎた。
結局、この計画は環境関連の問題をクリアできず、2023年をもって時間切れに。最終的なオークランド市とアスレチックスの条件の差は9700万ドルだった。
小さい金額だとは言わない。アスレチックスはこのとき、パンデミックの打撃を受け、資金繰りが苦しかったのは事実だ。そしてオークランド市も赤字に苦しんでいた。
しかし、実現可能なコロシアム再建ではなく、あくまでゼロから作り上げることに固執したこと。それこそがオークランド・アスレチックスが失われた一因であり、それは間違いなくフィッシャーに責任がある。
先ほどのメイの批判にあった「お前は所有することは大好きだが、行動を起こすことを嫌った」というのは本質に近い。ただ、正確を期すなら、フィッシャーは行動を起こして成功した試しがない。それが彼の大きなコンプレックスなのだ。
彼はラスベガスでついに大願を成就できるだろうか?
アスレチックスがオークランドを去ることについて、フィッシャーの責任がないとは言い難い。ジョン・フィッシャーはオークランド・アスレチックスを殺した実行犯だと語り継がれていくはずだ。
しかし、本当にフィッシャーだけの責任なのだろうか?この一件の責任を属人化し、矮小化することに、一抹の危機感を覚えている。
思ったよりフィッシャー批判が長くなってしまったので、後編に続く。
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