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【OAK】オズバルド・ビドーの活躍は本物か? ~被打球管理と空振り率から考える~
*サムネはMLB.comから
徐々に再建脱出へ向け、ゆっくりと加速しているオークランド・アスレチックス。
これまで再建脱出を阻む障壁だったのが、先発ローテにJP シアーズ以外に頼れる選手がいないというものでした。
しかし、その課題の解決策となる新たな投手が台頭しつつあります。
それが28歳のオズバルド・ビドーです。
13登板(7先発)をこなしてERA3.24、三振率も平均以上の24.6%とその成績は優秀。特に8月に入ってからは4先発でERA1.17という好投を見せています。
今回のnoteではそのビドーの活躍は本物か、来年以降もローテの中心として計算できるかを測るべく、被打球管理と空振り率という視点から書いていきます。
サーヴァントをまずチェック
ビドーの将来を予測するにあたって、星ひとみあたりに見てもらうのも手ですが、今回は誰でもできるbaseball savantをこねくり回す地道な作業から迫っていこうと思います。
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ビドーのsavantページがこちら。
X-JAPAN(expected-statsを重んじた伝説的バンド)も思わず「紅だー!!!!!」と唸る、真紅の結果が導き出されました。
特に際立つのが平均打球速度(Avg Exit Velo)、被バレル率(Barrel %)、被ハードヒット率(Hard-Hit%)でリーグ最上位に入っていることでしょうか。
これらはいわゆる「被打球管理」と呼ばれるスキル。このスキルの高さが好成績の最大の要因と言えそうです。
優秀なバレル率・ハードヒット率を今後も残せるか
問題はこの「被打球管理」に再現性があるのかという点です。年度相関で一貫性が見られなければ、これを果たしてスキルと言っていいのか。
これがスキルというには一貫性を欠くもので、実力以外の要素にも大きく左右されるなら、ビドーは来季一転してバレルやハードヒットを打たれやすくなる可能性は低くないということです。
年度相関をチェック
この手の話題は探せば見つかるかと思いきや、意外にも投手のバレル率や打球速度の相関を乗せている記事は見当たらず(それ自体大した相関がないという裏返しなんじゃないのとも思った)。今回は自力で算出しました。慣れないことに手を付けたこともあって、統計学的にいかがなものかといった指摘はどしどしお願いします。
2022&2023年の両方で1000球以上投げた152投手を対象に、Excelで年度相関を求めてみました。Rの使用も検討したものの、ぼくには時間がかかりそうだったので(Rでこんなに簡単にできる!という方法もぜひご教示をお願いします)。”MLBエクセルで分析界隈”は、毎回「俺にはエクセルしかないんですよ・・・」と山田勝己みたいになりながら地道な工程を踏んでいます。
まずはハードヒット率から。
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相関係数は約0.46と、やや相関関係が見られたようです。
続いてバレル率。
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ハードヒット率と比べると、分散が大きいのが見て取れます。それなりの相関が見られるものの、相関係数は0.377316704とハードヒット率よりは低め。
2022年にバレル率2.9%でトップだったラファエル・モンテロが、2023年のバレル率が9.1%に悪化したのを好例として、前年トップクラスの指標を残しても翌年にワーストレベルに近づく例も多々ありました。
まとめると、被打球系の指標に関しては、そこまでの相関関係が見られないということがわかりました。打者にとって強い相関があったからこそ市民権を得たバレル率やハードヒット率ですが、こと投手にとっては相関が打者ほど強くないと言えます。
と、ここまで「先行の調べがないな~」と思いながら進めてたら、大家であるNamikiさんが書いておられたわ。なんで日本語で「年度相関」と調べなかったんでしょう。盲点でした。こと研究(というか勉強)は「偉大な先人がやってるやんそれ」の連続ですが、自分で手を動かすことにはコントローラブルな先発投手くらいの価値があると思います。頑張っていきましょう。
打者と異なり投手の打球系指標の年度間相関は打球角度を除くとどれも相関がそれほど高くはない、ということになりました。角度以外の要素に関しては投手がコントロールすることは難しいようです。
打たせて取るピッチング、とはよく言いますが投手の打球系指標を見てみると守備の影響が取り除かれているはずの打球速度であったり角度のSD(注*標準偏差)、xwOBAconといった指標でも年度間相関が低く打者と比べると打球をコントロールすることは難しいと言えそうです。
ビドーを支える“内野フライ率”も維持は難しい
そして、バレル率やハードヒット率と並んでビドーの特筆すべきスタッツが、ポップアップ率。つまり内野フライの割合です。
ビドーのポップアップ率はMLB4位の15.2%(200打席以上)。内野フライはほとんどアウトにできることから、投手にとって非常に価値が高いんです。
しかし、”内野フライを打たせるスキル”が存在するのか。つまり、ビドーが今後も内野フライを同じペースで打たせられるかは、疑問が残ります。
以下は、内野フライの年度相関について調べていたFanGraphsのコラムです。ここにも内野フライを打たせるというスキルの存在には否定的です。
リンクの記事の内容をまとめると、まず内野フライ率はフライ率と相関します。しかし、悪いことにフライ率は被本塁打数と相関しています。
ビドーも内野フライ依然にフライ率の高い投手ですが、それは被弾に繋がるリスクが高いということです。
そして、ポップアップ%自体の年度相関も弱いものです。
この記事によれば投手にとっての内野フライは打者にとってのラインドライブのようなもの。最良の打球区分ではあるものの、安定させるのはなかなか難しいようです。
鍵を握る「空振り」 ~レパートリーの変更で空振り増加◯~
空振りを奪おう
ここまでは「被打球管理は年度相関が弱い」ということを示してきました。つまり、被打球管理でもって好成績を収めているビドーは、もしかしたら揺り戻しないし成績が安定しないリスクがあるということです。
では、投手にとって年度相関が強く、実力以外の要素に左右されづらいスキルとはなんなのか?
それはずばり“空振りを奪う”スキルです。
先ほどと同様の条件で算出した年度相関では、相関係数0.79と比較的強い相関を示しました。
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ビドーはといえば、今季リーグ平均以上のWhiff%:26.1%をマーク。昨年の22.7%から約3、4ポイント近く上げています。
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そして、K%も4ポイント以上増の24.6%に。三振の増加もビドーの好成績を語るうえで抜かせない要素ですね。
カッターとチェンジアップを増やす ~レパートリーの変更~
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ビドーはなぜ空振りを増やせたのか?この疑問は昨季からのレパートリーの変化を見れば明らかでした。ビドーは各球種の使用割合を大きく変えています。
最も目立つ変化が、シンカーの使用割合を14ポイント減らし、全球種中最小の9.6%しか使わなくなったことです。
ビドーのシンカーは平均的な数値こそマークしていたものの、悪く言えば平凡な球種でした。
そこまで悪い球種ではなかったものの、今季はシンカーよりも優秀な球種を多投。そのメリットが際立っています。
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使用割合を大きく増やした球種が4シームとカッター、チェンジアップです。
4シームは全球種中最多の40.1%(前年比+12.3%)に。絶好調の8月は46%まで使用を増やしており、その月のxBA.153、xwOBA.289、Whiff32.4%と抜群の数字を残しています。
さらにチェンジアップとカッターの使用も増加。チェンジアップは前年から高いWhiff%をマークしていましたが、今季はxwOBAも160ポイント近く改善し、.175という高水準になっています。8月は4シームに次ぐ第2球種として用いられ、Whiff38.9%を記録中。
そして、地味ながら光るのがカッターの改善です。カッターは前年の被打率.333から今季は.042へ。Run Valueは抜群の+5をマークしています。
また、ここでは言及していないスライダー、シンカーも改善しています。
特にスライダーはStuff+130をマークし、全球種中最多の奪三振数・最高のPutAway%を記録。決め球として機能しています。カッターとチェンジアップの割りを食ったところはありますが、依然として信頼されている球種です。
そして、使用を大きく減らしたシンカーも、横変化が2インチ増えたこともあってか、Stuff+が103まで伸びています。
レパートリー変更、配球の意図も変化?
また、各球種をどんな意図で用いているのかを推察する上でも、興味深いデータが出ています。
以下はビドーの各球種のゾーン内投球率を示したグラフです。
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4シーム・シンカーのゾーンへの投球が減った一方、変化球はゾーンにガンガン投げ込んでいることが見て取れます。
ビドーのチェンジアップはEV75.4mph・ハードヒット率5.3%、カッターはEV83.8mph・ハードヒット率29.4%と、コンタクト系の指標が優秀です。
つまり、コンタクトされてもリスクが低い変化球をゾーンに多く投げ込み、速球系をエッジゾーンから外で使おうという狙いが存在しているかもしれません。
このレパートリーの変更には、球団の哲学が垣間見えて面白い部分です。
恐らくパイレーツでのアプローチは、ビドーのベストピッチと考えられていたスライダーを全面に押し出そうというアプローチでしょう。
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速球系以上に変化球をメインに据えるというピッチデザインは、今季レッドソックスがかなり大胆に4シームを減らしていることから脚光を浴びています。ビドーの昨季までのピッチデザインはこの考え方の影響も汲んでいるかもしれません。
他方、アスレチックスはパイレーツが目を付けていなかった部分を、ビドーの優れた部分として見出したようです。
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アスレチックスに来てからのビドーは4シーム、カッター、チェンジアップの使用を増やしました。
アスレチックスはマイナー組織で投手にカッターを覚えさせることも多いチーム。この指導の賜物か、あくまで属人的なものかは定かではないものの、ビドーはカッターを増やし、それはここまで吉と出ています。
来季へ向けて
ここまで、「ビドーは被打球管理がすこぶる優秀だが、それは年度相関が低く、来季には悪化している可能性もあるということ。ただ、年度相関の高い空振り率を上げたいところだが、ビドーはレパートリーの変更によって空振りが増え、好成績に繋がっている」というようなことを書いてきました。
ここからはビドーが好成績を維持するため、空振りを増やすために何ができるかを考えていきます。
スライダーをゾーン外へ
先ほどビドーは「変化球をゾーン内へ、速球をゾーン外へ」というアプローチを取っているかも、と書きました。
これは被打球指標が良いチェンジアップ、変化がコンパクトで投げ込みやすくかつ被打球指標も良いカッターを扱う上では、かなり有効に働いているようです。
しかし、スライダーに関しては、ゾーン外に逃がした方がいいかもしれません。
以下はビドーのゾーン内投球における各球種のスタッツです。
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前述したチェンジアップとカッターは、ゾーン内でのxwOBAがいずれも.200を切る勢い。ゾーン内空振り率(Whiff%)も相対的に優秀な数値を示しています。
やっぱりチェンジアップの威力は抜群ですね…(これがStuff+では一番低いのだから面白いところです)。
ただ、スライダーは振るいません。wOBAとハードヒット率が全球種中ワースト2位、xwOBAとEVでワーストを示しています。
ところが、ゾーン外スタッツを見ると、途端にスライダーが輝き始めます。
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スライダーのゾーン外wOBAはゾーン内から125ポイント改善の.175、xwOBAも133ポイント改善して.144に。
当然ゾーン外の方がスタッツは良くなるものですが、ゾーン内スタッツと比較したときの落差は無視できないほど大きいものでした。
さらにビドーのスライダーはChase%(ボール球スイング率)が44.9%という高水準。ボールゾーンまで追いかけさせる能力が非常に高い球種です。
ビドーがスライダーをゾーン内ではなく、エッジゾーンより外に投げ出せば、より効果的に空振り・凡打を量産できるかもしれません。
今後もローテの軸に!
と、ここまでダラダラと書いてきました。
結論としては「今季ほどの被打球指標はこれから残らないかもしれない。ただ、ビドーはレパートリーの効果的な変更により、空振りを増やし、成績を改善させている。さらに伸びしろもある」というところになります。
前コンテンド期からスタッフに劣る投手が多かったものの、アスレチックスはフィールドボーラーと優秀な守備陣を備え、なんとか回していました。
しかし、昨今はいわば「スタッフ至上主義」とでも言いますか。技巧派が淘汰され、スタッフは大前提という時代の潮流が加速しているように思えます。
その中でアスレチックスもドラフト戦略からMLBレベルのトランザクションに至るまで、スタッフに優れた投手を集めようという意図が感じられるようになりました。昨オフ、パイレーツの40人枠から漏れたビドーにメジャー契約を与え、そのスタッフを存分に発揮させているのは、アスレチックスフロントの大手柄だと思います。
願わくば、ビドーがこの活躍を継続してくれることです。そうなれば、コンテンドへの道もはっきりと形を成してくることでしょう。
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