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【ATH】ジョーイ・エステスのピッチデザイン ~回内・回外、チェンジアップの話~

*ヘッダーはMLB.comから


再建脱出を目指すアスレチックスが抱える喫緊の課題が、先発ローテの強化です。

アスレチックスは再建突入時から、多くの先発投手のプロスペクトの確保を目指してきました。しかし、カイル・マラーを筆頭に既に退団済みの投手も多く、育成は上手くいっていません。

その中で高い期待を受けているのが、ジョーイ・エステスです。

エステスはマット・オルソンの対価としてアスレチックスに入団。マイナーをトントン拍子で駆け上がり、2023年にデビューを飾りました。

2024年はチーム3位の127.2イニングを消化するなど、徐々に存在感を増しています。

2024年成績
25登板(24先発) 7勝9敗 127.2イニング 防御率5.01 K%:16.9 BB%:5.0 fWAR0.7

ただ、防御率は5.01、K%も16.9%と平均を下回り、まだまだ通用したとは言い難い成績でした。ご覧の通り、指標も微妙。

BSより

それでも、エステスは23歳とひときわ若い投手。ドラフト16巡目からトントン拍子に成長してきたその伸びしろには期待せざるを得ません。

今回はエステスがブレイクするために何が必要かというテーマで書いていきます。

今季良かったポイント:4シームとスイーパー

今季のエステスの良かったポイントは、4シームとスイーパーが通用したところです。

エステスの4シームはマイナー時代から高い評価を受けていた球種。平均球速92.7マイルと球速は平凡ながら、9.6インチの横変化量を誇る変化量の多さ、さらには高めに正確に集められるコマンドでアドバンテージを取れる球種です。

今季は被wOBA.342と表面上は平凡な数字ながら、Run Valueは+2をマーク。被wOBA.482と苦しんだ2023年から大きな進歩を見せました。投球の半分を占める4シームでプラスを出せているのは、今後を占う上でも大きいです。


さらに、スイーパーはそれ以上に通用。

被xwOBAは.198と相手を封じ込め、19.5%と限られた使用割合ながらRun Valueは0を記録しました。


投球の軸となる2球種を確立できたのは、今季のエステスの大きな収穫だったと言えます。

その2球種を軸に56.1Zone%という高い割合でゾーンにアタックし、さらに平均以上の29.8%の割合でボール球を振らせた(Chase%)こと。その結果として上位8%に入るBB%:5.0%を記録し、エステスは徐々に自分のスタイルを見つけつつあります。


今季悪かったポイント:スライダーとチェンジアップ

逆にエステスの改善点として浮かび上がってきたのは、スイーパーと4シーム以外の球種です。

エステスの各球種ランバリュー BSより

スイーパーに次ぐ割合で投じたスライダーとチェンジアップは、Run Valueで大きなマイナスを吐き出しました。スライダーはレパートリー中で最悪のRV-5、チェンジアップはRV-4という惨状に。

さらにそれより割合が低いシンカーやカッターも、100球ごとのRun Value(RV/100)でみるとかなり悪い数値となっています。

バリューの低い球種の割合を減らし、通用していたスイーパーをもっと投げるべきだったのは確かです。

ただ、平均球速が遅く、絶対的プラスピッチとなりえそうにない4シームとスイーパーの2ピッチスタイルでゴリ押ししても、パワー不足から限界は見えています。

やはり、スイーパーと4シーム以外で通用する球種を見つけなければいけないでしょう。


現代のトレンド:回内性か回外性か

近年のピッチデザインで大いに注目されている要素が、回内回外です。

この考えでは、投手は回内性か、回外性かの大きく2つに分類されます。回内性か、回外性かで向いている変化球は異なり、どちらのタイプであるかを把握しておくことが、ピッチデザインで役に立ちます。

回内性、回外性の特徴は以下の通りに分けられます。


  • 回内性

    • 4シームの回転効率が高い(95%以上)。

    • シュート・ライズ型の4シームを投げられ、4シームのバリュー高。

    • スイーパーを投げると球速が遅くなりやすい。

    • チェンジアップはサイドスピンで曲げるタイプが投げやすい。

  • 回外性

    • 4シームの回転効率が低い(85%以下)。

    • 4シームが真っスラ型になり、4シームのバリュー低。

    • それ故、カッターやシンカーで代用しがち。

    • スイーパーを投げやすい。球速も速い。

    • チェンジアップはシーム・シフト・ウェイク(縫い目の効果)を使うタイプが投げやすい。


それでは、エステスはどちらのタイプに分類されるでしょうか。

エステスは4シームの回転効率が92%と、回内性の基準である95%には達していません。ただ、2023年は95%の回転効率をマーク。シュート方向への横変化量も大きいことから、回内性の特徴を示していると言えそうです。

さらに、スイーパーの平均球速も78.2マイルと遅め。エステスは回内性で間違いないでしょう。


チェンジアップの改善点:回転軸が倒れていない

それでは、エステスが回内性であることを踏まえて、変化球の改善案を考えていきましょう。

スライダーの改良は効果が低い?

変化球を投げるのに苦労しがちな回内性の投手でも投げやすいのが、ジャイロスライダーです。エステスはスライダーもカッターも、回転効率が30%台とジャイロの性質を持っています。

ただ、ほぼ真下に落ちるジャイロスライダーを投げても、4シームのシュート成分が大きいエステスの場合、空振りを誘う効果は低そうです。

やはり、ここはチェンジアップの改良の手を付けるのが、手っ取り早く効果的に思えます。

変化量が乏しいエステスのチェンジアップ

エステスのチェンジアップは回内性の投手らしく、サイドスピン型のチェンジアップです。回転効率は99%に達しています。

しかし、エステスのチェンジアップは変化量が乏しいという弱点を抱えます。

エステス チェンジアップ変化量
縦変化量:29.3インチ
縦変化量vs.comp:-2.5
横変化量:14.6インチ
横変化量vs.comp:0.6

BS
エステスの球種変化量 BSより

変化量マップで見ても、平均を示す破線の丸と比べると、落ちが足りないことがわかりますね。

エステスのチェンジアップの変化量が少ない理由は何なのでしょうか。

そしてエステスのチェンジアップの変化量が乏しい理由は、回転軸の傾きが足りないためです。

エステスの回転軸 BSより

エステスのチェンジアップの回転軸はSpin-Basedだと1:45、Observed Movementであれば2:15となっています。

しかし、回転軸が十分倒れていないためにバックスピンが加わっており、その結果として揚力が生じ、下方向への変化量が小さくなっているようです。

サイドスピンで曲げ落とす系のチェンジアップの典型例が、“エアベンダー”の異名を取るデビン・ウィリアムズのチェンジアップ、そして球速差と変化量が大きいイーライ・モーガンのチェンジアップです。

ウィリアムズの回転軸 BSより
ウィリアムズの球種変化量 BSより
モーガンの回転軸 BSより
モーガンの球種変化量 BSより

いずれも回転軸が綺麗に3時方向に倒れ、平均以上の変化量を生み出していることがお分かりなると思います。

ウィリアムズやモーガンに倣って、より回転軸を倒したチェンジアップを志向するのも、エステスにとっては一つの手段です。


良いチェンジアップに到達するための裏技:“キック・チェンジ”

回転軸が3時方向のチェンジアップを投げる“裏技”も存在します。

それがにわかに注目を集めている“キック・チェンジ”です。

ジャイアンツのヘイデン・バードソングの独特な握りで注目されたこの球種は、今はホワイトソックスでアドバイザーを務め、かつてジャイアンツやレッドソックスでもコーチを務めたブライアン・バニスターを主な発信源として広まりつつあります。

この“キック・チェンジ”を模倣したデービス・マーティンはこう言います。

"So, the kick change… basically, you kick the axis of the ball into that three o’clock axis. You kind of get that saucer-type spin to get the depth that a guy who could pronate a changeup would get to. You’re not using a seam-shift method. You’re not truly pronating. It’s kind of this cheat to get to that three o’clock axis.”

「キックチェンジとは、基本的にボールの軸を3時の回転軸に蹴り込むことだ。チェンジアップを回内できる投手が到達する深さを得るために、ソーサー型の回転をかけるんだ。シームシフトウェイクは使っていない。本当の意味で回内しているわけではないから、3時の回転軸に到達するための一種のごまかしです」

Davis Martin and Matt Bowman Break Down the Kick Change

マーティン自身は回外性の投手です。よってサイドスピン型のチェンジアップには不向きな投手と言えるでしょう。

しかし、中指を立てて回転軸を倒し、サイドスピンを生み出すことで、回内性の投手が投げるような質の良いチェンジアップを再現可能なのです。

エステスは本来サイドスピン型のチェンジアップに向いている投手と言えますが、このキック・チェンジを導入するのも手です。

マーティンは回外性の投手向きの球種と言っていますが、それは回内性の投手のサイドスピン型のチェンジアップを回外性の投手でも再現できる裏技だからでしょう。大元のバードソングも回内性ですから、エステスが投げる分にも不自由ないはずです。


マーティンのコメントにあったシーム・シフト・ウェイクについてはここでは細かく触れません。

気になる方はこちらをチェック。今季のア・リーグサイ・ヤング賞投手であるタリック・スクーバルは、このシーム・シフト・ウェイクを活用してチェンジアップを魔改造しています。


ロールモデルになりそうなオーバー(ツインズ)

ツインズのベイリー・オーバーはちょうどエステスの良い手本となりそうな投手です。

BSより

オーバーは今季、31先発(178.2イニング)で11勝9敗、191奪三振、防御率3.98、fWAR2.9という好成績を残しました。上の画像から分かる通り、指標の面でも一流の投手です。


オーバーのアームアングルは35度と、37度のエステスと非常に近い角度で投球します。低いVAAから投じられる浮き上がるような4シーム、そしてスライダーを武器としていたオーバーは、今季チェンジアップを大きく改善させました。

オーバーは2023年のマイナー降格時に同僚のランディ・ドブナックの握りを真似したこと、それをオフの間に中指の使い方を変えたことで、より大きな縦変化量を生み出せるようになりました。

オーバーのチェンジアップ縦変化量 BSより

まさしくエステスの理想像と言える投手だと思います。


まとめ

・エステスは4シームとスイーパーが強みとして確立
・一方でチェンジアップとスライダーが弱み
・エステスは回内性
・サイドスピン型のチェンジアップを投げているものの、変化量が足りない
・変化量が足りない理由は回転軸が十分に倒れていないこと
・回転軸を倒す手段がキック・チェンジの導入
・先んじてチェンジアップを改良したオーバーに倣いたい

この記事を挙げる日にルイス・セベリーノの獲得が決まり、先発ローテ争いはいよいよ激化しそうです。

エステスのライバルにはミッチ・スペンス、オズバルド・ビドー、JT ギン、ブレイディ・バッソら多士済々の投手がいます。彼らとの競争を勝ち抜き、MLBで先発として成功するには上記で挙げたような“魔改造”に手を付けるのも1つの手段ではないでしょうか。

来年のアスレチックスとエステスに期待大です。

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