【OAK】打球が遅い打者が生き残るには? ~ニック・アレン打撃開花の道を探る~
ニック・アレンの苦戦が続いています。
デビューした昨年に引き続き、100試合以上に出場したものの、打率.221/出塁率.263/OPS.550とジリ貧の打撃成績に終始。一級品の守備力を持つといえど、fWARはマイナスに割り込みました。
過去2シーズン(600PA以上)の全打者の中で、wOBAはワースト1位・wRC+はワースト2位と、ほとんど”球界最悪の打者” といっても過言ではない醜態を晒しています。
もともと、将来のゴールドグラバーと持て囃される守備型プロスペクトだったアレンですが、実は打撃もそこまで悪くありません。結果的にA+より上のクラスでは、wRC+120以上の成績を残せるようになっています。
しかし、前述の通り、MLBになった途端にその打力は見る影もなくなってしまいます。
来る2024シーズン、アレンのオプションは残り1個。アレンの背後にはブレイクしたダレル・ヘルネイズが控えており、今シーズン前半はまさしく背水の陣で迎えるものになります。
アレンのブレイクの鍵はどこにあるのでしょうか?
打球が遅すぎる
アレンの打撃における最大の問題はあまりに非力であることです。
平均打球速度はわずか84.8mphに過ぎず、これはメジャーワースト3位(250BBE以上)という数値。(1位は?こちらも我らがエステウリ・ルイーズですが…。)
その他にも当然、xwOBA・ハードヒット率といったデータも下から数えるほうが早く、打力不足の原因は明白です。
だったら打球を強く打つようにすればいいじゃないか!
たしかにそうです。
しかし、悲しいかな。打球の強さというのは、なかなか変わらないものなのです。
こちらの記事から引用すると、2015~2022年の間、ルーキーイヤー(min.300PA)とそれ以降の平均打球速度の相関係数は、0.92にも上ります。
さらにこの条件・期間において、ハードヒット率を10%以上向上させた選手というのは、ブラディミール・ゲレーロ・ジュニアただ1人なのです。
ルーキーイヤーのゲレーロ・ジュニアはまだ本領発揮できていなかった上、ハードヒット率こそ40%未満にとどまったものの、最高打球速度118.9mphは既にリーグトップクラス(上位1%)をマークしていました。つまり、アレンがゲレーロ・ジュニア級のポテンシャルを秘めていない限り、ハードヒット率を10%以上上げて36.6%以上にする可能性はかなり低いというわけです。
ならば、アレンはこのまま平均打球速度84.8mphに甘んじ続けなければならないのでしょうか?
流石に平均打球速度85mph未満で活躍するのは厳しいです。2015年以来、EV85mph未満で平均以上のxwOBAを記録した右打者はわずかに3人しかいません。
打球速度向上を目指すにあたって、気休めになるかもしれないのが、アレンのAAAでの数字です。
昨年のAAAで、アレンは速球系に対して平均打球速度85mphをマーク。これはMLBで過去2シーズン残してきた数字(82.9→83.8)よりはマシです。MLBレベルの速球に適応できれば、ここが伸びてくるかもしれません。
さらに心強いのが、アレンがオフにドライブラインでトレーニングを行ったという情報です。ドライブラインでは下半身の使い方を見直したそう。ドライブラインが提供する最新テクノロジーに頼るのは期待できるサインです。
打球が遅い打者が目指すべき86mph
しかし、いくらドライブラインに通ったとて、アレンがアーロン・ジャッジや大谷翔平のような打球を打てるようになるわけではありません。
現実的な目標ラインは平均打球速度86mphでしょうか。ここに達すれば、平均以上の攻撃貢献ということを示す100以上のwRC+を記録した割合が一気に17%になります。
さらに87mphになれば、平均wRC+が92となり、昨年のショートの平均wRC+94に大きく近づきます。アレンの守備力を考えれば、ショートの平均くらい打てればWARは稼げますね。
2023シーズンで見ても、平均84mph台でwOBA平均以上は2/9人、85mph台で3/10人、86mph台で5/14人、87mphで9/23人となっていきます。
ただ、平均打球速度が86mphに達したところで、まだまだ打球が遅いことには変わりありません。平均打球速度がここらへんの範囲内でありながら平均以上の攻撃力を持つ打者はどのような工夫を施しているのでしょうか?
コンタクトの質を上げる
打球が遅くても結果を残している選手は、総じてコンタクトの質が良いです。打球が速いということだけがコンタクトの質の良さを示すわけではありません。
ソフトヒットを打たない
たとえば、ソフトヒットを打たないということもそのひとつです。
また前述の記事から引用です。
ルーキーイヤーに低いハードヒット率(28%以下)を記録した75人のうち、後のキャリアで100超えのwRC+を残した選手はわずか9人。その9人は打球こそ遅かったものの、ハードヒットではないコンタクトの平均打球速度がリーグ平均を上回る80mph超えを記録していました。
ソフトヒットを打たないことが重要であることを示す端的な例が、この記事でも紹介されているスティーブン・クワンとヘラルド・ペルドモの比較です。
平均打球速度は同じ、ハードヒット率に至ってはペルドモに5ポイント劣ったクワンが、wRC+では2倍の差をつけられたのはなぜなのか。そのからくりがソフトヒットの少なさにあり、クワンはハードヒット以外のコンタクトの平均打球速度がペルドモより5mph速かったのです。
つまり、打球が遅くとも、出来得る限りの良いコンタクトを目指し、ハードヒットにはならずともミディアムヒットを目指すべきということでしょう。
さて、気になるアレンのハードヒット以外の平均打球速度はどうなのか。
惜しくもギリギリすんでの所で合格ラインの80mphを下回り、76.1mphという結果でした。
さらに、同じソフトヒット兄弟であるエステウリ・ルイーズも、こちらも惜しかった。75.4mphという結果に。
アスレチックスのチーム内でいくと、ルーキーイヤーの打球の遅さから頑張って後にwRC+が100を超えた9人の1人であるトニー・ケンプがやはり健闘。チーム5位にして平均超えの80.9mphを記録していました。ケンプは見ているだけでもコンタクトの質が高いということが分かる選手なので納得です。あの背丈だからこそかもしれませんが、もう少し大柄だったら大打者になっていたかも…と活躍していたときは思ったものです。
強くない打球をどこに打つか?
アレンのコンタクトの質のデータを見ると、打者手前の黄色のエリアである”Weak"に当てはまる打球が8.5%。これはMLB平均の3.9%を大幅に上回ります。
さらにボールの上っ面を叩いている緑の”Topped"エリアにも、平均を10ポイント上回る42.5%の打球が飛んでいます。
その結果、”Flare/Burner"以上のバレルにつながるコンタクトがいまいち増えません。
マイナー時代、良いスタッツを残しているシーズンにはゴロ率は40%前半で推移してきたものの、MLBではゴロ率が50%を超えています。打球をもう少し上げる意識を持った方が、全体として有効なコンタクトが増えてくるかもしれません。
さらに、遅い打球を補うコンタクトの手法といえば、打球を引っ張るというやり口が挙げられます。これはクリーブランドで育った小さな大打者であるフランシスコ・リンドーアやホセ・ラミレスが取り入れたことで知られています。そして、これはフライを打つというアイディアとも非常に相性が良いのです。
引っ張り方向にフライを打つという手法でまさに成功を収めているのが、イサック・パレデスです。
パレデスの平均打球速度は下位13%の86.9mphに過ぎません。しかし、計上したwRC+は超一流の数値・137にも上ります。
その秘密が引っ張り方向に52.7%もの打球を集める”超・引っ張り打法”。
パレデスはジャッジやロナルド・アクーニャ・ジュニアのような弾丸を突き刺すわけではありません。パレデスなりに速い打球を高いローンチアングルで打ち出し、それをトロピカーナの狭いレフトポール付近に集めるという方法を確立しました。
その打法はデータにも裏付けられ、引っ張り方向へのフライ打球は、打球速度がそれほど高くなくとも、wOBAを高めやすいことが2023年のデータでは示されています。
打球が遅い打者は、引っ張った方がいい。
結論
やっぱり厳しそう。
だけど、アレンは本物の紳士です。私が昨年コロシアムを訪れ、アメリカで最後の試合を見終わったあと、私は持参していたサインボールを1個余らせていました。私の連れの方が「彼は日本から来て今日が最後なんだ!」と言うと、アレンは試合後のクラブハウスに戻る足を止めて引き返し、私にサインを書いてくれました。自分の道具を一旦下においてまでサインを書いてくれたアレンは、日本語で「ありがとう」と言い、最高の思い出を作ってくれました。
だからなんとか、来年の平均打球速度が90mphくらいにならないかな~~~と思うのです。アレンの打球が速くなったらメジャーリーグはきっともっと良くなるし、選手として高給を得るチャンスがあれば彼が慈善活動などでその恩恵を他者にまで広げて世界が良くなっていくと思います。もし野球の神様がいるのなら、このnoteのリンクを送りたいです。よろしくお願いします。