才能を食べたい

才能を食べたい。ありとあらゆる才能を食べたい。才能に恵まれた人が憎い。こんなはずではなかった。絵を描く人は魔法使いみたいだ。歌声のうつくしい人は魔法使いみたいだ。ものを書く人も、勉強ができる人も、かしこい人も、顔の整った人も、すらりと洋服の似合う人も、おいしい料理を作る人も、仕事のできる人も、足の速い人も、運動が得意な人も、誰からも愛される人も、誰かを愛せる人も、お金がある人も、努力ができる人も、優しい人も、器用な人も、まめな人も、家事が得意な人も、みんなみんな魔法使いみたいだ。不思議でならない。わたしはなにも出来ない。幸せになりたい。なれるはずもない。何も持っていない。わたしはがらんどうだ。ぜんぶ駄目でした。得意なものなんてなかった。才能なんてなかった。言葉ひとつ上手く言えない。こんな我楽多になったのはいつからだろう。どうしてだろう。夢は所詮夢だ。こんなはずではなかった。悔しい。ずるい。恥ずかしい。だらだらと生きるのが恥ずかしい。才能を食べたい。あらゆる才能を食い漁りたい。天才と呼ばれたかった。崇拝される気持ちを知りたい。有り余るくらいの才能が欲しい。わたしは何かになりたい。