のろいだ
私は呪われている。沢山の呪いをかけられている。言葉と認識は鎖みたいだ。大人になれば無くなるはずだった鎖がずっと巻き付いて、無くなる所か増えて行って雁字搦めで動けなくて、段々と息が出来なくなる。歳を重ねる度に溺れていくみたいだ。思春期の特権だと思っていたのに。呪いは無意識の言葉で、意識的な言葉で、無意識の視線で、意識的な視線で、或いは名前さえ知らない人に、或いは近しい人に、或いは自身に受けた。20数年が繊維みたいに巻き付いて足元から絡め取る。背が高くてごめん、痩せていなくてごめん、綺麗じゃなくてごめん、頭が切れなくてごめん、才能がなくてごめん、不器用でごめん、逃げるみたいに、縋るみたいにごめんばかりが増えた。環境とは不釣り合いなくらい自分に価値がなかった。アルコールと倍量の咳止めだけが救いだった。世界が褪せて居場所を殺していくみたいな呪いだ。好きでいなければならないこと、嫌いでなければいけないこと、らしいねという言葉だけを頼りに自分を形成していくこと。それを守っていること。人に愛される価値がある自信が無い。人を愛する権利も無い。興味も実態も無くなっていく、酢酸みたいだ。紙ペラの、必死で作り上げた自分を忘れないように髪を切る、務めて女性らしくないみたいな振る舞いをする、ひとりでバスに揺られる、紫のアイシャドウを乗せる、大音量の音楽で耳を塞ぐ。泣けば済むと思ってるのか。感情なんて殺してしまえ。考えるのを辞めろ、中立と優しさは無関心だ。今後一生そうして生きていくのか。置いていかれるような人生を、愛されない人生を選んだのは私で、そうさせたのは私で、或いはお前だ。なりたかった自分には到底なれない、遠ざかっていくのも私のせいだ。お前のせいだ。私のせいだ。私のせいだ。私のせいなのに苦しいなんて、弱音を吐くなんて間違ってる。これは呪いだ。真綿みたいな呪いだ。いつか私はこの綿で首を括る。