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ラストマイル追体験事件

 学園祭の時にあったささいな事件。胸にしまっておくのもあれなので、ここに書いておく。

 学園祭の作業中、模擬店のメンバーがそれぞれ物品を移動させていた。机や椅子が幾つかまとまってあったので、そこに居た5人ほどが1カ所に集まった。実際は4人ほどで事足りて1人余った。その1人は自分も何か運ばないと申し訳ないと思ったのか、足下にあった消火器を手に取った。手に取った、というよりピンに指を差し込んで持ち上げた。
 
 ピンッ、という音と共にピンが抜けた。指には消火器の黄色いピンだけが残り、本体は微動だにしなかった。その瞬間、全員に緊張が走った。

「消火器って使い切りだったっけ……」

 全員の脳裏に浮かんだ疑問だったと思う。ピンを引き抜いた以上、下手に動かすと消火器が作動してしまうかもしれない。一拍置いた後、「ヤバい、ヤバい」と口々に言って焦った。幸い、1人が冷静に説明書を調べてくれたことで混乱が広がることは避けられた。ピンを抜いてしまっても、元の位置へと戻したら大丈夫らしい。

 張り詰めていた緊張が解けて、私達は爆笑した。思い返せば大したこと無かったのだが、聞きなれない「ピンッ」が「あ、終わりかも……」という気持ちを生んでいた。私はこの音から、手榴弾を想像してより怖かった。その話をすると、誰かが言った。

「『ラストマイル』にこんなシーンあったよね。」

 確かにあった。時限爆弾のピンを抜いてしまって下手に動けなくなる緊迫感高まる場面。それをまさか現実で追体験することになるなんて。その場に居た全員が映画『ラストマイル』を見ていたこともあって、その場は再び笑いに包まれた。

 そんなささいな記憶。

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