腹痛と新宿とナンパの話
今からとってもしょうもない話をします。
◇
それは、2020年10月の出来事。その日は、朝から調子が今ひとつ。大人しくしているべきところだが、せっかくの日曜日、私にはどうしても成し遂げたいことがあった。
ここ最近、一気に冷え込んだせいで、ワイドパンツの中が寒い。ちょっと足が冷えるからペチコートとか欲しい。ということで、どうしてもユニクロに行きたかった。
何を隠そう、私はユニクロの大ファンである。商品の豊富なバリエーションとサイズ展開、無駄のないデザイン、毎日着れる価格帯。どれをとっても最高である。
その日も新たなアイテムとの出会いを求めて、一人新宿の街に出た。目的地は、泣く子も黙る「ビックロ新宿東口店」だ。
店に入り、フロア案内をノールックで得意げにエスカレーターに乗った。私レベルになると、どこを探せばいいか大体見当がつく。
それらしいワゴンを見つけ、おもむろに商品を手に取る。難なく目当ての商品にたどり着いてしまった。
参照元:ユニクロ公式オンラインストア
無事購入。これで装いがまた一つ快適になる。ユニクロありがとう。
ここら辺から異変が起こる。急にお腹が猛烈に痛くなった。痛いと言うか、気持ち悪いと言うか、腹部で時空のねじれが起こっている感覚。
◇
そろそろナンパの話をしよう。
ビックロを出た。方向感覚が絶望的なため、とりあえず一番最初に目についた出口から出る癖がある。出た瞬間、ここはどこだ・・?状態になる。
痛むお腹を抱えて一歩ずつ新宿駅を目指す。
・・・
痛みが強くなる。
早く帰ってヨガのポーズをしなければ(腹痛=便秘だと思っているのでヨガで解消できると本気で信じていた)。
だんだん冷や汗をかいてきた。痛みとともに気持ち悪さも加わった。
これは何かおかしい。
やばい、歩くのも辛い。家まで帰れないかもしれないと本気で思った。
ここで倒れたらどうしよう。その前に、誰かに助けを求めるべきだろうか。
でも、ただでさえ変なウイルスが世間を騒がしている状況で、他人に接触するのは皆避けたいはず・・・もし今倒れた時、果たして助けてもらえるのだろうか・・・そんな物騒なことを考えながら、葛藤していた。
やっぱり助けを求めるべきか。どうしよう。
歩きながら、経験したことのない痛みに我慢ができなくなった。
それでもやっぱり人見知りの私は、人に助けを求めることを極限まで迷ってしまう。
そこで、一つ決意した。
「もし、もしも、誰かが私の異変に気づいて、大丈夫ですか?って声をかけてくれたら、その時は大丈夫じゃないです、って言おう。」
めっちゃ受け身な決意。
私が倒れるか、誰かに声をかけてもらうか、どっちが先か。
前屈みになりながら少しづつ駅に向かって歩みを進める。
その時、狭くなった視界の端から、一人の男性がスッと歩み寄ってきた。見上げると、怪訝な表情のお兄さんが何か言いたそうである。
「、、、、すか?」
この人、私に何かを問うている。
きたか????救世主か?
やっぱり私ヤバそうに見えるよね??????
一抹の希望が見えた。冷え切った大都会でも、心を持った人間がいる。
足を止めて、お兄さんの顔をじっとみた。
「えっ?」と耳に手を当てて、聞こえなかったアピールをした。
お兄さんも足を止める。今度はもっとはっきりと、真っ直ぐこちらを見つめて言い直した。
「天使ですか?」
・・・・・・・・・・・・????
テンシデスカ???
固まった。大丈夫ですか?じゃないの?
まさか生きている間に人間にこんなこと聞かれると思ってなかった。
どうする?ボケるか?どう返すのがオモロイんや???
いろんな思いが駆け巡った後で、ふと我に返った。
私今それどころやない。
ここは新宿。怖いお兄さんがたくさんいて、田舎者はすぐに狩の標的にされる(個人の見解)。ここで倒れている場合じゃない。
みるみる力がみなぎってきた。とにかく自分の足で家に帰ろう。
さっきまでの弱気な自分はもういなかった。
こちらの反応を待っていたお兄さんにお辞儀だけして、早歩きで駅に向かった。
ここからどう家に帰ったかはあまり覚えていない。とにかく気合で帰った。
夜になっても痛みが消えず、むしろ強まる一方で、タクシーで救急を受診。いろんな検査をした後、点滴で痛みを抑えてもらいボーッと天井を見上げていた私のもとに先生が入ってきてこう言った。
「急性虫垂炎ですね。すぐに手術しましょう。」
そのまま入院、病院を出たのは4日後のことだった。
◇
あの時、新宿で出会ったお兄さん。
物事にはタイミングってものがあるでしょう?
食後のデザートとか、休憩中の雑談とか、破局後の出会いとか。
タイミングを間違えると、有り難みも効果も薄まってしまう。
あのナンパ文句は面白かったけど、私、急性虫垂炎だったのよ。
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皆さま、体調と新宿にはくれぐれもお気をつけください。