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米国株 パランティア(Palantir)とは?

企業、政府、諜報機関にデータ解析プラットフォームを提供する謎の会社パランティア(Palantir)。ダイレクトリスティング(直接上場)を今週行う予定。
目論見書(S-1)をもとに、素顔に迫ります。

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1.会社概要

ペイパル創業者であるピーター・ティールらが2003年に設立したビックデータ解析に特化した企業。
米国政府をはじめ、世界25カ国以上の政府機関・企業向けに解析プラットフォームを提供しており、国防など国の重要な組織に導入されている。
同社製品は、民間向けの「Foundry」と政府機関向けの「Gotham」の2つがあり、データ解析によるサイバーセキュリティ、社内不正監視、マネーロンダリング防止といったリスク対策のほか、業務効率化にも使われ、組織のデジタルトランスフォーメーションを後押ししている。
パランティアという社名は、ロード・オブ・ザ・リングに登場する、世界で起きていることを見通せる水晶玉からインスピレーションを得て命名したという。
ビッグデータを使い、知識・洞察を引き出していくことをミッションとしている。
「データは新しい石油」と称され、データに基づいた人工知能技術やビッグデータ分析から新たな価値が生まれることに期待が集まっている。
一方で、蓄積したデータから、意思決定の助けになるような情報に変換するにはさまざまな課題がある。
代表的な課題がデータの「サイロ化」。例えば、小売業の経営層が販売データの分析をする場合、地域ごと、部署ごとの売り上げや、リアル店舗とECサイトでのデータが統合されていなければ、正確な分析ができない。
また、ソーシャルメディアから各種センサーまで膨大な情報源があり、データ統合が課題。
画像、動画などの「非構造化データ」が急速に増加しているが、そのままではデータ分析の対象にならないため、分析を準備する前処理の工程が欠かせない。
データ分析を担当する研究者は、データを整理する前処理の工程に80%の時間を取られ、実際のデータ分析を行うのは、わずか20%に過ぎないと言われる。
高度なデータ分析のスキルを有する技術者は限られており、その生産性が阻害されている。
分析者が価値ある仕事に集中できるようデータを統合するのがパランティアの技術であり、ビッグデータ分析に関わる課題を解決し、データに基づいた意思決定を支援する。
企業価値200億ドル(約2.1兆円)とも言われる一方、米軍、国防総省、FBI(連邦捜査局)、CIA(中央情報局)といった機関からデータ分析の業務を委託されてきたため、その素顔は報じられていなかった。
実際、初めに大口の資金調達を行ったのは、CIAが運営する非営利型のベンチャーキャピタルIn-Q-Telであった。
米国での同時多発テロ以降のテロ対策において、パランティアの技術が用いられたという噂もある。
CIAとFBIで別々にデータが管理され、「サイロ化」していたものが、パランティアによって情報統合が進み、防衛リスクの高い事象を容易に捕捉できるようになったという。
主要顧客はFBI、CIAといった公的機関の他にも、銀行やヘッジファンド、IBMやロッキード・マーティンといった大企業が名を連ねる。
また、同社のサービスはソフトウェアを提供するだけでなく、データ解析者のコンサルティングを含むパッケージとなっている。
データ解析の分野は防衛目的以外にもマーケティングやヘルスケアなど広い範囲での活用が見込まれ、今後も活躍の場が広がることが期待される。
創業者のピーター・ティールは、決済サービスであるペイパルの運営において、不正な取り引きの検知に取り組んできた。
パランティアでも、疑わしい活動の検知にその知見を応用していると言われる。
パランティアの技術は、複数の層になって構成され、データの統合から、ユーザーが高度な分析を行えるところまで網羅している点に特徴がある。
まず、データ統合においては、各種データベース、インターネット上の公開情報、文書などの非構造化データから情報を抽出する。
次に、文書から特定の単語を抜き出したり、個人情報を匿名化したりする前処理を行う。そして、担当者ごとにアクセスできる情報を制限するといった管理機能もある。
更に、分析を実施する際には、データ間の関連性を可視化する、非構造化データを検索する、といった機能が含まれている。
同社のシステムは、海兵隊のアフガニスタンでの地雷発見、メキシコの麻薬組織のメンバー洗い出し、ウサマ・ビンラディンの捜索にも用いられるなど、非常に大きな成果を出している。

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ピーター・ティール:
共同創業者の一人で、2003年から取締役会長。
2011年から投資会社Thiel Capitalの社長を務め、2005年からベンチャーキャピタルFounders Fundのパートナー。
1998年にオンライン決済会社PayPal, Inc.を共同設立し、eBayに買収されるまで、最高経営責任者、社長、取締役会長を歴任。
現在はFacebook取締役。スタンフォード大学で哲学の学士号を取得し、スタンフォード大学ロースクールで法学博士号を取得。

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アレクサンダー・カープ:
共同創業者にしてCEOであるカープの経歴は、変人揃いのシリコンバレーの中でも異彩を放つ。
リベラルな知的環境の下で哲学博士号を取りながら、データ解析企業を率いて米政権の軍事作戦に関与。
一見矛盾するキャリアが、部外者にはほとんど理解不能なものにしている。
2003年から取締役会メンバー。
ハバーフォード大学で学士号を、スタンフォード大学で法学博士号を、ドイツフランクフルトのゲーテ大学で博士号を取得。

2.SOMPOホールディング、富士通との提携

SOMPOホールディングとパランティアは、ビックデータ解析プラットフォームを展開するPalantir Technologies Japanを共同で設立、日本国内の企業、行政にFoundaryとGothamを提供する。
SOMPOでは、国内の損保事業、海外保険事業、国内生命保険事業に加えて、介護ヘルスケア事業などを手がけ、これらの事業で得られる事故や災害などの膨大なリアルデータを保有。これを活用することで「損害が起きた時に保証を支払う」のではなく、「損害が起きないソリューションを提供する」ことを目指す。
ティール曰く、日本に進出した理由は3つ。
・同社が欧米で実績を重ねたように、日本でも同社のテクノロジーで企業や組織が成功する支援をする。
・高齢化社会でアメリカより先を行く日本から学ぶ。
・日本とアメリカのパートナーとしての関係を国家レベルでも強化していく。
また、同社は富士通と日本市場におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)分野の強化に向けた協業の締結に合意。
富士通は、パートナーシップへのコミットメントを強固にするため、Palantir Technologies Inc.に5,000万ドル(日本円約53億円)を出資。
富士通は、パランティアの技術を自身のDXのコアと位置づけ、社内実践を進める。
また、将来的にスマートシティや防災減災などの様々な社会課題に取り組むことで、SDGsへの貢献を実現するデータプラットフォームサービスを創出していく。

3.製品

Gotham、Foundryの2つがあり、両者とも同じテクノロジーがベースだが、取り扱うデータで分ける。
最初のソフトウェア・プラットフォームであるGothamは、国防機関や情報機関のアナリスト向けに構築された。
その後、民間企業がデータを扱う際に直面する課題が基本的に国防機関のケースと似ていることに着目。民間向けにFoundryを開発。

Palantir Gotham
信号情報源、機密情報源のデータセットの奥深くに隠されたパターンを特定することが可能。
また、プラットフォーム内で特定された脅威に対する実世界での対応を計画し、実行することを支援する。
現在、政府機関で幅広く使用されている。
・公共セクター向け
・公共データを統合、管理、保護、分析
・情報分析だけでなく、防衛作戦、任務計画の作成に貢献
・オープンデータを含む公共データを統合管理・分析することで、公共サービスの抜本的な生産性向上が可能

Palantir Foundry
使用される特定の業界やセクターをターゲットにしたユーザー向けのアプリケーションで構成され、顧客のための中心的なオペレーティングシステムとしての役割を果たす。
・民間セクター向け
・社内外のデータを統合、分析、的確な経営判断と事業成功を導出
・社内外のデータを統合・分析して、的確な経営判断や事業モデルの発見を支援。製造・開発・生産・サプライチェーンの現場などに蓄積されているリアルデータ(センサーなどで得られる実世界データ)をもとに、デジタルトランスフォーメーションの促進を目指す。
・事例
クレディ・スイス:
同社が持つ40億人の加入者の取引記録や従業員情報データを統合・分析し、懸念取引の検知などに使用。マネーロンダリングの検知では、従来と比較してコストを20分の1に削減し、検知率が2倍に。世界の金融機関で導入が進む。
エアバス:
同社が持つ大量の製造プロセスデータ、納入先の航空会社が持つ運行データを統合する管理プラットフォームを構築。世界90社の航空会社が保有する6,000機の機体がプラットフォームに登録され、航空機の遅延が1割減少したほか、燃費を約1,300万ドル(約14億円)削減。

4.強み

・同社ソフトウェアは、政府レベルのセキュリティを民間企業に、民間企業の幅広い経験を政府部門に提供することが可能
・防衛・諜報部門へのサービスにルーツを持つ同社は、セキュリティ、安全性、透明性に対応
・プライバシー管理、データ保護、ガバナンスのための重要機能を提供
・米国、ヨーロッパや世界中の同盟国のみで使用されているという信頼性(米国の敵対国とは取引せず)

5.懸念点

目論見書での指摘含め、以下懸念あり。
・米中関係悪化に伴い、同社との直接取引のみならず、同社と取引のある企業と中国企業との取引を、中国政府が規制する可能性
・政府部門の予算削減、支出や予算の優先順位の変更、契約締結遅延による影響
・知的財産権の防御費用増大の可能性、損害賠償のリスク
・同社プラットフォームの機能不全リスク(故障、欠陥、バグなど)
・事業運営や買収に必要な資金調達のリスク

6.市場規模

目論見書によると、世界中の民間、政府部門向け同社ソフトウェアの潜在市場(TAM)を、約 1,190 億ドル(12兆5,000億円)と推測。
同社売上高(約10億ドル)は潜在市場の1%未満で、大きな成長余地あり。
・民間向けTAM:560 億ドル(5兆8,800億円)
世界の潜在的な顧客数に(年間売上が5億ドル以上の企業約6,000社)、組織規模と既存顧客の支出に関する同社内部データに基づいた潜在的顧客の想定年間契約額を掛け合わせて算出。
・ 政府部門向けTAM:630 億ドル(6兆6,200億円)
米国政府部門におけるTAM 推計は、国際通貨基金(IMF)が公表している財政統計を基に算出し、260 億ドルと推定。
米国以外の政府部門TAMは、類似の方法論で、370億ドルと推測。

7.決算分析

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2020年上半期は、36の産業の125社が同社サービスを利用。
政府機関向けは、米国および海外の同盟国における防衛および諜報活動に貢献。
民間向けは、エネルギー、輸送、金融サービス、ヘルスケア分野の企業が利用。
2019年売上高は、7億4,260万ドルで、2018年対比+25%。
2020年上半期売上高は、4億8,120万ドルで、前年同期比+49%。
2019年顧客1社当たりの平均売上高は560万ドル(前年比+8%)で、上位20社の顧客1社当たりの平均売上高は2,480万ドル(前年比+14%)。
上位3社合計の売上高は、2019年上期が全体の31%、2020年上期は29%にそれぞれ相当。
上位3社との平均取引年数は8年。
業績は改善しているものの、赤字が継続(2019年:5億7,960万ドルの純損失)。
売上高は増加傾向にあるものの、営業費用の負担が重く、黒字化の目処が立たない状況。

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2020年上半期売上高は、4億8,120万ドルで、前年同期比+49%。
2019年売上高の53%が民間企業向け、47%が政府機関向け。
米国国外で事業を大幅に拡大中で、2019年売上高の60%が海外顧客向け(40%が米国国内)。

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上位20社の顧客1社当たりの平均売上高は、2020年上半期に1,500万ドルへ増加(前年同期比+36%)。

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米国及び海外の政府機関との契約は、同社決算に大きなインパクトあり。
2020年6月末時点で、米国および世界の同盟国の政府機関から受注した契約のうち、契約上の義務およびそれらの政府機関が利用可能な契約上のオプションを含む契約残高合計は12億ドル。2018年末対比+74%。

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2019年12月31日時点の従業員数は2,391名。
うち、ソフトウェアエンジニア・その他の技術スタッフは929名で、プラットフォームの構築、運用、機能改善を担当。
研究・開発費の負担が重い。

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Contribution Marginは、事業の効率性を示す指標。
売上高から、売上原価と販売費・マーケティング費用(株式報酬を除く)を差し引いたものを、売上高で割ったもの。
事業全体と特定の顧客アカウントのそれぞれで、どれだけの利益を得たか把握するために使用。
2019年Q3以降改善。

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流動性は確保しているものの、累積赤字が増加。

8.総評

ビックデータ解析の潜在市場規模は莫大で、同社売上高は市場全体の1%にも満たず、今後更なる成長が期待される。
一方で、研究・開発費の負担が重く、黒字化の目処が立っていない。
累積赤字拡大が続く中、継続的な資金調達が不可欠。今後、資金調達に支障が出ないか注視の上、慎重に投資を検討の必要あり。

最後まで読んでいただき、有難うございました。今後とも個別銘柄に関する情報発信をしていきますので応援よろしくお願いします。

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