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ロバ先生
小三のある日、担任のロバ先生がいつものつまらなそうな顔で「福田君が骨折で入院したので、暫くお休みします」と言った。本当に、どうやったら足の骨なんて折るのだかまるで判然しない、こんなことではきっとろくな大人にはなるまい、とでも云うような調子である。
「みんなは、そんなことにならんように、気を付けんさいよ」
この先生は担任のくせに、寿司屋の倅ばかりを依怙贔屓する。そうして昼には寿司屋から出前を取る。段々顔がロバに似てきたのはそのせいだったろう。
夕方、松岡が電話をかけて来た。
「明日の昼から、中田君と三人で福田君のお見舞に行かん?」
翌日は土曜だから、半ドンだ。この当時は今と違って、土曜も午前だけ授業があったのである。
「行こうか」と答えて、行くことになった。
三人それぞれ見舞の品を買って、松岡のお母さんの車で行った。
「骨折って、足がどうなっとるんじゃろうねぇ」
松岡が云って目を輝かせた。
実のところ自分は福田の怪我にあんまり興味はなく、友達同士で見舞に行くということが面白そうで参加したのだけれど、松岡もまた、別段友人を心配してそう云い出したわけではないようだった。そうして中田は黙っていた。
福田の入院先がどこだったかはもう覚えていないが、結構大きな病院だった。町内にはそんな所はないから、隣町だったろうと思う。
病室へ入ると、福田のお母さんがいた。福田はベッドで横になっている。
足は二本ともあるけれど、片方は包帯でぐるぐる巻きにされている。触ると随分硬い。
「石膏で固めとるんよ」と、福田が言った。「この中がかゆい時に困るんよ。それと、外す時に電気ノコギリで切る云うけぇ、怖い」
「大丈夫じゃろ」と感心した風で言っておいた。大丈夫の根拠はない。ただ医者がそうするというのだから大丈夫だろうと思ったばかりである。
どうやって折ったのかと松岡が訊いた。自分も隣で聞いていたけれど、もう忘れた。
「パンツはどうしとってですか?」
「褌よぉねぇ」
母親同士の会話が聞こえた。
中田はずっと黙っていたように思う。
面会スペースで見舞の品を渡した。自分は当時流行り始めたチョロQを買っておいたのである。
福田はそれを手にとって眺めながら「これ、コクテツ色に塗ったらカッコええじゃろうねぇ」と言った。
コクテツ色と聞いて電車の色を思い浮かべたけれど、黒鉄色のことだったと後でわかった。
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