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先生と刑罰

 原田とは小6で交遊を始めた。彼は映画好きで、クリアケースに映画のチラシを差し込んだのを下敷に使っていた。
 この当時、自分はジャッキー・チェンの映画は随分観たが、原田はそんなレベルではなく、あらゆるジャンルの映画を観ているらしかった。
 ある時、原田に好きな俳優は誰かと問うてみたら、クリント・イーストウッドと返って来た。小学生にしては随分渋い好みである。
 すると横から和田がニヤニヤしながら、「クリキントン?」と言って来た。
「……」
「……」
「クリキントン?」
 和田はもう一度繰り返した。
 自分は原田の静かな憤りを感じて、きっと和田は便所の刑だろうと思った。
 果たして原田は粛然と、「お前、つまらん。便所の刑」と言い放った。
 居合わせた古澤と佐藤と増田と自分が立ち上がり、原田も含めた五人で和田の手足を掴んで宙吊りにした。和田はもちろん抵抗したが、こちらはそんなことには構わない。上靴を脱がせた後、和田を男子トイレの床に放った。
「おんどりゃー!」
 喚きながら出て来た和田が上靴を履く間に、自分達は「便所人間じゃー」「わー」「ぎゃぁー」「汚いー」と口々に囃して逃げた。和田は走って追って来た。捕まったらきっと便所人間になってしまう。

 ある時、ホームルームの時間に中澤先生が「便所の刑というのがあるんですか?」と云い出した。
「何か、両手両足を持って便所まで連れて行って、上靴を脱がせて床に放り出すらしいねぇ?」
「……」
「聞いた時はびっくりしたわ」
「……」
「わざわざ上靴を脱がすって……」
 6年生にもなって、バカなことは止めなさいと先生は云った。先生の顔は半笑いだった。

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