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具無しカレーの記憶
大学の帰りに学科の友人らと一度、正門前の “TARO” で食事したことがある。もう外が暗かったから季節は冬だったろう。
店主の奥さんがカレーライスを置いてキッチンへ戻った後、佐伯が「具が、無ぇ…」と言った。佐伯は女子だが、男のような物言いをした。
みんな別の話に夢中で誰も反応しなかったから、もう一度云うかと思って見ていたが、佐伯は云わずに食べ始めた。そうして「あぁ、美味い」と言った。やっぱり誰も反応しなかった。
具が見当たらないのはケチっていたわけではなく煮込んで溶けていたのだろう。この店のカレーは自分も何度か食べたけれど、普通に美味かったと記憶している。
※
TAROは自分が行きつけた店の1つで、焼き飯が美味かった。店主と奥さんが2人で切り盛りしており、店主はいつもキッチンでジュージューカンカンやっていた。奥さんは静かだけれどニコニコして感じの良い人だったのを覚えている。
卒業後、1年ぶりに行ってみたら会計の際に珍しく奥さんが話しかけてきた。
「今日はどうしたの? もう卒業してたよね?」
「休み取れたから久しぶりに来てみたんですよ。味が変わってなかったんで嬉しかった」
見るとご主人も奥から顔を出して笑っていた。
「あぁそうだ、俺いま、横浜のパスタ屋で働いてるんですよ」
「そうなん? 頑張ってね」
覚えている限り、この店の夫婦と会話をしたのはこの時だけだ。
その翌年には、もう別の店に変わっていた。
※
学科の友人らも年を経るごとに段々音信不通になっていった。佐伯とは2000年にメールでケンカをしたきりである。ケンカの原因が、そごうの副社長が自殺したニュースを巡る見解の相違だったと別の友人に話したら、「そごうの副社長が亡くなったからって、何でお前らがケンカするんだwww」とゲラゲラ笑った。自分もつられて笑った。
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