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うさぎの女王
四年ばかり前から、うさぎを飼い始めた。ミニウサギと呼ばれる雑種の雌である。
今でも健在で、まるで女王のように人を見下している。あんまり懐かない癖に、何か気に入らなければブーブー云う。それで最初につけた名前でなく、「ブー太郎」と呼ぶことにした。
後から別のペットショップで聞いた話だと、うさぎも種類によって性格が違うらしい。うちのは雑種の雌だと云うと、店員はそれは一番気性が荒いですよと、何だか気の毒そうな顔をした。
飼い始めの時に獣医から聞いた話だと、うさぎは甚だ弱い動物らしい。子供の頃、友達がうさぎを庭の小屋で飼っていたが、今はそういう飼い方だと夏の暑さですぐにやられてしまうそうだ。だからケージを室内に置いて、夏には誰もいない時でもうさぎのためにエアコンを点けている。
実に至れり尽くせりで、これでは自身を女王と勘違いするのも仕方がないように思う。
ずっと狭いケージに閉じ込めておくのは気の毒なので、昼間はウッドデッキに出してやる。本当は庭で自由にさせてやりたいところだけれど、ノミやダニを拾って来ると家の中が大変なことになるから、ウッドデッキまでで留めている。
ウッドデッキには、外へ出られないよう柵を付けてあるが、それでも最初の頃はしばしば、隙間を見つけて庭へ逃げ出した。
ある天気の良い日に窓から眺めたら、うさぎが立ち上がって植え込みの葉を食べていた。
「おい、ブー太郎が庭の葉っぱ食べてるぞ」
「あら!」
「あ!」
家族三人で追いかけたが、すばしっこいものだから一向捕まらない。昔から謂う脱兎の勢いとはまさしくこのことかと、身を以て得心した。
「そっちへ行ったぞ」
「これっ」
「待って!」
うさぎはしばらく我々を翻弄したが、一頻り跳び回って満足したのか、結局自分でウッドデッキに戻った。
とりあえず事なきは得たけれど、次はどうだかわからない。庭の外まで出て行かれたら、きっともう捕まらない。
自分は向後のために、百均で長い柄の付いた網を買って来た。これはいいねと、妻子も感心した。
これでもう大丈夫だろうと思ったが、果たして次の時には、うさぎはわざと茂みの中や狭い隙間に逃げ込んで、新兵器を容易に使わせなかった。それで自分は、網で捕らえるのを諦めた。
どうもこちらが思っているより悧巧らしいが、小さいから中に人は入っていないようである。
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