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同じキーホルダー

 子供の頃、浅草寺の土産物屋で伯父に家紋キーホルダーを買ってもらった。黒地に金で家紋が入っていて、恰好が良い。早速ランドセルに着けて学校へ行った。
 このキーホルダーをその後どうしたかは、さすがに覚えていない。いつの間にか、どこかへやってしまった。
 それから二十年後、仕事の用件で浅草へ行った。
 時間があったから浅草寺の土産物屋を覗いてみたら、全く同じ物がまだ売られていた。
 大いに懐かしい心持ちになるのと同時に、土産物とは随分息の長い商品カテゴリーだと感心し、今度は自分で買った。それから一年経たない内に鎖が切れてどこかへ落とした。

 飲み屋の店主をやっていた頃に、大学時代の友人が新婚旅行でグアムへ行った。
 友人夫婦は帰国するとうちの店へ関係者を集め、土産を配った。女性では免税品のブランドバッグや化粧品などを渡された人もあったけれど、バッグは行く前から金を渡して頼んでおいたものだろう。
 男性でフェンディのキーケースをもらった人があった。もらった側で随分驚いていたから、これは本当に土産だったらしい。
 自分はギターのキーホルダーをもらった。正直なところ、フェンディを見た後ではあんまり嬉しくなかったけれど、もらいものに文句をつける道理はない。奥さんは店のオーナーの娘だったからなおのことである。
「これ、俺のギターと同じやつだよ。わざわざ選んでくれたのか」と礼を云うと、「そうよ」と奥さんが胸を張り、友人は曖昧に笑った。

 それから十年後、今度は自分がグアムへ行った。こちらも新婚旅行である。
 最初の晩にハードロックカフェで食事をしたら、会計時にギターのキーホルダーをくれた。あの土産と全く同じ物である。
「これは十年前にも配っていたのですか?」と片言の英語で問うたら、女性店員がニッコリ笑ってイエスと云った。何がおかしいのだか一向わからない。
 店員がさらに何だかペラペラ喋るのを聞きながら、自分は腹の中が随分もやもやした。

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百裕(ひゃく・ひろし)
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