害意と裸体
盆に帰省帰省した際、母が幼稚園のアルバムを出して来たのを娘と一緒に見ながら、中田のことを考えた。
中田は年長組で一緒だった。
ある時、電人ザボーガーごっこをしていたら、自分のキックが中田の口に当たって出血した。急いで先生に云って、中田当人に謝って、それからどうなったかは覚えていない。
小三の時にまた同じクラスになった。一度、何だかケンカになって、手を出したら中田の口が切れた。
家に帰ると母から散々怒られた。中田の家から電話があったらしい。改めて母が電話をして、自分に受話器を差し出した。先方のお母さんが直接話をしたいとのことだった。
「この前もこういうことがあったよね? おとなしい相手に手を出すんは卑怯よ。それはわかっときんさい」
この前というのは幼稚園のザボーガーだろう。あれはケンカではなくわざとやったのでもないが、こちらが悪いのには違いない。すみませんでしたと謝った。
電話を切った後、謝りに行ってこいと母が言う。母は泣いていた。
謝りに行くと、中田のお母さんは自分の肩に手を置いて、「わかってくれたらええんよ」と言った。
アルバムには永山も写っていた。
永山は年中組で一緒だった。小二でも同じクラスになり、最初は伊神と三人で遊んでいたが、いつの間にかいなくなった。単に遊ばなくなったのではなく、学校からいなくなった。いつ引っ越したものだか、まるで覚えがない。
幼稚園で鋏の使い方を教わった時、永山は隣の席の女子の指を挟んで切った。女子は烏野さんと云う、日本人形のような子だった。
烏野さんは指から血を流して随分泣いた。永山は先生にひどく怒られた。
このことはきっと双方の親に連絡が行ったろう。烏野さんの親御さんがどんなに怒ったか、永山の親御さんがどうしたか、自分と中田の話もそうだけれど、考え出すと甚だどんよりした心持ちになる。悪意や害意があったかどうかは、やられた側には関係ない。
永山は一度、幼稚園のお絵描きの時間に先生のヌードを描いた。
「これ先生」と言って見せたら、先生は変な顔をした。