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じんましんが治った話。

世界には二種類の人間がいる。暖かさで幸福を感じる人間と、涼しさで幸福を感じる人間だ。私は圧倒的前者であり、幼き頃よりこたつ、温泉、日向ぼっこ、岩盤浴など、温かい空間が大好きであった。とくにこたつに関しては相当に好んでおり、1年のうち8割はこたつが稼働している。3歳のころには猫と一緒にこたつに全身潜り込んでいたし、大学時代にはこたつで睡眠を取ることが常態化していた時期もあったほどだ。そんな私に転機が訪れる。慢性蕁麻疹の発祥だ。社会人1年目の冬の出来事である。

「これはなかなか治らないので、まあ、うまく付き合っていきましょう」
医者にしてはファンキーな赤色のふちの眼鏡をかけた皮膚科医はこう言った。冗談はその眼鏡だけにしてほしい。どうやら、じんましんが発生する条件は人によってまちまちであるらしいが私の場合は、

・リラックスしている
・温かさを感じている

という2点の条件が揃ったとき、物理的な圧力が加わっている部分からじんましんが発生する様である。つまり、こたつでくつろいでいると、座っている足などからじんましんが広がってくる。じんましんを抑える薬を頂いたが、これは発生自体を抑えるものではなく、発生後に飲むと比較的早くに収まっていくという類のものらしい。

ストレスがきっかけで慢性蕁麻疹になる方は多く、会社でのストレスが原因かもしれないと赤眼鏡の医者は言っていた。なるほど確かに、社会人一年目の私はストレスにまみれたストレスだらけの、いわゆるストレスの権化であったといえる。
「あまり温まらない様に生活してください」
今、絶賛この赤眼鏡が私にストレスを与えてきている。この医者は人間をなめているのか。温かさこそが幸福であり、暖かさこそが正義である。こんな残酷なことがあっていいだろうか。まるで猫が大好きな人間が突然猫アレルギーになったかのような状況である。なお、私は猫が大好きであるし、猫アレルギーでもある。さすがに神様を恨む。いや、この場合私が恨むのは、会社か。

しかもこの慢性蕁麻疹というのは厄介なもので、いったん発生すると、そのきっかけとなったストレスを取り除いたとしても治るものではないらしい。実際、社会人3年目以降の、ある程度仕事自体にも慣れて、ストレスなく働けるようになった環境においても、私のじんましんは相も変わらず発生していた。もちろん猫アレルギーも治ってはいない。せめてどちらかは治ってほしい。なんなら猫アレルギーの方が治ってほしい。むしろ猫になりたい。

しかし人間とはよくできているもので、じんましん歴が1年も超えてくると、じんましん自体にも慣れ、その対処法も身についてくるものである。この頃にはYoutubeの広告くらいには頻出するようになっていたじんましんではあるが、じんましんが出ても「またか」くらいの感想しかなく、あまりにひどい時だけ薬を飲むという状態になっており、じんましんが出ながらも、こたつ、温泉、岩盤浴に行き続けてはいた。

人間、痛みに耐えるよりも痒さに耐えることの方が難しい。幸いなことにわたしのじんましんは、一晩寝ると朝には収まっていることがほとんどなので、じんましんが出た際は躊躇なく掻きたいだけ掻くという政策を取っていた。どれだけ悪化しようが寝てしまえばこっちのものである。掻きまくった後には、掻いた箇所は3次会終わりの30代後半サラリーマンの顔面くらいには赤くなっているものの、この政策を取ってからというもの、じんましん自体をあまり気にせずに生活できるようになった。私のじんましんも、サラリーマンの顔面も、一晩経てばすっかり元通りである。そのため、いつじんましんが出たとか、そういうことは全く覚えていない。

そして、これは先ほどこたつの中で5時間程むさぼるように昼寝をした後に気づいたことであるが、私の記憶が正しければなんと、驚いたことに、この夏以降というかこの家に引っ越してきてからというもの、一度たりともじんましんが出ていないのである。昨年の退職直後は、会社勤めのストレスから解放された冬であっても、じんましんは健在だった。平日の昼間からこたつでごろごろする喜びを噛みしめるとともに、じんましんの存在も噛みしめていたことは覚えている。その時は、やっぱ治らないよなー、と思っていたが、ストレスフリーの状況が長く続いたことが良かったのか、本当に全然じんましんが出ていない。

今この記事を書いている最中も、下半身はこたつによって温められ、上半身は背後の石油ストーブによって温められている。部屋の気温は凍てつく外気に反して20℃近くなっている。この環境でじんましんが出ないということは、これはもう完全に治ったといっていいのではないだろうか。神様、ありがとう。これで、この冬は、こたつの温度を最強にし、ガンガンに石油ストーブをたいて快適な田舎の冬をエンジョイすることができるだろう。こたつと石油ストーブさえあれば、すでに外気が0℃を下回っているこの地域であっても、かき氷を食べるのに最適な温度を維持することができる。こたつでかき氷、素晴らしい冬だ。

今思えば、なんてことはない、私のじんましんは、ただの労働アレルギーだったのかもしれない。いやはや、これでいよいよ働くことはもうできそうにない。働き出すとまたじんましんが出るかもしれないのでやめておこう。やはり労働は健康には悪いのだろう。あとは、神様、猫アレルギーだけどうにかしてください。本当にお願いします。

※追記
猫アレルギーに関しては、神様に祈るよりも、医療の発展に期待していた方が可能性は高いかもしれない。がんばれ、研究者。



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