ふたりの夏の、準備の話
「いよいよ、だね」
「ええ、いよいよですね」
福永せんせと2人、ノートに書いたチェックリスト。
夏服、下着、靴下、眼鏡…といった日常のものから、先日お迎えした大きなプリン型にフィルムカメラ、デジイチ、スケッチブックに水彩絵の具まで。
我ながら、なかなか様々だなぁと、見ながら思わず笑みが零れる。
「あ、笑ってる」
ふに、と福永せんせの指が私の頬を突く。
顔を見れば、玉あじさいの花のような優しい笑顔。
「いやぁ…毎年、やりたいことの分だけ荷物が増えるなぁって」
「いいこと言うね。荷物リストはやりたいことリスト、ってわけかぁ」
でしょ?と笑いかければ、柔らかく頭を撫でる感触。
そうだねぇ、と響く甘いテノールが、心地いい。
今年は、やりたいことがいっぱいある。
大きなプリンも「ふたりじめ」したいし、夏野菜で美味しいご飯も作りたい。
2人で草花の写真も撮りたいし、絵だって描きたい。
蛍も蝶も見に行きたいし、2人で本も読みたい。
歌を歌ったり踊ったり、夏祭りの花火を家から見たり。
ああ、それから水撒きも。
今年も夏の小さな映画会はあるのかな。
去年は確か…「天使にラブソングを」だったっけ。
やりたいことが溢れて、止まらない。
長い夏に。福永せんせと私だけの、離れの夏に。
「……ねえ、福永せんせ」
「……なあに?どうしたの」
「今年も、素敵な時間にしましょうね」
ささやかで、でも甘く優しい楽しみを浮かべながらそう言えば
「勿論だよ。今年も、一緒にいい時間にしようね」
夏に吹く風のような柔らかい声で、彼が返してくれた。
ああ、夏が来る。
私たちだけの、追分の、優しい夏が。