「渋谷区立松濤美術館 日本・東洋 美のたからばこ-和泉市久保惣記念美術館の名品」

渋谷駅の喧騒を背にローカルバスに揺られて、閑静でゆったりとした住宅街を抜けると、重厚でモダンな建物がひっそりと現れます。

建物に足を踏み込むと、何だかのんびりした感じ。静かな市立図書館を思わせます。

大阪の実業家、久保惣家の代々のコレクター達によってあつめられた名品が、何とも身近に感じられる距離で展示されています。

喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重の絵画、千利休の書、絵巻物、茶器や花瓶などの名器…。

歴代コレクターの趣味の幅が広いため、一貫したコンセプトで展示されているわけではないようなのですが、
気づくとすぐ側に国宝が置いてあったり、
素朴な展示室と距離感が何ともいい感じ。

チラシにも掲載されている国宝の花瓶(青磁 鳳凰耳花生 銘 万声 12-13世紀)は、代々天皇家や時の将軍家に守られてきた、とのこと。

そんな「たから」と一対一で対峙し、「ああ、徳川のあの人やあの人も、このくらいの目線できっとこれを愛で眺めたのだろう…数百年を経て同じ感動を、この花瓶を通じて共有できる幸せ…。」

と、「たから」と「当時の持ち主」と「現代の自分」が、時空を超えて三角点で結ばれた、というめでたい錯覚に囚われました。

歌仙の文字も、何が詠まれているのかわからないながらも、ただただ美しかったです。

全て鑑賞した後、今回の展示企画者の方が、なぜ「宝箱」と記載せず、「たからばこ」と表現したのか、すうーっと理解できた気がしました。

「宝箱」という漢字が想起させる「ギラギラした金銀財宝」という言葉よりも、

「たからばこ」という平仮名のもつ、「柔らみ」「おおらかさ」「一つの枠にはまらず限りなく自由で大切なもの」というイメージを、
展示される美術品たちに重ねたのではないでしょうか。

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