あなたのおひるごはん
こちらは少し前に書いた文章です。
ゴールデンウィークのお昼時、私は商業施設のレストランフロアを通り抜けていた。大型連休だけあって賑わうフロアには様々な音が響いていた。食器の触れ合う音、料理が焼けている音、そして人の話し声。たくさんの人が話しているはずなのに、その会話は私の耳に入ってこない。人々の声が、複雑に絡まった綿の塊をつくって、私の耳に当たっていくようだった。私の中に入ってくることのない音が、生ぬるいレストランフロアの空気と共に耳に当たる感覚を楽しみながら私は歩いていた。
そのとき、塊になり損ねた一粒の声が耳に飛び込んできた。
「ちゅるちゅるらーめんたべたいな~♪」
お昼ご飯への期待を膨らませた子どもの歌声に、私はついマスクの下で微笑んだ。そしてその子どもに思いを馳せる。
ラーメンが好きなのかな。おなかがすいているのかな。あなたにとってのラーメンは「ちゅるちゅる」しているんだね。
考えれば考えるほど、どんどんその歌が愛しく思えた。
この歌を歌ったこと、今日の夜には忘れているんだろうな。大きくなってもラーメンが好きなのかな。これから先、美味しいラーメンをたくさん食べられるといいな。ラーメンじゃなくてもいい、自分の好きな食べ物を美味しいと感じられる幸せをたくさん頬張れますように。
歌声を聴いただけの私を笑顔にしてくれた、名前も知らない、顔も見ていない小さなシンガーの幸せな未来を願う。
さて、帰ったら何を食べようかな。