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かくとだに
かくとだにえやはいぶきのさしも草
さしも知らじなもゆる思ひを
こんなにあなたに恋しているということだけでも言えませんが、ましてや伊吹山の(燃えるような)さしも草ではないけれども、私の想いがそれほど(燃えるように映るさしも草ほど)までに激しく燃えていると、あなたはご存じないでしょう。
【Google AI による概要より】
この和歌は藤原実方が詠んだもので、次のような意味になります。
現代語訳:
「こうだとさえ言えないのだから、あなたは知らないでしょうね。伊吹山のさしも草のように、私の思いが燃えていることを。」
要約:
「私の燃えるような思いは、あなたには伝わらないのだろう。」
この歌では、「さしも草」(よもぎの一種)が伊吹山に生えていることにかけて、「さしも知らじ」(きっと知らないだろう)と表現し、燃えるような恋心が相手に伝わらない切なさを詠んでいます。
【Chat GPTによる要約】
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「お兄ちゃん」
自分をそんな風に呼ぶのはこの子だけで、実の妹ではない。自分に兄弟はいない。
父のいとこの子供だから、はとこにあたるのか。血縁といえど遠い親戚。近くに住んでる事もあり、行き来はあったし。よく面倒を見てもいた。
13も離れてるから、「小さいお父さんみたいね」なんて言われて嫌だな…なんて、思ってても。あとからヨチヨチポテポテついてくれば、なんだかほっとけなくて。
まだお座りが出来るようになったばかりのうちから、大きな目をウルウルさせて「あぶー」とか言いながら、ちいさな手をこちらに向けて広げてくるから、抱っこして欲しいんだなと思って、すぐに抱き上げた。
友達も一緒になって、みんなでなんだかんだとお世話してたよな。
いつの間にか大きくなって、こっちはもう三十路だよ。いいおじさんだ。
それなのに、今でも「お兄ちゃん」と慕ってくれる。
じきに離れていくんだろうに。
私には、大好きなお兄ちゃんがいる。実のお兄ちゃんではないけれど、親戚のお兄ちゃんで。小さな頃からお兄ちゃんがいれば、私、怖いものなんか何もなかった。
夏にお化けのテレビ、みんなで観てる時も。お兄ちゃんにしがみついていれば怖くない。背中の方から怖い音が聞こえても、お兄ちゃんの首にぎゅっとしがみついて目をぎゅぎゅっとつむって、耳を塞いで貰ってれば、もう全然怖くない。
大きな犬がいたら、「お兄ちゃん」って言えば抱っこしてくれて。お兄ちゃんに抱っこされた私、犬より大きくなったから。もう怖くなくなった。
さすがに高校生になればもう、抱っこしてはくれなくなったけど。
でも、今でも「頑張った」と褒めてくれる時の、頭を撫でてくれる手は、とてもあったかくて優しくて心地よい。髪の毛には触るけれど、頭に触れるか触れないかで重さは感じない。でも、お兄ちゃんの手の温もりは伝わってくるの。
「お兄ちゃん、大好き」って言う。するとお兄ちゃんがふわっと笑ってくれる。それも好き。大好きよりもっと好き。でも、それは言わない。
言えば、もう頭を撫でてもらえなくなる気がしてる。なくなってしまう。なんとなくそう感じてる。
だから、内緒。
ある日、寒さが緩んだ街で、お兄ちゃんを見掛けた。声をかけようとしたら、綺麗な女の人と一緒だった。
…お兄ちゃん、いつもの感じじゃなくて、知らない人みたい。スーツだからかな…。
…なんで、なんでそんなに2人の距離が近いの?肩に触れるくらいに?
…ああ、そうか。お兄ちゃんの特別な人なんだ。
そう思ったら、なんだか急に、胸がぎゅっと締め付けられるような感じになって。
見つからないように。そっとその場から離れた。
夏。親戚の集まりの時。お兄ちゃんが女の人と別れたって、おばさんが話してた。おばさん、「…娘になるかもしれないと楽しみにしてたんだけど。ご縁がなかったみたいで仕方ない」って。
急いでお兄ちゃんのところに行った。
お兄ちゃんは縁側で柱に寄りかかって、ぼんやり庭を眺めてた。
「…ごめんなさいね…」
普段、はきはきとした口調で話すはずの彼女が、震える声を抑えてそう言った。合わせた眼はそらさなかったけれど、潤んでた。
訳が分からなかった。
「…ごめんって? なにが?」
口の中が渇いて、声が少し嗄れた。
なぜか、彼女がいつもよりもずっと華奢に、儚く感じられた。だけど、側に寄ろうとしても、強い拒絶を感じて。近寄ることも、手を伸ばすことも出来なかった。
手を胸の前で、指が白くなるまで固くぎゅっと組み、薄紅色の唇を震わせて、
「私は、
…誰かの代わりには、なれないの」
と、続けた。
「そんなこと…」
と、言いかけて、言葉を止めた。
本当に、彼女を誰かの代わりにしようとしてはいなかったか?そろそろ年頃だから、身を固めようと心に決めて。
自分を観ていてくれる、聡明な彼女なら、きっと幸せになれるだろう、幸せに出来るだろう、そう思って…。
…自分は、この人のなにを観ていたんだろう。
いつも笑顔を絶やさなかったこの人を。瞳の奥には、いつでも自信が溢れていたと思っていたのに。
伏せられた目には、いまにも零れ落ちそうな涙。なにかを諦めた、こんな表情は知らない。
…この人は聡明だ。だから、だからこそ気づいたのか。
瞳を上げた。
潤んではいるけれど、いつもの強さが戻っていた。
しっかりとこちらを見据え。1歩下がって。
「さよなら」
そうして踵を返して去っていく、振り向きもしない背中。
自分は身じろぎも出来ず、小さくなっていくその背中を、ずっと見送る事しか出来なかった。
ずいぶんと長いこと、物思いに耽っていたらしい。日が暮れ始めた。
…この子、いつの間にか隣に座って、庭を眺めてたのか。
…手を伸ばして、そっと、頭を撫でた。