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きれいなままの恋ごころ
忘れられない恋がある。
それは、何年経っても色褪せず、つるんときれいで新鮮で、時々思い出して胸が鳴る。
高校一年生の夏、義務教育を終えて着られてる感がある制服に身を包み混み、私は少しだけ大人になっていて、そんな私には好きな人がいた。
頭が良くて背が高くて優しかった。足が速かったかどうかは分からないけど、小学生ではないのでそんなことは気にならなかった。とんでもなくイケメンではなかったけど、中身重視の現実主義な私にとってはそんなことは気にならなかった。
2人でお祭りに行く約束をした。
だからきっと、両思いだったと思うし、実際に両思いだったという話は、この恋が終わってから聞く羽目になる。2人でお祭りなんて両思いがやることなのだから、そういうことなんだと思うべきだったし思わせるべきだったのだ。
約束のお祭りは大雨で中止になった。
だけどそれで終わるような恋ではなかった。
2人の心はもうメラメラに燃えていた。
ひと月ほど経って、別のお祭りに2人で行った。大雨で中止になったのは好きな人の地元のお祭りだったから、今度は私の地元のお祭りに行った。
神社の入り口で待ち合わせをして、ドラえもんの形をしたベビーカステラを買った。「静かなところに行って話そうか」と言われた。私は、好きな人に好きって言ってもらえるような予感がした。
真夏に、熱々のベビーカステラを持って、心を燃やしながら、人混みをくぐる、くぐる、くぐり抜ける。
静かなところにパイプ椅子が2つ並んでいた。仕込みを疑うようなこの展開に私の心は最大限に燃えている。
好きって言われて、私も好きって言って、ベビーカステラなんて喉を通らなくて、「なんでこんなの買ったんだろうね」「食べれなかったね」とか言って笑って、半分こにして手をつないで帰るんだ。帰ったら、にんまり顔が抑えられなくて、お母さんに何があったか問い詰められる夜なんだ。明日の朝、ちゃんと目を見ておはようって言えるかしら?楽しいおしゃべりを楽しくできるかしら?かしら、かしらが溜まっていく。
そんな心配とは裏腹に、好きな人の口から好きという2文字は出てこなかった。沈黙が続いた。時々世間話を挟んだ気もするけど、耳には何も残らなかった。
何か始まると確信していた夜だけど、何も始まらずあっさりと終わった。でも私はそれでも好きだから、恋に落ちたから、落ちてしまったから、帰り際に買ってもらった綿あめの袋は、家に帰ってきちんと洗って乾かして、何年も机の中に眠っていた。何度も眺めた。もしも付き合うことができていたら、あの日好きって言うことができれば、たらればだけが喉から出かかっては飲み込み、飲み込んだたらればは、胸にもやもやと残り続ける。
それからしばらくして、私の好きな人は私じゃない人と付き合い始めた。私も別の人と付き合い始めた。
あの夏
大人だと思っていた私はまだ子供だった。
足が速いから好きになったわけではないけれど、頭が良くて背が高くて優しいだけで恋に落ちた。
惚れたのでもなくて、愛おしんだのでもなくて、慕ったのでもなくて
真っ直ぐに、青く青く、落ちたのだ。
好きなまま終わる恋ほど青いものはない。